第32話

 次の瞬間、目の前に男が大物主と呼んでいた精霊が、木に噛みつき、その動きを食い止めた。

 大物主は精霊の少年に向かって唸り声をあげる。

 少年はカッと目を見開いた。

「お前え! お前えぇ! なぜ邪魔をする。なんで、なんで僕の邪魔をするんだよお! お前は僕の仲間じゃないのかよお!」

木が大物主を襲う。それを避けて、切り裂き、木の破片がバラバラと落ちる。

 大物主は少年に襲いかかった。

「グルアアアアアア!」「アアアアアアアアアアアア!!」

 木の腕が大物主を殴りつけて、大物主は地面に転がる。

 それでも大物主は怯まずに少年に向かっていこうとした。木が伸びる、大物主はそれを切り裂き続けるが、木の勢いは更に増していった。そのまま樹木は凄まじい勢いで伸びつづけ、大物主は、身動きがとれないほどにがんじがらめにされてしまった。

 凄まじい咆哮。

 もがいてももがいても、木はビクともしないようだった。

 その様子を見て、少年は楽しそうに笑い声を上げた。

「元に戻ってください! ソウ!」

 妹の声など少年には届いていなかった。

「もう、邪魔してくる奴はいないぞ、人間!」

「こうなったら奥の手を使う! お嬢ちゃん! ちいとばかし力を貸して貰うぞ!」

 男は本を開き、サラを本に取り込んだ。

 ペンをポケットから取りだし、何やら文字をページに書き加えていく。

「何を、サラに何をしたああああ!」

「ちいとばかし、強くなってもらうだけじゃ」

 男は本を振った。

 サラが再び姿を現す。

「いまなら、さっきよりも力が通用するはずじゃ!」

 少女は拳を握りしめた。

「はい!」


 お前らが肥え太るために他はどうなってもいいのか。お前らの欲を満たすために、彼らは存在しているんじゃない。お前らは世界に何をしてやった。身を捧げた? 尊んだ? 貪って、殺して、殺して、壊して、壊して、そのあとは何もしない。めちゃくちゃにして楽しんだだけ楽しんで、大切なことは何もしない。やってくれる他任せか。人間以外は何も感じないとでも思っているのか? 世界は自分たちの物だと勘違いしていないか? そんなんじゃない。そんなんじゃない! もっと目をこらして見て見ろ! 考えろ! 感じろ! 見ようとしろ! なんでそんなに欲深い。考えられるはずなのに考えようとしていない。感じない。自然も動物も同じなんだよ。泣くんだよ。喜ぶんだよ。怒るんだよ。お前らが何かをしたら何かを感じるんだよ。お前らが何かをされたら何かを思うように。同じように腹も減るし、眠るんだよ。お前らの快楽のために一生懸命生きてるんじゃないだ。

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