第26話
城の外には大きい庭がありました。燃えるように朱い木や、深い青色の木が生えているのです。木々の茎と葉が揺れ動き、金色の木の実は輝き、花々はきらきらと輝きました。
その辺り一面、不思議な青い光がほのかに輝いていたのです。
そこにいると、自分が海の底にいるというよりは、ずっと高い空を飛んでいるようで、上も下も視界に見えるのは空だけだと思い込んだでしょうね。風が凪いで波が穏やかな間は、空でさんさんと輝くお日様も見ることができました。お日様は赤い赤い花のようで、ガクから光が溢れ出ているように見えていました。
「海ですか、あなたは行ったことがありますか?」
とサラが訊いた。
「もちろん、あるとも森とは違う素晴らしさがあるところじゃよ」
「一度でいいから、いって見たいものです」
「いってみるといいさ」
「私たちはおいそれとここから離れていいわけではないんです、敵わぬ夢ですね」
「そんなもんかの」
「そんなもんです」
老人は開いていた本を閉じた。
「あなたがお話してくれる、物語は面白いものばかりですね」
「そうじゃろ、面白い話しかしておらんからな、まあ他人が考えたモノを収集しているだけじゃよ、人の世には数え切れないほどの物語がある」
「なぜ、人は物語るのでしょうか」
「語りたいんじゃないかのう、伝えて残したいんだろうなあ」
「あなたと、似たようなものですね、ただ形が違うだけ」
「そうじゃな、物語という形ではないだけ」
老人は飲み物に口をつけた。
「しかも、物語という形はずるいんじゃ」
「なにがずるいんですか?」
「嘘というのが前提におる」
「嘘?」
「ああ、嘘さ」
「なんで、嘘とわかっていて、物語を楽しむのでしょうか」
「嘘が楽しいからじゃろ」
「悲しくならないのでしょうか、それを信じていて」
「なる時もあるかもしれんな、けど皆、嘘という夢を見たいもんじゃよ」
「夢ですか」
「ああ、自分では見れない夢を見させてくれる物語を嘘と知りながら愛している」
「あなたは夢で終わらせる気はないのでしょう?」
「そうじゃとも」
「それよりも人魚姫の続きを聞かせてくれますか?」
老人は再び本を開いた。
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