第9話 ヤダッ、足払い~!
俺を抱えた野郎はものすごい速さで森の中を疾走した。ヤバ……何コイツ、忍者か……?
むろん俺は抵抗した。だが途中で空しくなってやめた。運動と言えば会社と自宅の往復のみ。休日はゲーム漬け。大学時代もいっさい運動をしてこなかった成人男性の筋力をなめるなよ。皆無だわ! 一応暴れてみたけどびくともしてくれなかったわ! 悲しっ……。
「お頭! 連れてきやしたぜ!」
ザ・テンプレ台詞を聞いて、ようやく変換機能がまともに動いた。
野盗、野盗か! つまり盗賊か!
(……えっ、ヤバいんじゃねぇのコレ?)
事態の重さに心が追い付いて真っ青になった俺を、野盗はひょいっと地面に落とした。
「いでっ」
顔から落ちて額を打った。いってぇ~はぁ~マジで~?
おでこをさすりながら顔を上げる。と、そこにはすらりとひょろ長い男が立っていた。どぎついショッキングピンクの髪に、ばっちばちに着けられた銀のピアス。いかにも悪いやつって感じの露出度高めファッション。八つに割れた腹筋を見せつけられてしまった。……俺なんて贅肉で二分割されつつあるのに。
そいつは俺を見下ろして、銀色の目を細めた。
「アンタが噂の聖女――ヒジリオ様?」
「……不本意ながら……」
「やぁだ、意外と可愛い顔してんじゃない! ハピネス〜!」
お頭様はオカマ様であらせられたか……。
内心ドン引きしている俺をよそに、野生のオカマ様――じゃない、野盗のお頭様はしゃがみこんで、にっこりと笑った。
「アタシたちの目的のために、ちょぉっとだけよろしくね、ヒジリオ様」
「目的?」
「そ。ダイジョブよ、すぐに帰してあげるわ。ちょっとお金を巻き上げるだけだもの。ウフフ!」
「はぁ……」
身代金目的の誘拐、ってわけですか……まぁそれなら命の心配はないだろうし、大丈夫だろうか。
「誰に要求するんです?」
「そりゃもちろん、ビオストリオ辺境伯よ。あの偏屈ジジイ、領民から巻き上げた金で豪遊し放題しちゃってるんだもの。ムッカつくわ~。……まぁ、アタシたちも貰ったら豪遊するんだけど」
「領民に返すとかじゃないんすね」
「そりゃそうよ。だってアタシたち義賊じゃないもの。でも豪遊っていったって、お貴族様が行くような店にはキョーミないし。普通の店で使いまくれば、結果的に返したようなモンじゃない?」
うむ、確かに。
そういうことなら分からなくもない……が。
「えーと……俺は別にいいんですけど……ハンクスが何て言うか……」
「ハンクス? ああ、一緒にいた男?」
お頭様は「イケメンだったけどアタシの好みじゃないのよねぇ〜残念だわぁ」と呟いた。好みだったらどうするつもりだったんだろう……。
それからさらりと言われたことに、俺は目を剥いた。
「今頃死んでるんじゃないかしら」
「えっ?!」
「邪魔者は始末するのが当然でしょう? アタシの子分ちゃんたちを五十人は用意しといたから、いくら辺境の騎士でも勝てっこないわ」
「そんな……」
目の前が真っ暗になった。ハンクスが死ぬ? 俺のせいで?
騎士団の人たちの顔が浮かんできた。笑顔で送り出してくれたみんな。ハンクスを副団長と仰ぎ、慕っていたみんな――
俺は唾を飲み込んで、お頭様の足元に手をついた。
「な、なぁ頼むよ、ハンクスを殺さないでくれ!」
「アラ、もう遅いわよ」
「遅いってことないだろ? あんたがお頭なんだよな。頼む。お願いだからハンクスを殺さないでくれ」
「無理よぉ、殺せって命令しちゃったもの」
オカマ野郎はウフっと笑った。
「ごめんなさいねぇ、アナタのたぁいせつな騎士様を殺しちゃって」
「っ……そ、それなら、俺も協力なんかしない!」
俺はパッと立ち上がって駆け出した!
瞬間、足を引っ掛けられてすっ転んだ!
「ぶげっ!」
いっ……てぇ……顔面打った……こんな派手な転倒、幼稚園児以来じゃないか……?
「だぁめ。アナタはもうアタシたちの手駒なんだから」
「う……」
「大人しくしててくれなくっちゃ。せっかくの可愛い顔、台無しにしたくないでしょお?」
そう言ってオカマ野郎は俺のほっぺたをペチペチと叩いた――
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