第116話 俺の場合は(20)

「だから、その衝撃でアイツの体内にあったクソ部長の絆がやっと抜けたよ。あの阿保は完全にベッドから落ちたからな」、


「わっ、ははは」


 俺は冴子に気が振れた者のように高笑いした。


 でも俺の元婚約者と、元会社の上司への恨み辛みはこんなことでは収まらないから。


「でッ、その後はさ。冴子? 俺を騙した女だけに天誅を与えると言う訳にはいかないじゃ、ん? 俺別に警察に捕まっても、関係ないわ! 刑務所入ってやるって! 俺は本気で思っていたからさ。俺に怯え、震えている部長に。今度は女の代わりに俺が馬乗りだよ! あのクソ男の顔を一方的殴り回してやったよ! もうそれこそ? 部長の顔の形が変わるくらい? 『クソー! ぶっ殺してやるー!』とか、俺は吠えながら。部長が許してくれと言っても、俺は殴り続けたよ。その間にさ、俺の婚約者のフリをしていた阿保が、何度も止めに入ってきても。俺は殴り続けたよ……」、


「するとさ、アイツ? 俺に阿保なことを言ってくるんだって……。俺の人生が、このクソ男と自分のために台無しになったら大変だから辞めてって、調子の良い事を言いながら止めてきたよ。もう既にあの時点でさ、俺の人生、生涯プランってさ、あの二人にグチャグチャにされているのにさ。アイツは俺に調子のいいことを言っては、自分の大事な男が殴られるのを見詰め続けるのが忍びなかったのだろう。自身の身体を張って止めにきたから。俺も殴るのを辞めたよ。多分俺? アイツのことが可哀想になったのか? 自分の大事な男が殴られ続けるのを見るのは、誰でも忍びないよな、確かに? とでも思ったのかな? でもさ、煩いとか言って、アイツの手を振り払い殴った気がするよ……」とまで。


 俺は冴子に説明をしたところで、また俯き沈黙……。


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