1-3

僕はテオと一緒に馬に乗りながら、密着できるテオの身体を抱きしめて堪能する。

「ふんふん~♪」

初めての遠征にテオも上機嫌なようで、普段なら密着すれば照れるか怒るのに、今だけは怒られない。

「テオ、嬉しいのは分かるが気を抜くなよ?」

「はっ!!大丈夫ですよ。魔物が出ても俺が片っ端からぶった切ってやります!!」

「はぁ・・・まずは周囲への配慮をしような?」

「はっ!!」

呆れたようにガッツは注意しているが、その表情は初めてのお使いを見守っているお父さんのような目だ。

二児のパパでもあるから、テオの事もそういう目で見ているのかもしれない。今回の遠征で死ぬから興味はないが、彼の家族へのサブイベントはレア装備品が手に入るからおいしかったのは覚えている。

「フェルも、なにか分からない事や不安に思っていることがあったら何でも聞けよ?」

「・・・・・・・・・」

「ははっ、相変わらず無口な奴だな」

「フェル!! 騎士団見習いになったんだから、いつまでもそれじゃダメだぞ!?」

「・・・・分かった」

テオに注意され、仕方なく頷くと微笑ましそうに僕まで見てくる。

「それで、なにか聞きたいことはあるか?」

「・・・・・テオが可愛いから、可愛がりたいけどさせてくれない」

「お、おまっ、部隊長になんてこと言ってんだよ!?てか、服のした二手を突っ込もうとすんな!!離せって!!」

「だが断る」

「ははっ、お前らは本当に仲がいいな」

顔を真っ赤にするテオに、素直に言ったのにやっぱり怒られてしまった。

今回の遠征は見習いたちの訓練も兼ねているので、近くの村で大量発生したというゴブリン退治が主な仕事という楽なものであり、僕からしたら欠伸が出る様な仕事なので、これぐらいのご褒美があってしかるべきだ。我慢している僕はエロイ、いや、偉い

ただ、テオが今回の遠征で落ち込まないのだけが少しだけ心配だ。




まだまだ未熟だと思っていたテオの急成長を不思議には思っていたが、まさか、訓練場で魔物を召喚して実際に戦っていたとは思わず、中に入ろうとしたがフェルの只ならぬ気配に怖気づいてしまっていた。

それは今まで出会った魔物たちとは比べものにもならない悪寒で、姿を見ただけで心臓を鷲掴みにされたような気分だった。それと同時にその姿を美しいとも感じて、神話に出てくるような存在にすら感じられた。

今回の遠征でフェルがいったい何者なのか、それを見極めるのが俺の最重要任務だ。

とはいっても・・・・

「お、おい、そこに手を突っ込もうとするな!?」

「・・・・ダメ?」

「ダメに決まってるだろ!?」

後ろから聞こえてくる声を聞いていると気が抜ける。

村までの道のりは天気が良かったことや魔物が少なかったこともあり、予定よりも早く村へと到着した。

そこまでは良かったのだが・・・・

「なんだ。思ったよりも楽そうだな」

「これぐらいなら、きっと魔物退治も楽勝だぜ」

新米たちの間から聞こえてくる気楽そうな声に頭痛を覚えた。

「お前ら、着いたからと言って気を抜くな!!喋ってる暇はないぞ。早く野営の準備を始めろ!!」

怒鳴りつける俺に見習いなり立ての奴らは身をすくませながら、慌てたように村の近くの場所でキャンプの準備を始める。その間に俺は側近に指示を任せ、村長たちから詳しい話を聞くために向かうことにした。

「テオ、フェル、付いてこい」

「は、はい!!じゃなくて、はっ!!」

「・・・・・・はい」

「フェル、もう小間使いじゃないだから、返事は”はっ!!”だろ」

「・・・・・はっ」

こっちもこっちで気が抜けていそうな感じだが、フェルはもちろんの事、テオも周囲への気配に気を配っている分かり、本当に良き師であり、友人を得たようだ。本当にいつまでも良い友人であってほしいものだ。

村長への聞き取りも見習いの中で一番優秀な奴が一緒に来るように選ばれ、そこから先は俺たちと相談をしながら、選ばれた奴が指示を出すようになる。だから、毎年選ばれるのは一人だけが通例なのだ。

「部隊長、質問しても良いでしょうか?」

「なんだ?」

「今回は俺とフェル、どっちが指示を出せばよいんですか?」

「テオだ。フェルに関しては気にするな」

当然だがテオも同じような疑問を思ったようで、フェルの事を意識しているが、当人といえばテオにくぎ付けだ。

こうしてみていると、本当に無害な奴にしか見えないのだが・・・・

それ以降は特に質問もなく、村長への聞き込みでゴブリンは北の森でよく見かけるという話を聞き、本国との情報との差異がないことに安堵した。俺は今回は隊長の命令で影に徹している血の涙を流しているノル副隊長が隠れている部隊へと連絡に向かうのだった。




村長との話を終え、僕は真剣な表情で作戦会議をするテオたちを眺めながら欠伸をかみ殺す。

シュミレーションゲームはやった事がないし、ここで僕が出張っても戦術的にも・戦略的にも何の役にも立たない自信がある。僕が出来る仕事と言ったら、凛々しい顔で作戦を考えているテオの可愛い横顔を眺めている愉しいお仕事だ。それに、この作戦は、例え僕の世界にいた作戦参謀がいたとしても、このままだと失敗するだろう。

本来のゲームの流れから大きくずれてはいないが、前回起こったスタンビートは魔王復活の余波を受けた物であり、そこで騎士団の大打撃を受けた。

今回の作戦も実際は精鋭の2人以外は見習いだけで来る事になってしまう。

しかも遭遇するのはゴブリンだけではなく、魔王の四天王配下の一人であり、奮戦虚しく見習い騎士団は壊滅して、死の軍勢にされてしまうのだ。

勇者の力で生き残ったテオ以外を除いては・・・・そのテオも騎士団を壊滅させたという責により、騎士団を追放されてしまい、仲間を殺されたテオは復讐を誓って、魔王討伐に単身で挑む為に旅に出るというのまでがチュートリアルだ。

「・・・って、事なんだけどフェルもそれでよいか?」

「・・・・大丈夫。テオを見守るから」

「お前、話聞いてたか? 後でもう一回説明するからな?」

二人っきりの個人レッスンに誘ってもらい、僕は鼻歌でも歌いたい気分になる。

見習い騎士たちへの作戦の指示・伝達は明日伝えることとなり、僕たちも設置されたキャンプ場に戻った。

「うしっ、じゃあ改めて説明するぞ?」

「・・・・はーい」

「だから、返事は、はっ!!」

「はぁ・・・テオは可愛いな」

「聞けよ!!」

怒りで頬を朱にしながら、それでも緩めて見せてくれるテオの可愛さに僕は幸せに浸りながら、意味のない作戦会議を意味あるものにするために深夜に行動を開始する前の目の保養をするのだった。




ついに魔王様の復活がなされ、じきに魔王様の供物なる生贄たちが自らやってくる。

このスカル直々に死の軍勢にされる事を人間どもは涙して喜ぶことだろう。

「スカル様、侵入者デス!!」

「なに? 何匹だ」

「一匹デス」

監視に放っていた使い魔からの目を逃れたというのか?

最初のスタンビートでの騎士団への攻撃は失敗したと情報はすでに得ていたが、どうやら人間の中にも油断ならない奴がいる様だ。だが、一匹出来たというなら、そいつを人質にするという手も悪くは・・・

「ぐぎゃ・・・・」

「どうした?」

「・・・・・こんばんは」

そいつは音もなく現れ、配下の側近を一瞬で塵へと返してしまう。

「貴様、何者だ?」

「・・・・僕に拝謁しても分からぬか。ならば言葉も必要ない」

そう言った人間の子供は口の端を小さく歪め、その悍ましいほど美しい顔立ちは神話の・・・・

「あ、貴方様は・・・・」

それがこのスカルの見た最後の光景だった。

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