3-5

ギイイィィ・・・

「わははっ!!よくぞ来た。ゆう・・・・ワシのダンジョンに痴漢だとぉ!?」

「誰が痴漢だ!?」

扉を開けると待ち構えていた大男は俺の姿を見るなり、驚愕の顔をしながら汚い者でも見るような目線を向けてこられ、思いっきり睨み返してやる。

「俺が勇者テオだ!!」

「ん? んんぅ? そ、そうか。勇者よ!!その・・・その年で露出狂はどうかと思うぞ?砂漠だと火傷するし・・・え、ええい、話が進まぬでは無いか!!服を着ぬか!!」

「誰のせいだよ!?」

敵に心配され、俺は涙目になりながら怒るとフェルから着替えを受け取ると、さっさと服を着込んでいく。大男は大きく咳払いをすると、指を鳴らし、俺たちの前には牢屋の中に入れられているエルムが姿を現し、すぐに牢屋の扉が開く。

「さあ、三人まとめてかかってくるが良い!!」

「へぇ・・・てっきり人質にするのかと思ったら、意外と騎士道精神があるんだな」

「ふんっ、お前らのような雑魚に策を弄する必要など皆無!!」

こちらに駆け寄ってくるエルムにホッとしながら、特に怪我がなさそうな事に安堵する。

「大丈夫か?」

「うん、耳が疲れた以外は大丈夫だよ」

「?」

若干げっそりしたような顔をしているが、元気な事に安心しながら俺はフェルの方に視線を向ける。

「フェル、俺たちの武器は?」

「・・・・はい」

「ありがとう。フェルは怪我、大丈夫?」

「うし、お前は下がってろよ。まだ怪我が良くなってないだろ」

「・・・・・うん」

武器を渡された俺たちは小さく頷き合い、フェルに声を掛けて頭を撫でると頬を赤くしながら後ろの方に下がっていく。後はエルムを誘拐した落とし前をつけさせて、他の四天王や魔王の情報を聞くだけだ

「んん? まさか、たった二人でワシに挑むつもりか!?」

「ふんっ、お前なんて俺たち二人で十分だ!!」

「その心意気やよし!!かかってこぉい!!」

剣を構えた俺に大男は笑みを浮かべながら、エルムが矢を射るのと同時に俺も一気に距離を詰める。まっすぐ飛んできた矢を大男は口から炎を出して灰にした隙に、横から死角に回った俺の斬撃は腹部を確実になぎ払ったが・・・

「んなっ!?」

「効かぬわ!!フレイムブレイク!!」

「くはっ!?」

「テオ!?」

剣は男に当たると同時に溶けるように折れてしまい、驚いた一瞬の隙に至近距離からの攻撃魔法が胸に直撃して吹っ飛ばされる。全身が熱さと痛み、息をする度に灰が焼かれるような苦しさに視界が歪むが、すぐにエルムの回復魔法で痛みは引いてくれる。

「はぁ・・はぁ・・・やべぇ、あいつ強ぇ・・・」

「うん、四天王っていうだけあるね」

「ふふん、ワシの強さをようやく理解したか!!」

偉そうに腕を胸の前で組み、余裕の笑みを浮かべる大男を、俺は溶けた剣の使を握りしめながら睨みつける。もう使い物にならない剣だが、素手で殴りかかるなんて論外な以上は頼らざる得ない。

「テオ、ボクに一つ案があるんだ・・・」

「?」

「今の君となら、きっとできると思う」

「おう」

エルムの言葉に俺は小さく笑みを浮かべ、一気に勝負に出ることにした。



遠目から戦いを見守りながら、僕は勝負に出た二人をハラハラしながら見守る。すぐにでも手助けしたい気持ちを抑えるのが予想以上に難しくてもどかしい。

「行くぞ!!」

「折れた刃でまだ挑むとは愚かな!!」

「てやああぁ!!」

まっすぐ向かっていくテオに四天王は余裕の笑みで、迎撃する態勢すら見せようとしない。だが、魔物として実力差を誇示するという行為は正しいのだが、今回はそれが命取りとなった。

「ウォータシュート!」

「莫迦め!!仲間にあたるぞ!!」

四天王の言葉通りに、大きく振りかぶったテオの剣にエルムの魔法が直撃し、剣は水の魔力を吸収して折れた刀身の先を刃へと変えていく。

「なにぃ!?ぐっ・・ぐはあぁ!!」

世にいう魔法剣というのは、このゲームにも存在する。

魔力操作で剣にまで魔力を伝達させたテオと、エルフ特有の魔力感知で、剣の魔力量を判断して吸収できるように威力を調整した事で、無事に魔力を吸収して武器の力を宿させた二人の『れんけい』だ。

この『れんけい』はゲームでもかなり重要で、高レベルにならないと使えない全体回復や補助も『れんけい』を駆使することで使える他に、序盤だとは思えないダメージ量をたたき出すのだ。

「あ・・あぐっ・・がはっ・・・」

代わりに使った後は『れんけい』した対象は1ターン行動不能になったりするのだが、それを差し引いても恩恵があるのは、致命傷を受けて吹き飛んだ四天王を見れば明らかだろう。

「はぁ・・・はぁ・・・へへっ、エルム・・・」

「うん。やったね!!」

物質にまで魔力を通わせるという技術に、まだ慣れていない事もあって動けなくなるテオに、エルムは額から汗を流しながら笑いかける。二人の様子を僕は遠目で眺めながら拍手を送りたいが・・・

それよりも、さっさと止めを刺すべく四天王へと近づいていく。

「はぁ・・はぁ・・・お、おのれ・・・むうっ!?」

「え?」

「う、うそっ・・・?」

袈裟切りされて傷口から命の源である魔力を流し続ける四天王の傍に、いつの間にか複数の炎の球体、そして人型の形をした炎たちが一斉に集まっていた。

「んぼぅ。ぼうぅ!!」

球体は必死に四天王の傷口に炎を当てて傷口を塞ごうとしており、人型の炎たちは僕から四天王を守ろうと人型の身体を震わせて庇う様にして立ちふさがる。

「き、貴様ら・・・わ、ワシは・・・わしは強い!!こ・・こっ・・こんな奴らに負けぬわ・・・だから隠れておれ!!」

「ゴ、ゴオォォ・・・・」

部下を盾にして生き延びるならまだしも、こんな風に守られるとは滑稽の極みで、つくづくボスとしての格を落としてくれる四天王たち消滅させるべく手を翳す。

「う、うううおおぉぉ!!」

それを察した四天王は最後の力を振り絞り、下級精霊と中級精霊を自分の身体に抱き込み、そのまま背を向けて地面に倒れこむようにして丸くなる。

少しでも精霊たちの盾になろうとしているようだが、僕としては纏まってくれているので一気に排除出来て効率が良いからありがたい。

その力を僕の攻撃に回せばまだ評価をしてやったものを・・・・

「こっ・・こいつらはワシの強大な力に恐れて、無理やり従わされていただけだ!!ゆ、勇者ともあろうものが無理やり従わされていた者たちまで殺そうというのか!!」

今も傷口からは魔力が垂れ流されており、蒼白になりながら叫ぶ四天王を見ていられない。

「・・・関係ない。滅びろ」

「・・ふぇ・・る・・・」

魔力を手に込め、それを解き放とうとする僕に待ったを掛けたのはテオだった。

「・・・・テオ? 大丈夫だ。すぐに終わらせるから」

「はぁ・・止めて・・はぁ・・・・くれよっ・・・」

「?」

倒した魔物にとどめを刺す、それは当たり前の事なのに、それを止めようとするテオに首を傾げながら魔力を霧散させる。回復したとはいえ、疲労はピークに達している筈なのに、どうしてそこまでしようとするのだろう。

寝ていてくれれば全て終わらせて、早く宿に連れて行ってあげられるのに・・・

「白旗を振ってるやつにまで、手を掛けるのは騎士じゃ・・・ないぜ・・?」

「・・・ここで見逃せば、また襲ってくるかもしれない」

「それでも・・・だ・・・」

まっすぐに僕を見つめる瞳は強くて、本当に可愛い。

でも、その優しさはテオの長所であると同時に弱点でもあり、戦いの場においては命取りになりかけない。

「ゴオオォ・・・」

「ボウウゥ・・・・」

四天王の腕の中から必死に出ようとする精霊たちに視線を向け、再び魔力を込めて力を解き放った。

「フェル!!」

同時に聞こえてくる悲痛なテオの叫び声に、テオはやっぱり何をしてても可愛いなと思いながら・・・・

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