第127話 俺の場合は(31)

「そうなんだ」


 冴子がここでやっと俺に声をかけてくれたから。


「うん」


 俺は俯きながら頷いた。


「ごめんね……」


 そんな俺に何故か冴子は謝罪をしてくる。


 だから俺は本来は、ここで深く思案……。


 何故、冴子は俺に? 何故だろう? と、深く思案をしないといけないはずなのに。


 俺自身がまだ放心状態……。


 自身の元婚約者だった佐奈への罪悪感……。


『本当にすまない』と思う気持ちでまだ胸が一杯だったから。


 俺は、このことに関して深く思案をしないで。


「うぅん」と言葉を漏らしつ、首を振った。


 ギュ!


 すると冴子が、俯き、相変わらず泣いている俺にハグ──。


 俺を抱擁しながら優しく、頭を撫でてくれ始める。


 それも冴子の口から。


「ごめんね」、


「ごめんね」、


「本当にごめんなさい」、


「新作には悲しく、辛い思いをさせたね、本当にごめんなさい」と。


 やはり冴子の口から、こいつは、別に悪いことを俺にした訳でもないのに。


 冴子は何故かまた俺へと、謝罪をしてくれたのだ。


 でも俺は冴子が自分へと、何度も謝罪をしてこようが、やはり気も留めずに。


 冴子の胸で、甘えるように男泣きを続ける。


 何故か俺自身、大変に懐かしさを感じながら。


 それが何で懐かしいのか?


 俺は最後までわからないまま、佐奈の胸の中ではなく、冴子の胸の中で。ワンワンと気が済むまで泣き続けた。



 ◇◇◇




(お願い)


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