ふわふわハートはエロスの証❤️魔法少女ミカゲ
「あなた、本当に姫様です?」
声の主。異世界の侍女ちゃんは、泣き顔が一変して、冷めた顔をしていた。それにしても、一言でばれるものか? すげーな。侍女。って感心している場合じゃない。なんとか姫様だと認識してもらいたい。その方が都合がよさそうだし。
「実は……気がついたらこの姿で、私、何も覚えていなくて……」
「え? ミカゲ様、さっきまでふっフグっ」
「ミカゲ? フグ? 何のことかしら? あなたもさっき会ったばかりじゃないの」
空気を読まないで口を挟むコハクの口を抑え、無理やり記憶喪失の姫様を演じる。どうせ姫様の記憶もないし、この方が好都合だ。ついでに、コハクに会ったのもついさっきだから、嘘じゃないし。
俺とコハクのやり取りを見ていた侍女ちゃんは、なんとか納得したようで再び泣きはじめた。こいつもこいつで忙しい。
「うわぁーん。姫様ぁ〜お身体は無事のようでひと安心ですがぁ、何も覚えていないなんてぇ、お労しい……ぐすん。姫様は、私なんかいつも虫ケラを見るような眼差しで、感謝や労りの言葉なんか一切かけていただくことなど、これまで無かったじゃありませんか。目を合わせると、その卑しい視線を投げるなと激しく罵ったじゃないですか。触れると穢らわしいと鞭を下さったじゃありませんかぁ」
安心と不安と心配、感情が渋滞しているのか、侍女ちゃんが捲し立てる。それにしても酷い姫様だ。こんなの、まるで悪役令嬢じゃないか。俺にできるのか? こんな悪役令嬢……。
そんな俺の心配の横で、侍女ちゃんの様子がちょっとおかしいことに気がつく。彼女の頭の上。つむじのあたりから半透明のハート型のふわふわが生えている。なんだあれ。
「姫様の視線。私だけに特別に投げるあの冷たい眼差し。他の従者には決してかけない激烈な侮蔑。ギリギリ肌を裂かない、けれどもしっかりと味わえる鞭の痛み。全て私だけに向けられていたのに……覚えてくださっていないなんて。これはこれで……新しい私に対する罰なのでしょうか……姫様、ああ、思い出してくださいませ姫様ぁ」
侍女ちゃんの様子もおかしい。姫様にどう考えても酷い虐待を受けているのに、うっとりとした表情だ。目を瞑り、両手を組んで、彼女の受けた虐待の数々を語り続ける。そして、一言喋るたびに頭上のふわふわハートが風船のように膨らんでいて、そろそろバランスボールくらいの大きさになる。一体あれはなんなんだ? コハクには見えているんだろうか?
「なぁ、コハク。あの娘の頭の上にハートの風船みたいなのあるだろ。あれはなんだ?」
「え? なんのことですか?」
コハクは目を細めたり擦ったりして、何も見えていない様子だ。あれは、俺にしか見えていないってことか。……となるともしかして、コハクのハッピーパウダーみたいな、俺の力の源なのかもしれない。
「姫様のいない間も、私、きちんと言いつけを守って毎晩冷たい鎖をつけて眠っているんですよぉ……」
侍女ちゃんの自白は、虐待から方向性を変えて、SMプレイみたいな内容になってきていて、なんかもう聞きたくない感じだった。なので、彼女の口に人差し指を立てた。
「黙りなさい」
真顔で、優しさのかけらも出さないように命令をする。なるべく悪役令嬢な姫様らしく振る舞ってみる。
すると、侍女ちゃんの頬が紅潮して、頭上のふわふわハートがみるみる膨らみ、そして弾けた。その途端、凄まじい勢いで侍女ちゃんの姫様との記憶、とりわけ侍女ちゃんが姫様をどれだけ性的な愛で想っているのかが直接脳に刻まれる。同時に凄まじい万能感とともに力がみなぎった。
これが、魔法少女の力か……そして、俺の力の源は……多分、性愛。まじかよ。なんていうか、その……なんか、いやだ。
でも、あてがわれた力の源を拒否すると10日程度で死んでしまうし、受け入れるしかない。
ここに『ふわふわハートはエロスの証❤️魔法少女ミカゲ』が爆誕した。
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