第259話 憤怒!【怒り!】(1)

 カラ、カラ、ラララ……と、扉を静かに開け──。ソォッと部屋の中へと侵入した俺は。カラ、カラ、ラララ、トン! と扉を優しく閉めた。


 でッ、その後は、トン! トン! と、俺はできるだけ足音を立てずに冴子佐奈が躯のように横たわる病院のベッドへと近づくのだ。自身の魂である冴子が憑依して戻っているだろう佐奈の奴が、俺の気配に気がつき、眼を覚まさないようにね。


 そう、まずこの病院内で、冴子佐奈を知る。様態を知っている者達からは考えられないことである。冴子佐奈の奴が急に眼を開け、あれを! これを! アイツの左の腕、手、薬指に今日も、佐奈冴子が大事そうに装着していた婚約指輪魔法のリング……。


 今日俺は、猜疑心が減った、無くなった、佐奈冴子の奴に、『冴子、お前、その左手の薬指につけている指輪を外すことはあるのか?』と、平素を装いつつ尋ねた。


『……ん? この指輪を外す事はないけれど。それがどうかしたの、新作?』


 佐奈冴子の奴は俺の問いかけに対して首を傾げ、尋ね返してきたから。


『うぅん、何でもない』と、俺は微笑みながら言葉を返して、『俺が新しい指輪を買ってやろうか?』とも、一応は尋ね、佐奈冴子の様子を窺った。


『うぅん、いらない』と。


『うちはこれ、この指輪が、何か気に入っているから。これで良いよ。元の持ち主には悪いけれど。この指輪の事がうちは気に入っているから』と。


 コイツ! 冴子佐奈の奴は、自身で自爆! 墓穴を掘ったのだ! 俺が婚約指輪に気がついていないと思っているからね。


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