第16話 オレ、ミカタ。オマエ、ドウカオソワナイデクダサイ。
頭上でガラスが割れて破片が降ってきた。
が、それに驚くより早く、
「キィエエエエエエエエエエエエエッ!」
悪魔の額に矢が突き刺さって、金切り声に耳をつんざかれた。
「っは、げほっ、ごほっ……!」
「ヤダッ! 大丈夫セイリュウちゃん!? 怪我は? どこが痛むの?」
「けほっ……ベス、ター?」
「も~ガミガミガミガミうるさいばっかりで頼りになんないわねぇハンクスちゃんは! 外から見ていて良かったわ!」
ひょいっと抱え上げられる。
「行くわよ、しっかり掴まっててチョウダイっ!」
「えっ、ちょっ」
「待て貴様らァァアアアアアッ!」
「てーいっ」
「うああああああああっ!」
俺の絶叫を完全に無視して、ベスターは外に飛び出した。
瞬間、部屋が爆発して壁に大穴が開いた。さらにそこから這いずるように出てきた影のような茨が俺たちを追ってきている。
夜の暗闇、屋根の上、人を一人抱えている――なんていう悪条件を背負っているとは思えない速さで疾走するベスターが、ふいに、
「跳ぶわよ!」
と叫んで、本当に跳んだ。いや飛んだ!
「わあああああああああっ!」
内臓がぐぅっと持ち上げられるような感覚があって――二秒にも満たない滞空時間――そして、ドンッと逆の圧力が全身にかかった。
「んぐっ……」
「ごめんなさいねぇセイリュウちゃん、ちょーっと我慢してねぇ」
「いや、うん……大丈夫……」
「逃がすものかっ!」
バチンッ! と静電気を数百倍に増幅したような音がした。
「あら、けっこう上位の悪魔なのね。結界張られちゃったわ」
呟いたベスターが俺を下ろして、背中に庇うようにした。
ようやく目が慣れてきた……そっと周りを見ると、中庭のようだった。それにしても広い。んで、静まり返っている。あんな大きな爆発音がしたのに……?
空中に浮かんだ悪魔が髪の毛を逆立てている。それってどういう重力? こっわ。マジで怖い。
悪魔は片手を振り上げた。
「我が下僕たちよ、来い! あの者どもを殺せ!」
よく通る声がそう言った。
瞬間、四方八方から「うおおおおおおっ!」と雄たけびみたいのが聞こえてきて、
「ひえっ!」
「あらまぁ」
扉という扉、窓という窓、中庭に入れるならどんな手を使ってでもいいとばかりにありとあらゆる場所から、ゾンビみたいな挙動の連中が飛び出してきた!
「なるほど、魅了で洗脳したのか……っ!」
道理で静かなわけだ! この屋敷はすでに悪魔の手中にあったんだ!
押し寄せてくる人の波! これが全員敵だなんて――ゾンビ物の怖さを身をもって体験することになろうとは思いもしなかった! ゾンビじゃないからぎりぎり耐えられるけど、ゾンビだったら無理だったな俺――っていうか死ぬんじゃねコレ?!
パニくる俺の肩を掴んで、ベスターがにっこり笑った。
「ヘーキよ、セイリュウちゃん」
「え?」
ベスターはポケットから小さな玉を取り出すと、それを思いきり空に放り投げた。
「出番よ、小猫ちゃんたち!」
パァン、と花火のような光が夜空に散って――
――「合図だわ!」「行くわよ!」「点火っ!」なんていう女性たちの声がどこからともなく聞こえてきたと思ったら、
ドガンッ!!!!
「おわっ!」
さっきの悪魔の魔法とは一線を画した凄まじい爆発音が四方から響いて、地面が揺れた。ふらついた俺をベスターが支えてくれた。
夜闇の向こうから「突っ込めーっ!」「怯むなっ、進めー!」「男どもに制裁を!」「悪魔に鉄拳を!」「私たちに勝利をっ!」「うおおおおおおおおおおおっ!」と、どこの軍よりも勇ましい声が轟いてきて、ゾンビの呻きを押し流す。
そして踏み込んできた、女性たちの軍隊。
彼女たちの掲げた松明が中庭を煌々と照らし、あるいは殴られ、あるいは蹴られ、次々に拘束されていく男たちの姿を夜闇に浮かび上がらせた。
――助かった、というべきなんだろう。
だが。
俺の震えは止まらなかった……オンナ、コワイ。
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