第55話 嘆願(1)

「お兄さん……」


「な、何、お姉さん?」


 俺が先ほどいらぬこと、余計なこと。


 山下のお姉さんに聞いてはいけない、尋ねてはいけないこと。


 彼女のプライベートの中も、細心の注意が必要だったこと……。


 山下のお姉さまがいつものようにケラケラと日輪、ひまわりのように笑ってくれながら、冗談交じりで。


 ちょっとした世間話として話せる日が来るまで聞いてはいけない、尋ねてはいけないことを、俺は地雷として踏んでしまったから。


(ど、どうしよう?)と。


(俺、山下さんに変なことを聞いてしまった……)と。


(う~ん、指輪のことは尋ねるべきじゃなかった)とも、俺は後悔しながら、脳裏で嘆いていると。


 山下のお姉さまが俺を呼ぶから。


 俺は、にへらと笑いつつ、彼女へと注目──。


 やはり、髪が乱れ、女性の弱い面を表に出す、山下のお姉さまは、誰かに似ている? 一体誰だろう? と。


 俺は思いつつ、彼女へと返事をすれば。


「お兄さん、今からうちの嘆きや悲しみ。そして苦痛な聞を軽蔑、呆れかえらないで聞いてくれないかな?」と。


 やはり山下のお姉さまは、俺に笑顔を見せずに、今にも泣きだしそうな顔で尋ねてきた。

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