第17話 くさはゆるもいとをかし。
「フフーン、やりすぎたのよ、アンタ」
と、ベスターは空中でわなわなと震えている悪魔に向かって顎をしゃくった。
「せめて屋敷の中の男だけにしとけばよかったのに、外の連中にまで手を出すから……それも見境なしに、こんなにたくさん。ここにきた小猫ちゃんたちは、みーんなアンタに泣かされた子たちよ」
――まぁこの内の三分の二ぐらいは愚痴を聞いてたお友達なんだけど、とベスターがこっそり呟いたのを、俺は聞き逃したかった。嘘だろ、この三分の二が当事者じゃないだって? その割にはノリッノリで暴れ回ってらっしゃる……まぁでも、俺だって、「ムカつく貴族の家をめちゃくちゃにしても怒られませんよ、好きにしてどうぞ」って言われたらノリッノリでやるな……むしろ今すぐやりてぇな……。
でもこの軍勢に交ざるのはやめておこう。何かの拍子に敵だと思われたらマジで死ぬ。
ベスターが弓を構えた。
「さぁ、観念なさい、悪魔!」
「クッ……っ!」
顔を歪めた悪魔が、ベスターの放った矢を避けざまに踵を返した。
「あら、逃げるの?」
意外そうに言ったベスター。
俺はハッとした。
「マズい、ハンクスが!」
「ハンクスちゃんなら自力で逃げるでしょ。あんなに強いんだし。むしろ倒してくれたら楽でいいわぁ」
「いや、それが……駄目なんだ……っ!」
「あら、どーして?」
「ハンクスは魅了耐性ゼロなんだ……! さっきもウィンクと投げキッスで完全に沈んでた!」
「あらまぁ、ダッサイわね。……待って、それじゃあ――」
「そう。アイツらみたく、洗脳されたら……」
最強のゾンビの出来上がり、ってわけだ。
俺たちは顔を見合わせて、同時に頷いた。
「撤退! 撤退よ小猫ちゃんたち!」
「逃げてくれ頼むから! マジで死ぬぞ!」
俺たちの声に、きっちり場を制圧し終えていた女性軍は素早く反応した。縛りあげた男たちを引きずって――もはやこれは引き回しの刑だな、って勢いで、屋敷の中に駆けこんでいく。
「アタシたちも早く行くわよ!」
「了解! ……え、なに?」
「なにって……セイリュウちゃんの足じゃすぐに追いつかれちゃうでしょ?」
「そりゃそうだけど……せめておんぶじゃない? なんでお姫様だっこの構え?」
「だってその方が映えるじゃない」
「確かに生えるな、草が」
「さっきは大人しくお姫様だっこされてたのに……」
「さっきは問答無用だったじゃん……」
「つまり無理やり攫えってことね!」
「違うよ?!」
「ヒュゥ、セイリュウちゃんてば可・愛・い~! 意外とロマンチストなのね!」
「違うしキモいし、そんなこと言ってる場合じゃないだろ?! ハンクスが――」
「行きなさい、騎士よ!」
勝ち誇った甲高い声が響いた。
「ヒジリオを殺すのよ!」
パッと振り返ると、月光によく映える金髪が屋根を飛び降りたところで――
――それが一瞬で距離を詰めた!
三十メートルぐらい離れていたはずなのに! なにこれテレポート的な?! チートじゃん!
「セイリュウちゃん!」
「今こそ」
「出番ですよ~」
「いってらっしゃい!」
いろんな声が重なった。
と思ったら、俺は背中をドンと押された。
「え……?」
眼前に白刃が迫る――
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