2-?

 少年はフードをかぶったまま、死体を舞台にして洞窟で踊る。

 その愉しげな様子は、まるで舞踏会で踊っているようにも、子供のお遊戯会のようにも見えた。

「グオオォ!!」

 少年のダンスの相手たちは何度も大きな爪を振り下ろし、少年は身を屈めるようにして、時には後ろに撥ねるようにして寸前のところで魔物の牙や爪を音にステップを踏む。

「ああ、今度はちゃんと出来るかな。それともまた失敗しちゃうかなぁ・・・うふふ・・あはは・・・」

 どちらであっても構いはしない。

 惨劇(ハッピーエンド)も悲劇(ハッピーエンド)も大好きだ。

 どちらでも、役者たちが演じる舞台は少年にとっては最高(さいてい)の催し物であり、彼にとっては最大の嫌悪なのだから。

 異様な少年の様子を気にした様子も見せず、魔物たちを少年に攻撃を繰り返し、それを少年は全て紙一重でかわしては踊る。

「ん・・・?」

 ドゴォン!!ぐしゃ!!

 不意に足を止めた少年に大型の魔物は大きく横に振り下ろした腕が激突し、壁に激突した少年の体躯はひしゃげた音が洞窟内に響かせる。血まみれになって倒れ伏したまま、少年は不思議そうに首を傾げる。

「エルフの気配がする・・・・街に来てるのかなぁ?」

 街の名前は何だったか、確か花の名前を持っていたような気がしたけれど、すぐにどうでも良くなってくる。ずしずしと音を立てて近づいてくる魔物に、少年はゆっくりと立ち上がって笑う。

 それまで少年を襲っていた魔物たちは少年の前で跪き、まるで怪我をした事を悲しんでいるかのように交互に血を流す少年の頬を撫でる。

「ごめんね。用事が出来ちゃったみたいなんだ。だから、もう遊んであげられないや」

「グウウゥゥ・・・・」

「エルフかぁ・・・勇者の気配も近くにあるみたいだし、もしかして一緒にいるのかなぁ・・・?」

 吹き飛ばされた拍子にとれたフードから除く黒髪と漆黒の瞳を称えた虚ろな瞳は、どこまでも空虚な声と共に洞窟を覆っていく。

「ねえ・・・僕のために死んでくれる?」

「グオオオオォォン!!」

 少年のお願いに魔物たちは雄叫びを上げながら、興奮したように胸を大きく叩いた。

 それは、まるで大切な友人からお願いをされて、大喜びで引き受けている人間のようにも感じられる。

「ああ、勇者様・・・早く僕らと遊んで欲しい(殺して欲しい)なぁ・・・」

 少年はどこまでも壊れ、彼はそんな少年に何かを告げる。

「うん・・・そろそろ帰ろうかぁ・・・」

 少年は再びフードを深々と目元まで被り直した瞳からは、一筋の涙がこぼれ落ちた。

「秩序(ゲームストーリー)は変わらない。なら、君はどうやって抵抗(プレイ)するんだろうなぁ・・・ねえ、お客人」

 望むは惨劇、誰もが幸せのハッピーエンド。少年の願いは、どれほど経とうとも、挫折を突きつけられ続けても、何一つ変わらない。

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