第257話 首を傾げる人達(1)

「あの、冴島佐奈の面会にきたのですが」


 俺が慌てて佐奈の入院する部屋へと駆け寄り、飛び込むように入室しようとするのを阻止──。止めた看護師の女性へと俺は、にへらと笑いつつ告げた。


「えっ!」


 するとその看護師の女性ひとは、俺の予想通りの反応を示してくれる。


 そう、自身の両目を大きく開けつつ、驚嘆を漏らし。その後は呆然、唖然だよ。自身の口が閉まりなく開いたままになるから。


「あの、どうしたの?」


 その人よりも少しばかり年齢が年上に見える、看護師の女性ひとが、慌てている俺に掛け声をかけとめた女性ひとへと声をかけ尋ねる。


「えっ、あの、この外来の方が、冴島さんのお見舞いに来たのだと告げてきたのでついつい」と告げ、説明をすれば。


「えっ!」


 後からこちらの様子を窺うようにやってきた看護師さんの口からも驚嘆が漏れるから。


(ああ、やはりな)と、俺は自身の脳裏で思い。まあ、俺が以前から思案して、何度も口ずさみ練習を重ねたシュミレーション通りに慌てることもなく。俺は看護師さん二人へと平素を装いつつ。


「入院している冴島加奈は僕の婚約者だったのですよ」と告げ。


「佐奈のお母さんにお会いした時に、事情を聴き、許してやって欲しいと。仕事帰りでもいいから、佐奈のお見舞いに行ってやって欲しいと頼まれまして」と説明する。


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