第13話
「さあ、つきました。そこのキノコさんに腰掛けてください、もちろん一言添えてね」
ついた場所には他とは比べものにならないくらい大きな大きな木がそびえていた。薄茶色のキノコが並んで生えている。
男は荷物を下ろし、座らせてもらうよと言ってきのこに腰掛けた。
サラは木の洞の中に入って、壺から果物を取りだした。棚にある器を手にとり、外に出て、生えている背丈ほどもある大きな花に器を差し伸べた。すると、花はおじぎをして蜜を器に入れてくれた。
「いつもありがとうね」
「どうぞ」
男は受け取って果物を一口かじった。
顔をしわしわにする。
「ずいぶん酸っぱいな」
その顔を見てサラは微笑んだ。
「でしょね、そのための蜜です。つけてみてください」
男は言われた通りにする。
「おお、これならほどよいな」
花の蜜が酸味と溶けあって、果物の酸っぱさが心地良く感じられた。
サラは向かい側の草の生えた所に腰を下ろしていた。
「あなたは、不老不死になって、何がしたいのですか」
男は手に持っていた器を、横のキノコに置く。それから、背筋をただして、口を開いた。
「世にある自然をこの本に保存したいのさ、今生きている自然がずっとある保証なんてない、いやあるはずが無い、今残しておかないと、もう見られなくなる日が来るかもしれないからの」
「それは、ご立派な志(こころざし)ですね。しかし、植物はあらゆる場所に適応して、形がかなり変わってしまいます。それを別種と捉えるならば、途方も無い時間がかかるでしょうね」
「だから、不老不死になりたい、絶滅する前に保存し、新しく進化した植物を永遠に追いかけていたい」
「あなたがそれを担うと?」
「ワシは自然が好きなんだ、だから記録し続けたい、永遠にそれができるのならしてみたい、自然は絶えず変化している、生きている、そうじゃろ」
「なんのためにそれを?」
「好きなだけじゃ」
「この人間という種が出てきたことによって、絶滅しなくていい動植物が死に絶え、環境は変えられている、もう、戻ることはできないし、これからも人間は環境を変化させ続けるだろう」
「環境に適応できない種は生きてはいけません、人間によってそれが引き起こされているのなら、人間に適応できた種がこれからも生き続けるだけでしょう、どうせならあなたが破壊活動を止めてみては?」
「ワシには人間達の破壊を止めることなどできん。人間というのも自然の一部、自然をどうこうしようなど、おこがましい話じゃろ、せめてワシのできることをするまでじゃ」
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