第20話 すすり泣く、女性の姿は(5)

 だから俺は「だな」と呟きつつ、松原の背を追いかけ歩き始める。


「それにしても、あのストーカー女、マジで足が速かった」と。


 俺が松原の背を追いかけるように歩き始めると。


 松原がケラケラと笑いながら俺へと尋ねてきた。


「うん、そうだな」


 でも俺は、また女を捕らえることができなかったので、落胆しながら松原へと頷き、言葉を返した。


 そんな俺の背を追いかけるように直樹と秀樹は無言で、足早に追いかけてくる。


(ああ、今回もストーカー女を捕まえることができなかったな……。何で、あの女。あんなに足が速いのだろうか?)


 俺は自身の脳裏で呟いた。


 だっていつも、そうなのだが。


 俺に対してストーカー行為? 悪戯行為? をしてくるあの女は。


 マンションの階段までは足音を確認できるのだが。


 それ以降……。


 そう、俺が賃貸で借りているマンションの前の道路まで出ると彼女の背……。


 最初にあの女性の背を点で見ただけで。


 それ以降は彼女の背を確認出来ないで俺はいる、だけじゃない。


 あのストーカー女の足音も確認できなくなる。


 そう、まるで彼女の姿が、マンションの正面入り口で、煙のようにスゥと消えたかのように。


 俺の視界から消える。


 それも今回は俺一人ではなく、松原や直樹、秀樹の視界からも急に消えてしまった。


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