第2話3年後






「レオ、祠の端が少し汚れてるのじゃ。ワシは綺麗好きじゃからな。しっかり磨くのじゃぞ」

「分かりました。でも綺麗好きですか……」


そう言いながらアクア様がふんぞり返っている辺りを見つめるが、お供え物の食べかすや遊び道具がそこらじゅうに転がっている。


「な、なんじゃ!レオ、ワシは用事を思い出した。ちょっと出かけてくるから掃除をしておくのじゃ!修行もしっかりとやっておくのじゃぞ!」

「はいはーい、わっかりましたー」


「”はい”は1回で良いのじゃ!」


そう言って空中に渦が現れると、アクア様はヨチヨチと這って渦の中へと入っていく……






アクア様の下へ通いだしてそろそろ3年になる。僕はあれから毎日、朝起きて朝食を摂るとアクア様の下へやってきて掃除をする生活だ。

最初の1か月は昼食の時間になると家へ帰っていたが、ある日、バアちゃんが祠にやってきてアクア様と何事かを話し出した。


何故かそれ以降は毎日、朝に弁当とお供え物を持たされ、夕食の時間になるまで修行をする事が決まってしまっていたのだ。

バアちゃんに聞いても「頑張れ」としか言わず、父ちゃんや母ちゃんも同じだった……しかも嬉しそうに……


こうして僕は強制的に、アクア様の下で意味の分からない修行をさせられる事になってしまったのだ。

最初は目を閉じて座り続けるだけ……それからある時は裸になって泉に何時間もつかったり……ある時は祠を背に逆立ちをさせられたりした。そしてその度にアクア様は首を傾げたり、満足気に頷いたり……酷い時には指を差されて大笑いをされた。


こうして意味の分からない修行をさせられ続けたのだが、最近はもっぱら泉の水を飲む事に時間をかけている。

不思議な事に泉の水を飲もうとすると何故か量が増えてしまい、コップ1杯の筈がバケツ1杯ほどになっていたりするのだ。


全くもって意味が分からない。1度アクア様にどういう事なのかを聞いてみた。

しかし、どうやらアクア様も詳しく分かっていないのか、途端に機嫌が悪くなって、水の球をひたすらにぶつけられる、と言う修行に変えられてしまった事がある。


こうして僕は3年と言う長い間、理不尽な扱いに耐えながら、アクア様の下へ通い続けたのであった。






「良く3年間、頑張ったのじゃ。今日をもって試練を越えたと認めよう。良くやったのじゃ、レオ」


アクア様がそう言った途端、僕の中に力が染み込んでくる……しかも、それと同時に感覚としてこの力の使い方が理解できるのだ。

例えるなら元々両手に10本ずつの指があったかのように、若しくは腕が4本あったかのように魔法の使い方が理解できた。


「おーーーー、こうやって使うんですね……」

「早速、使ってみるのじゃ」


「!分かりました。行きますよ、アクア!」


早速、アクアの魔法を使ってみると、僕の頭の上に水の球が現れてどんどん大きくなっていく。


「おお、中々の大きさじゃな。レオ、因みにどこまで大きく出来るのじゃ?」

「どれぐらいなんでしょう……一度、全力でやってみます!」


この3年でアクア様から教わった知識では、魔法を使うには僕の中の魔力が必要なのだそうだ。

その証拠に水の球を大きくしていくのと反対に、僕の中の何かが凄い勢いで減っているのが分かる。


「ま、まだ大きくなるのかの?」

「そうですね。これの5倍ぐらいが限界かもしれません……」


「こ、これの5倍じゃと?お、おま、バカなんじゃないか? そんな魔力どっから持ってきたのじゃ?」

「え? 泉の水は飲むと魔力が増えるって……泉の水を飲めるだけ飲めって言ったのはアクア様じゃないですか。だから僕は毎日、水を飲んだんです!」


「ちょっと待つのじゃ……お主は毎日、泉の水を飲み続けたのか?」

「はい。頑張って最近では、毎日コップ1杯飲めるようになりました!」


「コップ1杯? バカじゃ!コイツとんでもない大バカじゃ!」


なんなのー? 急にアクア様が僕を指差して、バカバカ叫びだした……ば、バカって言う方がバカなんですーー!

一通り騒いで落ち着いたのか、アクア様は僕を呆れた顔で見つめてくる。


「普通は魂の器に限界が来て直ぐに飲めなくなるのじゃが……レオ、お主ちょっと魂を見せてみろ……」

「良く分かりませんが、どうぞ……」


そう言ってアクア様は僕の額の辺りをガン見しだした。

因みに今現在も水の球は大きくなっていて、既に村の大きさを越えていたりする。


「何じゃこれは!お主、半分精霊になりかけておるぞ!」

「え? 半分精霊ですか?」


アクア様が溜息を吐きながら続きを話し出す。


「ワシは水の精霊アクアじゃ。それは分かるな?」

「はい、知ってます」


「今、お主と話しているこの姿は仮の姿で、本来の性質は水そのものなのじゃ。もっと言えば泉の水こそがワシの本体と言えるじゃろう。ぶっちゃけると、お主は3年間、精霊を食べ続けたと言う事じゃな」

「え? 僕、アクア様を食べてたんですか?」


「まぁ、そうなるのぅ」

「あ、アクア様、体は大丈夫なんですか?ぼ、僕知らなくて……」


「ワシ等精霊は魔力の塊みたいなものじゃからな。多少、魔力が増えたり減ったりした所で大した事は無い。じゃが、レオ、人であるお主は違う。このまま放っておけば、お主の魂はワシの魔力に溶けて混ざり合ってしまうはずじゃ」

「アクア様の魔力に……それってどう言う事なんですか?」


「お主とワシが融合すると言う事じゃな。精霊アクアであってレオでもある存在の爆誕じゃ!」

「えぇぇぇぇぇ!それって大変な事じゃないですか!」


「そうじゃ、大変じゃ。この世界が生まれてから存在し続けとるワシと言う存在が書き換えられてしまう。ヘタをすると世界中の水に影響が出るかもしれん……」

「えぇぇぇぇぇぇぇ!だって泉の水を飲めってアクア様が言ったんじゃないですか!」


「バッカ!普通は3年でコップ1杯が限界じゃろ。それを1日にコップ1杯とか……お主がオカシイのじゃ!」

「えぇぇぇぇぇぇ? そもそも毎日、一緒にいたじゃないですか!何で気が付かないんですか? アクア様って精霊なんですよね?」


「ば、バッカ、バッカ!毎日、魂を見る精霊なんていないのじゃ!これでも精霊の間では世話焼きのアクアと呼ばれて有名なのじゃ!!」

「嘘ですよ!そんな話、初めて聞きましたよ!」


「う、嘘じゃないのじゃ!たぶん……きっと……」

「やっぱり嘘じゃないですか!!」


「そ、そんな事はどうでも良いのじゃ!今はこれをどうするかを考えるのが先なのじゃ!」

「それは……そうですが……」


アクア様と僕が眉を顰めると、おもむろにアクア様は上を見て、何故か急に脂汗を流し始めた。


「ちょっと待て……い、今はどうするかは一旦、置いておくのじゃ……レオ、お主の水の球……大き過ぎて、もう端が良く見えんのじゃが……」

「奇遇ですね、僕にも見えません」


「その大きさの水の球を落としたら、ここ等一体流されて何も残らんと思うんじゃがのぅ……」

「……アクア様、僕なんだか体がだるくなってきました」


「は? お、お主、それ魔力枯渇じゃろ!まて!今はマズイ!ちょっと待つのじゃ!」

「アクア様……た、立ってるのがキツイです……」


「待つのじゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!後1分だけ!30秒!いや10秒で良い、待つのじゃ!!」

「あー、もう無理でしゅ……」


「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーー!」


こうして全てが無茶苦茶になりながら、僕はアクア様の絶叫をBGMに意識を失ったのだった。


レオの覚えた魔法 1



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