2-6

ブラックベアーの一件で、俺たちは冒険者としてランクBに一気に昇格を果たした。

エルムは魔力を使い果たした疲労から宿屋で休養を取る事になり、俺たちはその間に魔王に関する情報収集と旅に必要な物資の買い出しに街へと繰り出したのだが・・・

「はぁ・・・やっぱり魔王の情報ってなると中々ないな・・・」

「・・・・落ち込んでるテオは可愛い」

「お前もそればっかり言ってないで、まじめに探せよ・・・たくっ・・・」

頭を撫でてくるフェルに俺は口を尖らせながら、近くの喫茶店で休憩を取ろうとして懐が温かくなっていることに気づいた。ポケットの中を確認してみるとサータからもらった会員証のカードが光っているようで、真っ白なはずのカードの裏に地図が浮かび上がっていた。

「これって」

「・・・近くに店があるみたいだ」

フェルの言葉に俺も頷き、地図の描かれている場所へと向かう。

前回と同様に人気のない場所にあるようで、地図の方に行けば行くほどに人の数がまばらになっていき、到着した頃には人っ子一人いなかった。

「お邪魔します」

「いらっしゃい。お客人、また来てくれて嬉しいよ」

出迎えてくれるサータは口元を綻ばせ、手をぶんぶん振って挨拶を返してくれた。

目元はフードで隠れているのでわからないが、行動で歓迎してくれているのは分かり、胸がほっこりする。

商品は以前のように魔物ではなく、今度は装飾品が置かれていたが、相変わらずのボッタくり価格だ。

「前に来た時も思ったけど、これ、儲かってるのか?」

「ぼちぼちでんな~」

「?」

「ううん、こっちの話」

フルフルと首を横に振るサータは、そういう子供っぽい仕草が良く似合っていた。

「それで、今日は買えるのかな?」

「う゛っ・・・・買えません」

「またかぁ・・・」

「まただなぁ・・・」

「・・・・まただぁ・・・」

黙っていたフェルも同調してきて、そんな和やかな空気に苦笑が漏れる。

「商品は買えないけど、ちょっと聞きたいことがあるんだけど良いか?」

「いいよ。どうせ暇だしね」

あちこちを転々と旅しているサータなら、魔王に関する情報も聞いたことがあるかもしれない。

だが、俺の予想とは裏腹にあっさりと首を横に振られた。

「残念だけど、そういう情報は取り扱ってないよ」

「そっか・・・」

「でも、四天王に関する情報なら知ってるよ」

「本当か!?」

魔王とつながる四天王の情報に目を輝かせる俺に、サータは手のひらを見せるように差し出してくる。

「情報料をいただきます」

「い、いくらだ?」

「たったの30万ギャラでいいよ」

「たっけぇよ!!」

ブラックベアーの報奨金が40万8000ギャラで、依頼達成した報奨金が5000だったから、エルムへの取り分と残りを旅の道具に買ったら手元にはほとんど残らない。こっちの財布の中身を知ってるんじゃないかとすら思えてしまう請求額だ。

「いやなら別にいいよ。僕は困らないですからね~」

「うぐ・・うぅ・・・フェル、お前の取り分もなくなっちまうけど良いか?」

「・・・・僕はテオを毎日見れて触れるだけで幸せだ」

「お、おう・・・」

それはそれで、なんというか恥ずかしいのだが、同意してくれた事にホッとする。

財布から30万ギャラを渡すと、サータはここから東の砂漠にあるピラミッドに拠点を置いている四天王がいると教えてくれる。

「属性は火だから火属性の防具は必須だよ。そして、ここに火属性を吸収して生命力に還元する指輪が・・・」

「金がないの知ってんだろ?」

「ツケでも良いよ。お兄さんならちょっと変態貴族の前で裸になって抱かれるだけで・・・」

「子供がそういう事を言っちゃいけません!!」

なんつー恐ろしいことを言ってくるサータに叫びながら、有力な手掛かりを得られたことに笑みを浮かべた。

本当はガカルの拠点を知りたかったけど、そいつに聞けばきっと分かるはずだ。




先に店を出たテオを見送り、僕は少年に振り返る。

「あれ、どうしたの?」

「・・・・フードを取ってくれないか?」

ずっと疑問に感じていた違和感と、今日のやり取りと売りに出されている装飾品で僕は一つの可能性を見つけた。

「止めた方が良いよ。知ったところで、演者でもない部外者の君には何も出来ないんだからさ」

「・・・・そうか」

その答えに僕は目を閉じ、早鐘になる鼓動を無視して店を出る。

「君たちの旅の舞台がハッピーエンドでありますように」

見送りの言葉を口にする少年は、きっと泣いているのだろう。

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