1-2

あれよ、あれよとしている内に、僕は騎士団の小間使いとして雇われることになった。

洞窟であんな怪しい出会いをしたのだから、監視の意味も含めているのだろうけれど、どうやって異世界で凄そうかと思っていた僕としてはありがたい話だ。それに・・・・

「今日から一緒の部屋になったテオだ。よろしくな!!」

目の前で僕に握手を求めている少年との出会いに僕は心から感謝をしている。

「・・・・可愛い」

「んあ?」

思わず口に出してしまうと、テオはきょとんっとした顔をしてくるが、そんな表情もとっても可愛い。

僕がこのゲームをやり始めた理由の大半は主人公であり、やんちゃ少年であるテオが可愛くて大好きだったからだ。

僕の所の世界の勇者もイケメンではあったのだが、長髪で高身長という明らかにそっち方面の狙いも含んでたこともあって、こういう純粋なやんちゃ少年っていうのがいなかったから、なおさら良い。

「えっと、今の可愛いって俺に言ったのか?」

「・・・・・うん。可愛いよ」

「お前、変な奴だな・・・可愛いってのは、どっちかっていうとお前の方じゃねぇの?」

首を傾げながら言うテオに僕は改めて、その可愛い姿を眺める。

茶髪の短髪と、大きくてくりっとしたツリ目、訓練で怪我をしたのか鼻の頭にある絆創膏。僕よりも少しだけ高い背丈や少しだけ付いている筋肉。どれをとっても可愛いとしか思えない。

「とにかく・・・ほら」

「・・・・うん」

急かされる様に差し伸べられた手を振られ、僕はぎゅっと両手で握りしめる。

すると、顔を赤くされ、ちょっと照れたように頬を掻いている仕草が少年っぽくて本当に可愛い。

十分後・・・・

「・・・・あのさ、そろそろ離してくれねぇ?」

「・・・・もうちょっと堪能したい」

「なにを?」

「・・・・・テオの体温?」

「なんか、ノル副隊長が増えた気分だ。うわっと!?」

僕は我慢できずに身体を引き寄せて、抱きしめて頬ずりすると困ったような顔をされる。

「あのよぉ、一応、俺とお前って仲間だけどライバルなんだぜ?」

「・・・・ライバル?」

「そう!!どっちが先に団員になれるかって言うライバルだ!!」

にかっと嬉しそうに笑う笑顔はまぶしくて、僕の世界の腹黒で有名な勇者に見習わせたい。

「・・・・ライバルよりも恋人が良い」

「ふわっ!?い、いやいや、確かに騎士団だと、そういうのもあるとか聞くけどよ・・・」

「・・・・・だめ?」

「ま、待てって、そういうのは一人前になってから考えるもんだろ!?」

頬を真っ赤にしながら、慌てたように僕から離れてしまう。

このゲームの攻略本にも一応同性同士でのEDもあるし、恋人になることも可能とあったが、流石に出会って早々では気が早すぎたかもしれない。それに、好きなキャラにあえて興奮しすぎて思いっきり饒舌になってしまった。恥ずかしい・・・・

「・・・・・わかった。一人前になったら、その時に告白するから、予約」

「お、おう・・・それなら、んーと・・・考えとくわ」




母ちゃん、俺、生まれて初めて告白されました。

騎士団になって、有名になったら、そういう事もあるのかもとか期待してなかったと言われれば嘘だけど、まさか、まだ見習いにすら慣れてないのに、同室の同い年ぐらいの奴からされるとは夢にも思わなかった。

初めてフェルと会った時には同じ男なのに華奢だし、可愛い顔立ちしてるなとか思ったけどさ、俺が想定してたのは可愛い女の子なわけで、まさか野郎が初めてだとは思わなかった。

そんな出会いから、一月近くが経ち・・・・

「ふぅ・・・今日の仕事終わった~!!」

「・・・お疲れ」

団員の人の服の洗濯とか、食材の買い出しとかが終わり、ようやく一息ついているとフェルが俺の隣に座って、どっから持ってきたのか、ジュースをくれる。

「おう、さんきゅ!!」

「・・・お礼はハグか、キスだと嬉しい」

「しねぇからな?」

こういう所がなかったら本当にいい奴なんだけど、どういうわけなのか、やたらと俺に対して甘やかそうとしてきたり、逆に俺にスキンシップをやたらと求めてくる。ノル副隊長も俺をお菓子とかで釣ってきたりするし、なんていうか同じような空気を感じるが、フェルの場合はそれが俺限定って感じだ。

ほかの奴が来るとめったに口も利かなくて、俺が間を取り持つなんてこともざらだ。でも、隊長には不思議と気にかけられている奴でもある。

「んぐんぐ・・・ぷはぁ、うめぇ」

「・・・・可愛い」

「だから、それを俺に言うなって」

あと、俺が何かするたびに可愛いを連呼してくる。股間を見ながら可愛いとか言われたら殴ってやろうと思ってたんだけど、そん時は「エロい」とか言われ、ちょっと変な奴から思いっきり変な奴に印象が少し変わったぐらいだ。でも・・・

「うしっ、休憩時間終わり!!フェル、今日も一緒に訓練しようぜ!!」

「・・・・・分かった」

俺たちは訓練用の部屋に向かい、誰もいないのを確認した後、そこで潰れて訓練用になった剣を握りしめる。

「いつでもいいぜ!!」

「・・・・うん」

フェルは小さく何かをブツブツ唱えると、見たこともない小さな魔物・スライムとかいうのを召喚する。

初めて見せてくれた時には驚いたけど、調べてみると召喚術とかいう物らしくて、フェルはそう言う魔法にも適性があるらしく、こうやって俺の訓練相手を出してくれる。魔法が使えない俺としては羨ましい限りだ。

「うっしゃ、行くぜ!!」

俺はその魔物に向かっていき、剣を振りながら魔物と戦う。ぷにぷにして柔らかそうな見た目なのに、突進してくると結構痛いし、俺が未熟なのもあるんだろうけど結構攻撃もかわされることが多い。

今のところの勝率は6割ってところだが、最近は勝率も増えていってる。

「くそっ、やっぱりなかなか当たりにくい。いってぇ!!」

「・・・・ちゃんと防御もしないとだめだよ」

躱された勢いで思いっきりタックルされてしまい、腹に走る痛みに俺は耐えながら必死に剣を振って戦った。

この訓練は時間制限があって、ほかの奴が訓練場に入ってきたら、フェルが魔物を消してしまうのだ

どうやら他の人には秘密らしく、俺とフェルだけの秘密なんだ。

ざしゅっ!!

「うっしゃ!!」

ちょっと苦戦したが、人が来る前に魔物を切り伏せることに成功して、ガッツポーズをとる。

「なにが、うっしゃなんだ?」

「うおっ!?」

急に声を掛けられ、振り返るとそこには俺の面倒をよく見てくれるガッツさんが立っていた。

「今日も訓練してたんだな。感心感心」

「へ、へへっ、まあ・・・」

この人は騎士団の中でも、俺は小間使いとしてじゃなくて見習いとしてみててくれて、騎士の心得とか戦い方とかを色々と教えてくれるし、模擬戦でも一太刀もいられないぐらい強いんだ。

「ガッツさん、よかったら今からも模擬戦やりませんか!?」

「ははっ、いいぜ」

「やったぁ!!」

「良かったら、フェルも一緒に参加するか?」

「・・・・・・・・・・・」

「お、おい、フェル!!」

「ははっ、まだ心許してくれてないのね」

フェルは相変わらず、俺以外には無口なようで、首を横に振って拒否して俺のほうが慌ててしまう。

「まあ、おいおいだな。さあ、準備は良いか?」

「はい!!」

笑顔で頷いてくれるガッツさんに俺は気合を入れなおして、武器を構えなおすのだった。




「へへっ、初めて一太刀入れられたぜ!!」

「うん」

僕とテオはお湯に入りながら、ゆったりとした至福の時間を過ごす。

時間をずらしているのもあるが、人払いの結果を張っているから、邪魔が入ることもないだろう。

背丈が165cmぐらいの騎士としては小柄な体躯は鍛えられているが、まだまだ発展途上で、将来はテオが魔王を討伐すると思ったら青い果実を堪能できるのは今だけから、しっかりと堪能して目に焼き付けないと。

「しかし、あの訓練のお礼が一緒に風呂に入るだけで本当にいいのかよ?」

「・・・・・良い」

そうすればテオと一緒に入れる時間が増えるわけだから、これ以上の報酬はないだろう。

でも、テオも少しずつだけどレベルアップしているのを見ると、そろそろ別の魔物を出しても良いかもしれない。

「・・・・テオ、今もよりも強い魔物出しても大丈夫?」

「えっ? あれよりも強いの出せるのか!?」

僕の言葉に嬉しそうに詰め寄ってくるテオに、キスしたくなるのをグッと堪えて下を向く。

「おい、そこじゃなくて、俺の顔見て話せよ」

無邪気な笑顔も、今の拗ねている顔もまるで・・・

「天使だ」

「いや、人間だけど? それより!!出せるなら出してくれよ!!色んな奴と戦いって鍛えたい!!」

向上心旺盛なテオを微笑ましく感じながら、僕は小さく頷くとテオは満足そうに笑う。

「テオ、そろそろ」

「・・・・・・お、おう」

腕を広げるとテオは少しだけ頬を赤くして、背中を向けると僕の腕の中に納まる。

下心もあるにはあるが、それが目的というわけではなく、今日戦って負ったダメージを回復するためだ。

僕は手に魔力を込めながら、スライムと戦ってできた痣とかを優しく撫でていく。

「んくっ・・んはぁ・・んっ・・・」

「・・・気持ち良い?」

「んっ・・気持ちぃけど、くすぐってぇ・・・」

蕩けそうな顔で可愛い声を上げられ、頬を赤くしながら感じているテオを、ぎゅっと抱きしめる。

可愛いテオの表情に必死に理性を働かせ、回復魔法をかけていくのは意外と重労働だ。

「んはぁ・・・ふぁぁ・・・」

そんな風に可愛い声を上げるテオを眺めながら、鍛えられた腹筋をなでながら、理性が切れないように他のことに思考を向ける。

(そういえば来週だったかな・・・・?)

テオが初めて騎士団の遠征についていき、そこで現れる魔物の軍勢に勇者としての力に覚醒する。

覚醒とはいっても、まだまだひよっこレベルではあるのだが、そこから徐々に強くなり、騎士団でも認められて仲間を増やしていくはずだ。でも、その遠征で確か・・・・

「・・・・んっんっ・・・ははっ、やっぱくすぐってぇ・・・」

「・・・・・・・・」

そこまで思い出したが、僕はテオの可愛い声に色々と吹っ飛んで思考を無にするのだった。




「以上が、報告になります」

「そうか・・・ご苦労、下がっていいぞ」

「はっ」

俺はガッツからの報告に大きくため息を漏らしながら、渡された資料に目を向ける。

そこにはテオの成長具合、次回の遠征なら問題ないとの内容と、フェルの事が書かれていた。

「まさか、あの年で召喚術を使えるとはな・・・」

詳しい年齢は分からないが、少なくても12~15歳ぐらいだろう。

召喚術は熟練の魔術師でも扱うのには相当な鍛錬と魔力が必要な術だ。

少なくても、フェルの見た目の年齢で扱えるレベルではない・・・

「これは思っていた以上に厄介な奴だったかもしれないな」

今のところ実害は出ていないが、調べれば調べるほどに謎が深まっていく。

幸い、テオには心を開いているようなので、問題を起こすようなことはないと願いたい。

「実力がいまだに未知数なのも気になりますね」

「そうだな・・・」

騎士希望の小間使いという事にしてあるから、一応訓練にも参加をさせているのだが、模擬戦と聞くと尻尾を振って参加したがるテオと違って逃げるので、正確な強さが分からない。

「・・・・今度の遠征、テオとフェルも連れて行くぞ。そこでフェルの実力も見極める」

「承知しました。早速手配しておきます」

鼻歌が聞こえてきそうなノルの返事に俺はジト目で視線を向ける。

「言っておくが、遠征だからって二人に手を出すなよ?」

「大丈夫です。ちゃんと同意を得てから手を出します」

「そういう意味じゃねぇよ!!」

これ以上、頭痛の種を増やすなと俺はノルを怒鳴りつけながら、深いため息を漏らすのだった。

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