第33話

なぜ寄り添ってくれない。なぜ、共に生きようとしてくれない。自分がよければそれでいいのか? 他は苦しんでも死んでも、どうでもいいのか? お前らにとって命ってなんだよ。命を考えたことあんのかよ。お前らのためだけに命はあるんじゃないんだよ。お前らは特別じゃない。命はお前らのためにあるんじゃない。

 人間なんて……

 赤い血がポタ、ポタと垂れていた。

 男が樹木に刺し貫かれている。

 咳と血。

 少女は声にならない声をだして男の衣服を握りしめていた。

「なんで……私を……」

 男は前歯が一本無い笑みを返すだけだった。

 少女の涙の雫が少年の木の腕に落ちた。

 ソウの赤い目が金色に戻っていく。

「見えていなかったのかは僕のほうだ」

「すまんのう、森の主よ、自然を想わない人間の代わりに謝ろう。それでも知って欲しい、自然を尊ぶ人も沢山いることを」

 今にも消え入りそうな声だった。

「知ってるよ、知ってるよ、そんなの……ごめんね」

「もっと……生きたかった……」

 男の目が閉じてゆく。

「だめです! まだあなたにはやりたいことがあるのでしょう! 力の限り生きようとしなさい!」

「ぁぁ」

 とんがり帽子が頭から落ちた。

巨大な樹木の葉の色が緑から茶色へと変わり、散り、枝が折れていく。

 裸の大樹が寂しさと共にそびえていた。

 風が、冷たい。

「お、おい、死んでんのか、そのおっさん」

 熊谷が枝からおりて、声をかける。

「私をかばって、くれたんです……」

 精霊の少女は顔を上げずに震えた声で、そう応えた。

 周りに他の三人も集まっている。

「この人は、自然が大好きで、そのために長生きがしたくてここまで足を運んだのに、……。この人にはまだ生きていて欲しかった、この人の想いはこの世界に必要だった、自然を愛してくれていた、その愛に私たちは何を返せたのでしょう。返したくても、いなくなってしまったら返せないではないですか」

 萌は信也の服を引っ張って信也と目を合わせた。

 信也は首を振るだけだった。

 萌は視線を再び元に戻した。

 ソウがとぼとぼと近づいて来た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る