第25話 ただしイケメンに限るといっても限度ってものがな?!
「セイリュウちゃんが気絶している間にね、考えたのよ、アタシたち」
と、ベスターが話し始めた。
「あれっきり魔術師の声は聞こえなくなったし、霧は濃くなっていく一方だし、このままじゃ全滅するわ。たぶん。セイリュウちゃんのおかげで傷は治るけど、このまま粘り続けるわけにもいかないし」
「で、だ。仕方がないから、移動する」
ハンクスが淡々と引き継いだ。
「死者どもが来る方向はいつも決まっていた。つまり、そいつらの来た道を辿っていけば、少なくとも足場は保証される。そして、死者たちの湧き出るポイントまで行って、大本を断つのが最善だと判断した」
「ええと……つまり……」
ゾンビが来る中を、ゾンビの本拠地に向かって歩くってことですか……。
俺がものすごく嫌そうな顔をしたせいだろう。「大丈夫よセイリュウちゃん。アナタのことはアタシが守るから」「お前のところにまでは行かせない。安心しろ」と二人が口々に言った。まぁー心強い。精神異常系の攻撃がこない限り、ハンクスは最強だし。
「本当は、セイリュウちゃんが気絶してる間に一回やってみたのよ、ソレ」
「だが、駄目だった」
「駄目だった?」
「そ。ちょっと進んだところに、瘴気の層があったの」
「しょーきのそー」
「呪いに染まった空気の壁、みたいな感じだな」
「無理して進んだら死んじゃうって分かったから、撤退してきたってわけ」
「ふむ」
「そこで、セイリュウちゃん、アナタの出番ってわけよ!」
「俺?」
「そう!」
ベスターはにっこりと笑った。
「アナタの加護があればたぶん行けるわ!」
「へ」
「ちなみに、死者を倒すのも楽になるんじゃないかって思って、寝てる間に武器にやってみたんだけど、付与されなかったの。セイリュウちゃんの意識がないと効果が出ないみたいね」
ごめんねぇ勝手に、と言いながら、ベスターはまったく悪いと思っていない顔だ。
……記憶がない間のことはなかったこととして扱おう。うん。別に悪いことされたわけじゃないし。場合によっては事案だけど。この場合はむしろ当然の行動と言えるし。そもそも気絶した俺が悪いんだし。うん。……うん。
「そういうわけだ、セイリュウ。加護を頼む」
ハンクスが神妙に言ってきた。
が……
……加護を頼む=キスをしてくれ、なんだよなぁ……いやこれ聖女でもけっこうキツかったのでは? それともなに、相手がイケメンだったらそーいうのってクリアできるのか? すげーな聖女、もはや痴z……やべぇ待って待って思考が荒んでる。暴言はやめとけ、それで俺が逃げられるわけでもないんだし。
渋い顔をして黙っている俺を見て、ベスターとハンクスはちょっと距離を詰めてきた。
「何でもする、って言ったわよね?」
「……言った」
「窮地を脱するために必要なんだ。協力してくれ」
「……分かってる」
分かってるんだよ……でもなぁキスって……キスってさぁ……!
ハンクスがふと表情を緩めた。
「……嫌なら無理強いはしない。他の手を考えよう」
その瞬間、ベスターがキッとまなじりを吊り上げた。
「あら、もう考え尽くしたじゃない? ハンクスちゃんって変なところで甘いのね」
「こういうことは強制するものじゃないだろう」
「仕事だと割り切ってもらわなくちゃ、この先もっと大変よ」
「そもそも強制的に連れてこられたんだ。それ以上のことはこちらがサポートするべきだ」
「なんのためにヒジリオの力があるっていうのよ。やるべきことはやってもらわなくちゃ」
「ヒジリオがやるべきことは魔王を倒すことだ。それ以外の面倒は押し付けるべきじゃない」
「あら、それじゃあここでアタシたちが死んでもいいってわけ? それって本末転倒じゃないかしら?」
「だからそうならないために別の手を考えようと言っているんだ!」
「散々考えたでしょう?! それでこの結論に至ったんじゃない!」
「その結論がセイリュウを苦しませるなら変えるべきだ!」
「甘ちゃんな意見はやめてチョウダイ!」
「なんだと貴様!」
「ストーップ! 落ち着いて二人とも!」
俺はベスターの胸倉を掴んだハンクスの腕に飛び付いた。
「分かった、分かったよ! ごめんな俺が……その……大丈夫、減るもんじゃないし……初めてでもないし……必要なら仕方ないって、分かってるから……バフぐらいちゃんとかけられなきゃ、本当にただのお荷物だし……」
「セイリュウ」
「セイリュウちゃん」
「よーし、やるぞ! どっちからいく?! 俺の決意が変わる前にちゃっちゃと済ませよう!」
こうなったらもうヤケクソだ! 俺だって死にたくないし、二人を死なせるのも嫌だ! キスなんて実はン年ぶりだけど! ……ちょっと触るだけでいいよな?!
「じゃあ、頼む」
「オーケー、行くぞ、ハンクス」
「セイリュウちゃん。たぶんそれ魔法に近いものだから、“汝に聖なる加護を”とかってそれっぽいこと言うと効果が上がるかも。試してみて」
「了解」
頷いて、俺はハンクスの両肩を掴んだ。
もう何も考えるな、感じるのもやめろ! 一瞬でいい、すべての感覚を停止させるんだ!
「ハンクス。汝に、聖なる加護を――」
勢いで行け、俺ー!
目を瞑って唇を重ね――
「あ、たぶん口じゃなくても平気よ?」
「っっっっっぶねぇぇぇええええお前そういうことは先に言えよ!!」
――る直前に緊急回避! ギリッギリ間に合ったあっぶねぇえええっ! ああああああああああっ!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます