第12話
とんがり帽子の魔法使いは、流れる川の先を見つめていた。
「流れていってしもうた、かわいそうなことをしてしまったかのう」
男は本に視線を落とす。
「なになに、名はサラ……」
沈黙。
「なんと、……えらいことをしてしもうたかもしれんな」
男が本を少し振ると、もわあんとサラが本の中から出てきて、ピョンと男の前で着地した。
くるり、と男の方を向く。
「あら、出してくれるんですね」
男はひざまずいた。
「これは失礼した。森の主よ。先ほどの非礼、お詫び致す」
「顔を上げてください、別に私たちは偉いとかそんな存在ではありませんし、そんな態度をとられても、良い心持ちはしません、人とは違うのです」
「そうか……」
とんがり帽子の魔法使いは立ち上がり、脱いでいた帽子を再びかぶった。
「もう片方の主は大丈夫じゃろうか」
サラは川を見た。先ほどよりも川の流れが緩やかになった。
「大丈夫なようです。それよりも、あなた、どうしてそこまで……。悪い人間ではないようですが、凄い執着ですね」
「まあ、好きなのじゃよ、世界が、自然が」
男は周りの景色を見回した。
川の澄んだ水を、あたりに自生する草木を、青く広がる空を。
精霊の少女は男の目を見て、少し微笑んだ。
「わかりました。もう少し話を聞きましょうか、特別にこの先に行くことを許しましょう」
それから声音を変えて続ける。
「ただ、あなたの願いが叶うことは無いでしょう、自然の理から外れることは許されません」
「ワシは不老にはなれんか……」と声を落とした。
男はサラの後について行く。大きな大木が倒れていて、その洞を進んでいった。
「ほほー」男は感嘆の声を漏らす。
まるで洞穴を進んでいるようだった。上から差してくる光線と生えている菌糸類が光を放っていた。白い体、ふちが緑色の赤い帽子をかぶったきのこがほのかに発光している。星を撒いたように光る鉱物。この世のモノとは思えないような通り道だった。
「あなたはユズリハの木を知っていますか」
「ああ、知ってるとも、新しい葉が出来ると、入れ変わって古い葉が落ちてしまう木だろう」
「ええ、あんなに大きな葉でも新しい葉ができると、命を譲るのです」
「新しい葉が芽吹けばいいか」
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