サウザンドマスター ~魔法の王に至る道~

ばうお

第1話サウザンドマスター






かつてこの世界には1000の魔法を自在に操る『サウザンドマスター』と呼ばれる英雄がいた。

英雄の魔法は大地を抉り、海を穿ち、空を割ったと言う。


その神の如き力に不可能は無く、卑劣な罠に首を落とされた時でさえ、魔法の力で新しい体を作り出して脅威から逃れたそうだ。

しかし、それだけの力を持ちながらも英雄は争いを好まず、相容れぬ相手であっても最後まで言葉での対話を望んだ。


そして英雄は世界中を旅し、各地で人々を助け精霊と対話をしながら過ごしながらも、生涯を通して何処かの国に定住する事は無かったのだとか。



「そんな『サウザンドマスター』様がお眠りになる前に訪れた、最後の地であるのがここサハクの村であり、天に還られた土地と言われておるのじゃ」

「バアちゃん、本当なの?」


子供にバアちゃんと呼ばれた老婆は、曖昧に笑いながら楽しそうに次の言葉を口にする。


「さてな。バアちゃんもそう聞いただけだから分からん。カッカッカッカ」

「何だぁ、嘘か」


「レオ、バアちゃんは嘘なんて吐いて無いぞよ。裏山にアクア様の祠があるじゃろ。あそこにサウザンドマスターが訪れて、アクア様に見守られながら天に還ったそうじゃ」

「……やっぱり本当なの?」


「バアちゃんもレオと同じ頃にバアちゃんに聞いた話だからのぅ。バアちゃんのバアちゃんも、そのバアちゃんに聞いたはずだし。本当か嘘かはアクア様みたいな精霊でもないと分からないねぇ」

「アクア様なら知ってるの?」


「そうさね。アクア様に聞けば分かるかもしれないのぅ」

「僕、祠に行って来る!」


「おやおや、そうかい。気を付けて行くんだよー」

「分かってるー!」


そう言ってレオと呼ばれた男の子は村の外れにある祠へと走って行くのだった。






バアちゃんが言うには『サウザンドマスター』が、ずーーと昔、この村で死んだらしい。

サウザンドマスターって言えば1人でドラゴンだって片手で倒したって言う英雄だ。


そんな英雄がこの村に来た事がある……しかも、この地で天に還った……僕はかつてないほどに興奮しながらアクア様がいる祠へと急いだ。

村は50世帯ほどの大きさであり、僕の足でも10分もあれば簡単に村はずれに到着する事が出来た。


「アクア様ーーー!」


祠の隣にある綺麗な泉に立って大声でアクア様を読ぶと、泉の上に水の渦が巻き始め、中から青い半透明の幼女がヨチヨチと這い出してくる。


「よいしょっと、ん? 何じゃ? レオか。そんなに慌ててどうした?」

「アクア様、バアちゃんから聞きました。昔、アクア様にサウザンドマスターが会いに来て、この祠で天に還ったって!本当ですか?」


アクア様は僕のいきなりの言葉に苦い顔をして暫く何事かを考えていたが、何かを思いついたらしく悪い笑顔をしながら口を開いた。


「そうじゃのぅ。それを教えて欲しければワシの試練を越えてみせるのじゃ」

「アクア様の試練?」


「そうじゃ。もしお主の言うようにサウザンドマスターがワシを訪ねたのなら当然ながらワシの加護、アクアの魔法を得るためじゃろう?」

「アクアの魔法……」


「そうじゃ、サウザンドマスターと同じ魔法じゃぞ。使えるようになりたくはないか?」

「!!なりたい!アクアの魔法欲しいです!」


「決まりじゃな。では早速、試練を課そう」

「はい!」


「ワシの試練は……泉と祠の掃除じゃ。期間は3年。どうじゃ、簡単じゃろ?」

「それって3年間掃除すればアクア様の魔法が貰えるって事ですよね? そんなにかかるんですか? もっと早く欲しいです」


「そうは言うてもなぁ。ワシと模擬戦をして勝てたなら加護をやっても良いが……レオ、お主、激弱じゃろ?」

「……掃除します」


「そうじゃ、そうじゃ。最初の魔法を覚えるのは誰しも大変なんじゃ。掃除に通う間、魔法を使うための基礎も叩き込んでやるから安心するといい。どうじゃ、ワシ優しいじゃろ?」

「……ヤサシイデス。そう言えばアクア様、アクアの魔法って強いんですか?」


「は? 何を言っとる? アクアの魔法は水を出すだけじゃから強いわけが無かろうが」

「え? 水が出るだけ? 本当に?」


「人は水が無いと死んでしまう。一生、水の心配をしなくても良くなるんじゃぞ。凄いじゃろ。称えても良いんじゃぞ?」

「……」


「な、何じゃ、その眼は!水じゃぞ? 渇きから解放されるんじゃぞ?」

「3年……僕、何か凄く長い気がしてきました……」


「お、おま……そ、そうじゃ、サウザンドマスター!サウザンドマスターも泣いて欲しがった魔法じゃぞ!凄い魔法なんじゃぞ!」

「!!サウザンドマスターも……アクア様、やっぱり試練を受けたいです!」


「ほっ。そ、そうか、ワシの加護はスーパーでデンジャラスじゃからの!では早速、今日からじゃ。祠を磨いて泉の周りの掃除じゃ!」

「分かりました、アクア様!」


早速、僕は泉の周りの落ち葉を拾い、祠を磨いていく。

そんな僕の姿をアクア様はニヤニヤしながら見つめて、何やら呟いていたが良く聞こえなかったので放っておく事にした。


「くっくっく……最近、誰も掃除に来んから困っておったんじゃ。ついでじゃが暇つぶしにレオには魔法の使い方をみっちり仕込んでやろうかの……くくく」






この世界には魔法と呼ばれる超常の力が存在する。

では、どのようにしてその力を手に入れるのだろうか?

魔法は一般的には精霊の祝福を受け、加護を貰う事で使えるようになる。


例えばアクアの魔法は何も無い場所に水を出すだけの魔法であるが、これは精霊アクアの試練を乗り越え加護を貰って初めて使えるようになるのだ。

1つの精霊に1つの魔法。


サウザンドマスターと呼ばれる英雄が称えられる要因がここにもあった。

1000の魔法を操ると言う事は1000の精霊の試練を越えて加護を貰ったと言う事になる。


1000……一体どれほどの苦難を乗り越えればその高見に登れるのだろうか……


レオの覚えた魔法 0




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