第7話 女性の啜り泣き(6)

「し、新作……。儂の瞳には、実は最初っから、何も映っていないのだが。一体、どう言う事なのだ?」


 親父は、本当に血の気の引いた顔で、俺へと尋ねてきたよ。


「新作、お前……。先程儂と母さんが告げた通りで、一度心療内科へと通う方が良い。新作、お前は……」、


「それに新作、お前は? 女性の啜り泣きが聞こえるようになってから。夜の方も余り眠れていないのだろう? だから尚更お前は、心療内科へと通い。先生に相談をして薬を処方してもらう方がいい。分ったな、新作?」


 親父が玄関の外で俺に、心の病を患っているから、心療内科へと通うように告げてくる。


 でも俺は正気だ! 心の病の方も患ってなどいないから。


「俺、大丈夫だよ」と。


 俺はにへらとわらいつつ親父さまに告げ。


「親父は、あの女の姿が見えないの?」


 俺は微笑みつつ、優しく、ゆるりとした口調で尋ねる。


「儂には、始めっから声も聞こえていないし。姿も見えてはいないよ。新作」、


「だから儂は、お前が誰に怒声を吐いているのか、不思議でならなかった」と。


 親父さまは強張った顔で、俺に告げてきたから。


「俺もそうなんだ」と言葉を返すと。


「お父さんと新作……。玄関の外で話しをしていたら近所迷惑だから。部屋に入りなさい」と。


 お袋さまも俺に対して困った顔しているから。


「今度、元会社の同僚か? 学生時代の知人に来てもらい。見て、様子を窺ってもらって。それでも女性の姿が見えなければ。俺は病院へと通うよ」と、二人に告げる。


「ああ、その方がいい」


「新作には、あの件もあるから、女性の姿……。見えない者が、見えるのかも知れないから。病気が酷くなる前に通ってね」と。


 俺のお袋さまが、本当に心配をした顔で告げてくるから。


「ああ、分った」と。


 俺はやはり、にへらと笑い誤魔化しながら二人へと告げる。



 ◇◇◇



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