第270話 終焉(4)

「おい! 離せ! 離してくれよ! お願いだ!」


 俺は叫ぶ! 嘆願をする! 警察! お巡りさんへとね!


 自身の身体を何とか病室内へと戻そうと、冴子佐奈が入院をしている部屋の前で彼等に抗い、抵抗も試みようとした。


 でも多勢に無勢だよ。俺一人がお巡りさん達へと抗い、抵抗──。冴子佐奈が横たわるベッドの傍へとまた戻り、アイツの身体を揺らし、目覚めさせようにも、それはもう出来ない。不可能なことだと悟るから。


 俺は後ろを振り向き──。冴子佐奈が横たわるベッドの方を見詰めつつ。


「佐奈ー! 佐奈ー! 起きろー! 起きるだー!」と、俺は懲りもしないで、また意識が無いアイツ……。


 いや、そんなことはない! ないはずだ!


 佐奈冴子の奴……。


 そう、冴子佐奈の魂が、この部屋に入るのを俺は、自身の二つの瞳で見て、確認をしている。


 だから冴子佐奈は意識がない訳ではない。ただアイツ、冴子佐奈自身も、どいしたらよいのかわからないから狸寝入りをしているだけ。


 だから俺は更に、自身の口を開け。


「佐奈ー! 起きていることは~、俺にわかっているんだぞー! だから起きろー! 今直ぐにー! そして俺ともう一度話をしようー!」と叫ぶ、吠える。


 だからお巡りさん達は「クス」だよ。


 俺のことを真面な人ではない。気が触れた可笑しな人、人物だと。俺のことを鼻で笑う。


「おい、君! そんな事を言って叫んでも彼女は、事故を起こしてから、一度も目を開けてはいないらしいじゃないか」と、嘲笑いも付け加えてね。


「だから、君。叫び、呼ぶだけ無駄だよ」とも、笑いながら諫められた。


 そして「ほら、行くぞ!」と、手錠をかけられた俺の二の腕を強引に引っ張られた。


 それでも俺は他人……。警察の人達やお医者さん、看護師の人達に更に可笑しな人物、気が触れた人物だと思われようが。


「お巡りさん達、本当だって。俺はこの部屋に先ほど、佐奈冴子が入るのを見たんだ!」と叫び、吠える。


「だから私達が先程から君に何度も尋ねているだろう? その冴子って名前の女性は誰なんだ?」と。


「君が冴子と言う名の女性がこの部屋に、自分よりも先に入室したと言うわりには。君と被害者の女性の姿しかないではないか?」と。


「冴子と言う名の女性は何処にいるのだ?」と、お巡りさん達は苦笑いを浮かべつつ俺にまた尋ねてきた。


 だから俺はまた「冴子は佐奈の身体の中にいる」と説明……。


「冴子は佐奈の生霊で魂なんだよ!」、


「本当なんだよ!」、


「お巡りさん達、信じてくれよ……」と。


 俺は懲りもしないでまた嘆願をおこなう。


 だから「けらけら」と笑われるから。



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