第124話 俺の場合は(28)

 冴子は「…………」と。


 このように、俺の言葉に対して反応を見せないで、何故か俯き始めるけれど。


 俺は別に気にした様子も見せずに、自身の口を開き。


「だから俺さ、振り返り。『はぁ? お前なぁ』と、アイツに呻ると同時に。アイツ俺の片足を掴んで、抱きついてきたんだ。俺と別れたくない、嫌だ。嫌だ。捨てないでくれってさ。俺に内緒で他の男と会い、SEXして、優艶に腰を振りつつ、喘ぎ、鳴いていた癖に……。それもさ、俺にしっかり見られているにも関わらず。俺と別れたくない。捨てないで、許してくれと。自分は部長! あの男を愛撫やSEXしている写真や動画を俺に見せると脅されて、一度だけやらしてくれと言われ。そのために裏切っただけだから。俺のことが嫌いになった訳ではないと。俺のことだけをちゃんと愛しているから許して欲しいと。俺に本気か嘘かわからない話……」、


「そう、冴子から話を俺が聞くまでは。アイツの俺に言った話しが全部嘘偽りであり。俺への只の言い訳だと思っていた話しをアイツは泣きながら必死に訴えつつ謝罪、嘆願……。懺悔を俺に必死に言って乞うてきたよ。アイツ俺に何度も蹴られようとも……。アイツはさ、気が触れたように泣きながら、俺に許しを乞うてくるから。俺さ、最後にはアイツのことが怖くて。酷いことだとは思ったのだけれど。俺アイツのことを思いっきり蹴り、吹き飛ばし。その隙にさ、慌ててアイツから逃げた。逃亡したんだ。するとさ、アイツ。自分のマンションから裸のままで外へ出てさ。泣きながら、俺の名を呼び、後を追っかけてきたんだ……」、


「だから路上を歩いている人達や車を運転している人達もみな驚愕して、慌てて止まってね、裸体で歩道にへたり込み、泣き叫びつつ、俺を呼ぶアイツに歩み寄って声をかける姿や。歩道を歩く人達も俺のことを『彼氏さん、ちょっと』と、言いながら呼び止める声も。俺の耳へと聞こえたけれど。俺はアイツが怖くて、とにかく逃げた。そして騒ぎが収まるまで、自身の身を建物の影で潜めたような、本当に汚い男なんだよー! 冴子ー! 俺はー!」と、車内で叫ぶと。


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