第7話 エッコ登場

マサキはマルコスのコスプレ衣装を探していた。


「海外のオークションサイトでコスプレの衣装を高値で売っている日本人のエッツがいるんだけど。エッツはアニメや漫画の衣装だけでなく、エッツの考えたオリジナル衣装も販売しているんだ。住所がどうやらこの近くなんだ」


「連絡取れないのか?」


「ド派手なドラッグクィーンらしい」


「何で分かるんだ?」


「お店のプロフィール見てみろ?」


そこには、金髪のカツラをつけたクレヨンで子供が顔を塗りたくったような奇抜な化粧と衣装を着た太った男性のような人間がうつっていた。


 マサキはマルコスをよんで、3人でエッツに会いに行くことになった。


「そんな有名な衣装作家が何で我々と会ってくれんですか?」


「同じく有名なマルコスの衣装を借りたいと言ったら会ってくれることになった」


「さすがマルコス」


「オレサマ ノ オカゲダ」


「カンシャ シロ」


 指定された住所はお城のような豪邸だった。家の門でエッツと約束していることを説明すると、門を開けてくれた。


門から家屋までの距離が遠くて、3人はくたくたになってしまった。


 家の前で、金髪でモデルのように美しい長身の外人の男性執事が待っていて、応接室まで案内してくれた。


 突然応接室のドアが「バタン」と開くと3人はビクッとした。


すると、家の中なのにバギーに乗ったエッツが入ってきた。エッツはなにしろ巨大でバギーがおもちゃのように物凄く小さく見えた。


 エッツは写真で見ていたのよりずっと巨体で、金髪タテロールのカツラをかぶり、化粧は厚くまるでドラッグクィーンのようだった。衣装は刺繍入りふりふり総レースの豪華なものだった。


「写真で拝見しましたが、実物は

もっとお美しいんですね」


「私すっごいブスだから」


「そんなことないです」


「私は日本一のブスなんだから、これだけは誰にもゆずらない」


「今日のお衣装も素晴らしいですね」


「マリーアントワネットがテーマなの」


 エッツは突然バギーを乗り捨て、像のような太い両足でグラグラユラユラと歩き出しアオイの目の前に行き、顔を近づけて鬼のような物凄い形相で怒鳴りつけた。


「お前をギロチンにかけてやる」


 あまりの迫力にこの上なく恐怖を感じたアオイは全身震え上がった。


 それからマルコスのとこにいき、顔を近づけて言った。


「約束通り愛人になれ」


「どうぞ、どうぞ、どうぞ」


 マサキはマルコスを手前におしだした。


 マルコスはそりゃあないよとばかりに、首をブンブンふった。そして、たすけてくれよとばかりにアオイの方をいかにも困ってますという泣きそうな表情で見つめた。


 アオイは「知らないよ」とばかりに手を横にブンブンふった。そして、手のひらをマルコスにむけて「どうぞ」というジェスチャーをエッツに向けて送った。


 まるで巻き込まれるのはまっぴらごめんという様子を見たマルコスはアオイにショックを感じた。目を見開いて怒りを訴えてきた。


「アオイ ワ ワタシ ノ ダーリン ナノニ ヒドイ」


「はあ、何だって?」


 わずらわしそうに、エッツは言った。


「あんたは私の男だから」


 エッツはマルコスの肩を抱いて力づくで自分の方に引き寄せた。グローブのような巨大な両手でマルコスの顔をつかんで、そのままブチューっとキスをした。キスというよりもマルコスの口びるを丸のみし、ジュルジュルジュルっと体の中の全ての臓器を吸いあげているようだった。それから長く巨大な舌でマルコスのおでこからあごまでをゆっくり丁寧にベロリとなめあげた。その様子は妖怪を見ているようだった。


「イヤーーーーーーーー---------」


「NO----------------」


「オーマイガッ」


 マルコスは発狂し、絶叫した。


「ふん」


 憮然とした表情でエッツはマルコスをアオイの方に投げ飛ばした。アオイはガシッとマルコスを両手で抱きとめた。


「ハクジョウ モノ」


 アオイにそう言い残して、マルコスは白目をむいて一瞬気絶した。


「失礼いたしました」


 イケメン執事が大きいハンカチを宗元のポケットから出し、消毒スプレーをふきつけてからマルコスの顔全体を丁寧にをふきとった。


「お嬢様、お客様に少々失礼かと存じますが」


(いやいやいやいやいやいや、少々じゃないだろ)


 アオイは心の中でツッコミを入れた。


「お嬢様?エッ?エッ?エッ?エッ?エッ?女?」


 アオイは女でだったという衝撃の事実に驚きを隠しきれなかった。それを聞いたエッツは激怒し怒鳴った。


「ほんといや、いくらブスだからって、初対面の女にしつれいにもほどがある、私ね、ほんとこういう男って、大嫌い」


「男ってブスにほんとひどいのよ、それをあからさまに、私ほんとこの人大嫌い」


「すいません」も言えないくらい(声がでない)、アオイは恐怖で震え上がっていた。


(いやいやいやいやいやいや、初対面の男性にキス・なめる方が異常だろ!!)


 アオイは怖いから口が裂けても言えなかったが、心の中で毒づいた。


 アオイの顔に近づけて、エッツは攻め立てた。


「ちょっとあんた、私の男をとったでしょう。ブス女から、男を奪うなんて、ほんっとサイテイ」


「それから私のミカン食べたでしょ?デブから食べ物奪って、どういうつもり?どうせデブだからって」


 あらぬ疑いをかけられたアオイは困ってキョロキョロし、助けを求めた。


「この泥棒ネコめ」


 エッツはスタスタスタとアオイの方にいき、おもいきりアオイの頬をビターンと平手打ちした。あまりの強烈な力にアオイはすっ飛ばされた。


「お客様は少々こちらのお部屋でお待ちください。お嬢様は連れてきますので」


 イケメン執事はエッツをなだめながら、バギーのサイドカーに乗せて応接室から出て行った。


 応接室に残された3人は茫然としていた。


「キョダイ ナ オンナ ガ キス ナメ ラレタ

 アオイ ワ タスケテクレナイ ショック ダ」


「ダーリン ノ メノマエデ オカサレタ ンダゾ」


「ショック ダ ヒドイ」


 マルコスはアオイに対し激怒した。


「マルコス、キスだけで犯されてはないから」


 アオイは申し訳なさから優しくマルコスを抱きしめた。


「マルコス、相手は女性だ。いやならやめさせればいいんだよ」


 マサキもなだめた。


「チカラ ワ スゴイ ツヨイ ヨ、 オンナ ノ チカラ ジャナイヨ」


「アレ ワ モンスター ダ」


「ごめん、マルコス。俺も彼女が怖いんだ。すごみ方が異常だった」


「あれみたい、あれ、女子プロレスラーのジョギーよこぱ」


「ゼッタイ ユルサナイ」


「ごめんよ」


 アオイは土下座してマルコスに謝罪した。


 アオイは、「そういえば」と何かを思い出した。


(エッツは「約束通り」と言ってた、約束って何だ)


「マサキさん、エッツは約束通り愛人になれって言ってた。何かエッツと約束しましたか?」


 マサキは気まずそうに答えた。


「実は衣装レンタルは最初断られたんだけど。エッツがマルコスと付き合う条件で、衣装を貸してくれることになった」


「What!?」


 マルコスの怒りの矛先がアオイからマサキにうつった。


「ヨクモ アンナ コワイ オンナ ヲ」


「怖い?なかなかカワイイじゃない」


「付き合ってみたら?金持ちのお嬢様だよ。ああいうタイプ1回試してみたら?」


「ゼッタイ ムリ」


「衣装が必要なんだよ。付き合うふりでいいから。頼む」


「オマエ ガ ツキアエ アノ モンスター ト」


「俺はかまわないけど、彼女がお前をご指名なんだよ」


「ヤラセロ」


 マルコスはアオイに命令した。


「それはムリ」


 アオイはハッキリ断った。


「ソレワ フェア ジャナイ」


「そうだ、やっちゃえ、やっちゃえ」


「よかったじゃん。童貞卒業出来て」


「ムリムリムリムリです」


「アオイ ワタシ ノ カワイイ イショウ キタ トコ ミタイ ダロ」


「それは正直見たいです」


「でも、やったこと無いし。男と」


「女ともないだろ」


「俺が教えてやる。男のことは任せろちなみに、マルコスともやったことあるから」


「エッエッエッエッ、何?」


「女ともそこそこ自信ありだし、女ともやる時も教えてやる」


「え何バイだったんですか?」


「バイかもね。男とか女とか正直どうでもよくない?」


「うーーん、情報量が多すぎです」


「なにが?」


「バイ?、マルコスとやった?、何でマルコスととか。それに男同士でやるのには、抵抗ないのか?とか」


「それいうなら、女ともやってないだろ。もうどっちでもいいじゃん。教えてやるから」


「なんていうか、多分男とはむりというか」


「だから、とりあえず試してみろって話だよ」


「いや、だから、たたないんですって」


「だからそれは、生身の女にもだろ?とりあえず人間とやってみたら?」


「女は怖いからダメ、男は想定外だからダメです」


「カワイイ格好したマルコスならいけるんじゃねえ?」


「それは確かにいけそうな気がする」


「ソレテ ヤレルッテコトカ?」


「まあそういうことだ」


マサキが答えた。


「トントン」


 先ほどの金髪執事とエッツが戻ってきた。


「先ほどは失礼いたしました」


 執事が頭を下げた。


「こんにちはお待ちしていました」


 エッツは、先ほどとはうってちがって上品にニコニコして挨拶した。


「あら、こちらが人気のマルコスさんね。私あなたの大ファンなの、私の衣装きっと似合うと思うわ」


アオイら3人は、別人のように感じの良いエッツにおどろかされた。


「エッツ様は双子もしくはよく似たご兄弟ですか?」


 マサキは執事にこっそり尋ねた。


「いえ、エッツ様はお一人だけです」


「でもまるで別人のようですが」


「エッツ様は気分の浮き沈みが少々おありなので」


(少々じゃないだろう)


アオイら3人は思った。


「私の方で用意しておいた衣装を着て頂きたいので衣装部屋にご案内しますわ」


 カーテンに囲まれたお着替えスペースにマルコスは誘導され、二人のメイドに化粧とヘアセットを入念にされ、衣装を着せてもらった。


 しばらくして、メイドがカーテンを開けると、真っ白い純白のドレスをきたマルコスが立っていた。


「あらあ、素敵」


 エッツは両手を口にあてて、喜んだ。


「エッツ様の作品は素晴らしい。さすがです」


 下を向いて、パチパチ手をたたきながら、マサキはエッツを労った。


「アオイ、お前もそう思うだろ」


「・・・・・・・・」


アオイは、目を見開いていて、ただ茫然としていた。


「おい、何か言えよ。どうなんだよ」


 マサキがアオイの肩に手を置いて、小声で尋ねた。


「アオイは感動して、声も出ないようです」


マサキはエッツに気を使って、そう言った。


「これはね、天使をイメージして作ったのよ。マルコスさんの声が天使みたいだから。アオイさんのデザイン画のイメージにも合ってると思うし」


 アオイは、スタスタとマルコスの方に行き、彼の手を取り、それから、カーテンをピシャッと閉めた。それから、マルコスを壁に押しやった。


「コレハ ナンダ」


 アオイは、目を大きく開けて、マルコスの口を手でおさえて、じっと見つめた。


「コロスキカ」


 マルコスはアオイの手を両手でつかんで、息苦しそうに言った。


「ドウシタンダ?」


 マルコスが、逃げようとしたんで、すかさずアオイは右足を、ドレスの上からマルコスの両足の間に挟みこんだ。それから、右手の肘でマルコスの首の下を抑えつけた。


 二人の顔はかなり近いところにあり、にらみ合う形になった。


「オマエ ビョーキカ?」


「病気?そうかも」


 アオイは、マルコスに噛みつくほど荒々しくキスをした。ものスゴイ勢いでアオイはマルコスにぶつかっていったので、マルコスは頭を思い切り壁にぶつかった。


「アウチ!!」


 マルコスは痛がっていたが、アオイは一切気にせず、息をするのも忘れて口をぶつけてきた。


「イキガ デキナイ」


「コロスキカ」


 マルコスは手でアオイを押しやり、自分から引き離そうとした。

 次の瞬間、マルコスはドレスの裾をふんずけて、バランスを崩し、後ろに転倒した。


「イテーーーー」


 マルコスは痛がりながら、体をおこそうとしたが、アオイがマルコスの上に座り込んで、馬乗りの状態になった。


「ナニスルキダ」


 アオイは先ほどのように狂ったようなキスを、マルコスに浴びせた。


「イタイ イタイ」


 マルコスは両手でアオイの顔を自分から引き離そうとした。


「ヘタクソ イタインダ ヨ」


 アオイがあまりに強く唇にあたっていったり、歯が当たったりしたので、マルコスの唇から血がにじんでいた。


 二人は床の上でもみ合いのようになった。

 アオイはドレスからむき出しになっているマルコスの肩をめがけて、思い切り噛みついた。


「イテーーーーーー」


「ヘルプ」


 マサキがマルコスの叫び声を聞いて、慌ててカーテンを開けた。


 そこには、床でからみあったマルコスとアオイがいた。


「お前ら、何しているんだ?」


 マサキが尋ねた。


「アオイ ニ オソワレタ」


 鬼の形相のエッツがアオイのところまで行き、巨大な右手でアオイの頬を思い切りビンタした。そのあまりの衝撃に、アオイはふきとばされて床にたたきつけられてしまった。


「この泥棒猫め」


 それから、マルコスを軽々と持ち上げて、お姫様だっこして連れて行った。


「お前、何したの?」


マサキがアオイに尋ねた。


「・・・・・・」


 アオイは、床に顔をつけてのびていた。


「クソーーー」


 マルコスはしばらくして帰ってきた。


「何があった?」マサキが尋ねた。


「モンスター ノ ヘヤ ニ イッテタ」


「何かされたか?」


「イヤ、キンパツ オトコ ガ タスケタ アブナカッタ」


「アオイとは何だったんだ?」


「キス シタ」


「良かったじゃん、やりたがってただろう?」


「・・・ビックリシタ アト イタカッタ アト スゴイ ヘタクソ・・・」


「キモチ ヨクナイ ガッカリ」


「ケダモノ」


「もう、やめて。すいませんでした」


 アオイは両手で耳をおさえた。


「クチ チ ダラケ ダヨ」


「すいませんでした」


「まあ、童貞だしね、最初はみんなそんなもんだから」


 マサキはアオイを励ましたつもりだったが、アオイは手で顔をおさえて苦悩していた。


「それはそーと、エッツ様のドレスはどうだった?」


 マサキはアオイに尋ねた。


「かわいいです。おかげさまで、勃起しました」


 アオイはマルコスをチラチラ見ながら言った。


「ヘンタイ ヤロウ」


「すいませんでした」


 アオイはマルコスに土下座した。


「ノゾイタラ コロス」


 マルコスはイライラしながら、エッツの服を脱ぎだした。すると、アオイのいやらしい視線に気づき、お着替えスペースに行き、カーテンをピシャリと閉めた。


 アオイは、残念そうな表情を浮かべた。


「あの白いドレスは採用だな」


 マサキはポンッと手を軽くたたいて言った。


「エッツ様と契約してこようっと」


「あの、狂暴な女性と?」


「彼女は天才だ。女が駄目なお前を勃起させるほどな・・・」


「あれ、かわいい女の子に着せても、お前、勃起するのかなあ?」


「しないと思います。マルコスはダントツでかわいいから」


「なに、お前、マルコスに惚れたの?」


「それは、分からないけど・・・」


 着換えが終わったマルコスがきまずそうに出てきた。アオイもきまずそうに下を向いてしょげていた。


 マルコスはアオイのティーシャツを両手で引っ張り、目をつむってキスをしようとした。


 アオイは両手でマルコスの顔をつかんでキスを阻止した?


「ナンデ ダ?」


「ごめん」


「ハア、イミワカンナイシ」


「jksdjhcdghfssskdjjdcxddc」


 マルコスは頭にきて、スペイン語で文句を言い始めた。


「ナンナノ?」


 アオイの襟元をつかみかかって、マルコスは文句を言った。、


「かわいいマルコスは好きだけど、今はかわいくないから・・・無理です」


「ゼンゼン イミ ワカンナイ シ」


 マルコスは、頭を両手でガシガシこすりつけてから頭を床におしつけた。



 マサキはエッツからレンタルしたドレスをフィギュア同好会のシショウとブッチャーにも披露した。


「これはまさにイメージどおりだ」


「マーベラス!!」


 シショウはうっとりしていた。


 ブッチャーも拍手して喜んだ。


 フィギュア同好会の部室に呼び出されたマルコスは、ムスッとした表情をしていた。


「ぜひ、マルコス様に着てもらいたい」


 シショウは、チラチラ横目でマルコスを見ながら言った。


「コトワル」


「しょうがないなあ。でも、マルコスが着た時の画像があるから」


 マサキはスマホをシショウとブッチャーに見せた。


「これは、うっうううう」


「どうです?」


「うっうううう」


 師匠は、しばらくうなっていた。


「美しい。これはまさに想像以上だ」


 シショウは大喜びし、ブッチャはパチパチ拍手した。


「写真スタジオを予約したから、さっそく写真撮影しようと思うのだが」


 大学の校内にあるスタジオに移動し、気乗りしないマルコスをひきずって移動した。


「絶対にこのドレスは着ない!」


 マルコスは声高に宣言した。


「こんなに似合ってるのに」


 シショウはとても残念がった。


「そんなこと言わずに着てみてよ」


 マサキがうながした。


「ヘンタイ ノ マエ デワ キナイ」


「分かった」


 マサキは、嫌がるアオイを外に連れだし、ドアに鍵をかけてしめだした。


 スタジオのすみにある衣装部屋で、メイク担当のユリユリが待ち構えていた。


 ユリユリが好きなブッチャはユリユリに手を大きく振って喜んだ。ユリユリも仕方なさそうに手をふりかえした。


「あれ、アオイがいないじゃん」


「アオイはちょっとあって、スタジオの外に出した」


「はっ?アオイに頼まれたんだけど」


「そんなこと言わずに、マルコスをかわいくしてよ」


 マサキはユリユリをなだめた。


「どんな感じにするの?」


「純粋無垢な天使で」


 キラキラした希望に満ちた目をしたシショウが言った。


「はっ?このチャラいパツキンスケベ野郎を天使にしろと?」


 マサキは前回ドレスを試着した時の画像をスマホでユリユリに見せた。


「この時はプロにやってもらったんだけど、いくらユリユリでもプロにはかなわないかあ」


「ユリユリの整形きゅうメイク動画はバズったこともあるんですけど」


「絶対に負けるわけないんだから」


 マサキはユリユリの負けん気を刺激し、やる気に火をつけた。


 化粧が完成し、衣装を着たマルコスがスタジオにやって来ると、シショウは感激のあまり涙ぐんだ。


「美しい」


 ブッチャーも同意し、うんうんとうなずいた。


 マルコスに照明を当てて、マサキが撮影を開始した。


「何かさー、ポーズが固いんだよねえ」


 マサキがややうんざりしながら、マルコスに指摘した。


「ハア、ワカンネエ シ」


「もっとさあ、自然に、かわゆく出来ないかなあ?はじらってる感じとかさあ」


「私にまかせなさい」


 シショウがババーンと自信満々に答えて、マルコスの前に立ちはだかった。


「マルコス君、私のポーズを真似してくれたまえ」


 すると、シショウは天使のような美しい神々しいポーズをした。


「おおー、さすがシショウ。今まで数多くの歴代のフィギュアを観察してきた男だけある」


 ブッチャーが感心した。


「天使のポーズはだいたいパターンがあるんだぞ!高い天使フィギュアは高貴で威厳のあるポーズ。安めのひたすらかわいい天使フィギュアのポーズだって定番ポーズというものがあるのだ」


「勉強になります」


 ブッチャーはパチパチ手をたたいた。


 何100枚と写真を撮っても、シショウはノリノリでポーズをとっていた。その反面マルコスは疲れ切って、「もう勘弁」とばかりにマサキにウンザリした表情をしてきた。


「モウ ムリ ツカレタ ヤメロ」

 

「良くとれてるし、いい感じだよ」


「ソウダロ ソウダロ ダカラ オワリニ シロ」


「でも、さあ」


 マサキは、なにか不満げに話し始めた。


「さもありなんていうか、よくあるポーズだっていうのは分かるんだけど、なんかさあ、パターン化してるっているか、なんかもう1つ足りないんだよ」


「美少女フィギュアは期待を裏切らないことが重要なのだよ。美少女フィギュアには型があるのだから、これで良しなのだよ」


「なんかエロさが足りないんだよ、なんかさあ別にパンチラとかチラ見せしろっていうんじゃなくてさあ、なんつうか、そう恥じらいみたいなの」


「いやいや、マルコス君は純粋無垢な高潔なイメージがあるのだから、それに高級フィギュア路線を目指しておるのだから」


「いや、まあ、そうなんだけどね、でもそもその名前がパツキンマル子だからね」


 マサキとシショウが議論をした。


 マサキはうーーーんと眉間にしわをよせて考えてから、意を決して、ある提案をした。


「よし、ここでアオイを投入しよう」


「エーーーー」


 マルコスが叫んだ。


「アオイ ヘンタイ オソワレル キケン ダ」


「なんだと!!」


「はい、1回おそってもらいましょう」


 ユリユリがアオイを迎えに行くと、アオイは扉の前でいじけていた。


「なんかマサキさんが呼んでこいって」


 アオイはパアッと輝いて嬉しそうな表情をした。


「アオイ、15分間マルコスを好きにしていいから、俺たちはお邪魔だから外に出てる」


「ハア?オニ カ?」


 同好会メンバー達はマルコスをその場に残して、スタジオの外に慌てて出て行った。


 ユリユリとアオイがスタジオに入ってくるとブッチャーがユリユリを呼んだ。


「ユリユリさん、こっちに来て!アオイとマルコスを2人きりにさせて下さい」


「ちょっと、何でよ」


「こっちで説明するので、早く来て下さい」


 スタジオでアオイとマルコスは微動だにせず向かい合った。


「今日は髪が長いんだね」


「ウィッグ ダ」


「すごい、かわいいね」


「アタリマエ ダ」


「オソワナイ ノカ?」


「理性で耐えてます」


「タッテル?」


「立てる?ああ、そうか、大丈夫なんとか立ってる」


「タッテル カ・・・」


「そうそう、心臓がバクバクいってるけど、大丈夫だから」


「デモ ガンガン タッテル ンダロ?」


「そうそう、立ててるから」


「ヤリタイン ダロ?」


「いや、そういうつもりは・・・」


「スケベ ヘンタイ ヤリチン」


「そうです、スケベでヘンタイです。でもヤリチンはマルクスだろ?」


「ソウデス ワタシ ガ ヤリチン デス」


「サワリ タイ ダロ?」


 マルコスは長いスカートをめくって、太ももまでまくり上げた。

 マルコスの挑発に、思わずアオイは叫んだ。


「いやー、やめてーーーー!」


「ドウダ サワリタイン ダロ」


「触りたいです」


「ユリユリ ガ オンナ ノ アンダーウェア クレタ」


「ミタイ ダロウ?」


「ホレホレホレホレ」


 マルコスが下着が見える寸前までスカートをめくりあげて、アオイに迫ってきた。


「もうやめてーーーーーー」


 アオイはドアの方へ逃げて行こうとしたら、足がからまってその場に思い切り転んでしまった。起き上がろうとすると、なんと上からマルコスがまたがってきた。


「理性がーーーー、俺の理性が壊れるーーーーーーー」


 アオイの上で、マルコスは長い髪を後ろへかきあげてから、アオイの目を至近距離で見つめた。


「ホントダ タッテル」


 アオイの耳元でマルコスはささやいた。


「そっちのたって」


 アオイが絶叫し終わる前に、マルコスはアオイにキスをした。

 アオイの脳裏がゆらぎ、押し倒しそうになる欲望をおさえきれずにいたが、マルコスがアオイの腕をしっかりつかんでそれを阻止していた。


 すると、スタジオのドアがバターンと思い切り開いた。


「はい、OKです」


 からみあったアオイとマルコスがぽかんとマサキの方を見た。


「はい、あったまったとこで撮影再開」


「今度はアオイがポーズを指示して!!」


「俺が?」


「そうそうマルコスにやってもらいたいポーズをしてもらうんだ」


「そうか、そういうことなら・・・」


 アオイは股間をおさえながら、ヨロヨロと立ち上がった。


 そして、アオイはスカートを完全にまくり上げたポーズをして見せた。


「アオイ君、そんな、いやらしい」


「露骨すぎるよ」


 シショウとブッチャーが両手をブンブン振って「駄目よ」と合図を送った。


「ヘンタイ メ」


 アオイはあまりの興奮状態でこれからって時に邪魔が入って、もう頭がかなりバグっていて、グラグラ倒れそうになりながら支持を出した。


 経験豊富なマルコスも変態ポーズの指示に羞恥心から耳まで真っ赤になっていたが、もう勢いでスカートを思い切りまくりあた。


 そこには確かにユリユリがあげた女ものの赤いパンティーが現れた。


「おーーーーー」


 シショウとブッチャーが叫んだ。


「赤だったかーーーーーーー」


 アオイは絶叫し鼻血を出しながら、後ろにゆっくりと倒れて行った。


「コノ ヘンタイ」


 マルコスは真っ赤な顔をして、吐き捨てた。


「ユリユリのあげたパンツはいてくれたんだ」


 ユリユリは嬉しそうに言った。


「ユリユリ、マルコスはやっぱり白じゃないと」


「えー、なんでえ?」


「だってほら、赤だったかあって、アオイも言ってたし」


「意味わかんないし」


「いやだから、アオイは白を期待してたんだって」


「赤かわいいじゃんねえ」


「純粋無垢なマル子は白じゃないと」


「でも名前がパツキンマル子だよ。ふざけてるじゃん。赤でしょ」


「まあ、そうだけど」

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