第4話 その場にため息だけを残して

「いつになったら勝てるの?」

「今、ノエルに勝てる人なんて少ないよ」

「そうでもないよ……」

 軽くご飯を食べた後、腹ごなしがてらに近くの公園で魔術の対戦をしているノエルとナツ。高度魔術を使いナツを倒すノエルに、通りがかりの人達が興味深げに見入っている。人々の視線を感じ、ノエルが、はぁ。とため息をついて魔術を唱えようとしていたのを止め、地面に座っていたナツに手を差し出した

「やっぱり何かあった?様子変だよ」

 差し出された手を取り立ち上がりながらノエルに問いかけるが、返事はなく立ち上がってすぐナツの手を離した時、人混みの一人の女性が二人の所に近づいてきた


「ノエルさん。探しましたよ」

「メアさん。別に探さなくても良かったのに」

 若い女性が困った顔でノエルに話しかけた。その人を見てノエルが不機嫌そうにため息をつきながら返事をすると、周りにいた人達がざわめいている

「私も一緒に行く?」

「大丈夫。練習でもしていて」

 心配そうに聞くナツの肩を軽く叩いてメアの方へと歩いていくノエルの姿を、人混みの中を青い髪の女の子が不安そうな顔で胸の前で両手をつかみ見ていた






「では、ノエルさん。今日一日の記憶を渡してください」

 ナツと別れ、とある施設の一室でメアにそう言われ一冊の本を渡されたノエル。本を受け取り目を閉じると、ふわりと髪が揺れた。両手に持っていた本が一瞬光り、ユラユラと揺れていた髪がゆっくり止まり、ふぅ。と一つ深呼吸をして手渡された本をメアに返した

「今日もいつもと変わりませんね」

 返された本を開いてページを確認して、ニコリと微笑み言うメアの前には、ため息をつく初老の男性達が立っていた

「やはり嘘なのでは……」

「そうだな。大分日も経ち、記憶も危ういだろうしな」

 不満そうに話し合う男性達の話を、ノエルが睨んで見ている

「今日の記憶を渡したので、私はもう帰ります」

 鞄を取り、入り口の方へと歩くノエル。バタンと強く閉じられた扉を見て、老人達がまた、はぁ。とため息をついた

「本当にアオイなんて娘がいたのか?」

「文献とあの子の過去を見る魔術だけの存在だ。誰が信じるか」

「しかし、あの子は我々をも越える魔力を持つ魔術師だ。安易に信じないなどは」

「だが、記録の魔術がああだとな」

 と、話をしているとメアがペコリと頭を下げ本を持ったまま部屋を出た。パタパタと廊下を歩く足音が聞こえなくなると、部屋に残った老人達も部屋を出るため次々と魔術を使い姿を消し、最後に残った一番若い男性も、魔術を使い部屋を出るため唱えはじめると、ほんの少し違和感を覚えて右手を見つめた

「こう話している間も、この世界が日々変わりつつある。本当に急がないとな」

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