第34話

「ごめん。何やってるんだろね、僕。こんなのただの八つ当りだ、何だか突然、怒りが溢れてきて、止まんなかったんだ」

「俺たちは大丈夫だけど」

 と熊谷が答えた。

 皆はそのまま、とんがり帽子の魔法使いに目を落としていた。

 ソウは男に歩み寄る。

「ごめん。本当に……ごめん」

 誰も何も応えない。

 ソウは妹を見る。

「サラ……」

 精霊の少女は顔を下げたまま何も言わなかった。

 もう一度、精霊の少年は口を開く。

「サラ、手伝って」

 精霊の少女は顔を上げる。

「ソウ……まさか」

 二人は目を合わせて、兄は頷いた。

 サラは立ち上がる。

 精霊の少年と少女は息をしていない男の両端に立った。

「いくよ」「はい」

 二人は目を閉じる。

 沈黙が流れた。

 一つ、二つ、三つ四つと光の玉が浮かび上がった。少女と少年は片方の手を伸ばす。

二人は他の者達にはわからない言葉を交互に唱えだした。

 それは言葉であって、言葉ではなかった。音は詩のようだった。森の子守歌で。ささやきだった。どこか懐かしく、どこか切なく、あたたかな唄だった。振動が、確かな響きが大氣を震わせていた。二人の手の間から光のようなモノが現れ男の胸に向かっていった。胸から光りの波紋が広がり、中心から広がっていった。森全体が光に包まれた。小さな光の玉が立ち上っている。草は生い茂り、花が咲く、枯れていた樹木から新しい枝が伸び新芽が萌える。姿を隠していた森の精霊達が姿を現した。

「すげえ」

「わあ」

 男の胸に大きく空いていた穴が光の糸によって繋ぎ合わされてゆく。

 傷は綺麗に塞がって血痕も無くなり、衣服の穴が空いているだけだ。

 男は大きく息を吸い込んだ。

胸が膨らみ、それから息が吐き出される。

 そのまま上下動を繰り返す。

 ゆっくりと目が開いた。

 上体を起こし、自分の胸を確かめた。

「生きとる」

「ええ」

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