第8話 ユリユリ登場
ある日、アオイが外階段でぼーっとしていると、ミチョに呼び出しをくらっていたユリユリを見つけた。
ユリユリは地下アイドルをしているくらい可愛くて身長の小さくロリータ風のかわいい服とウサギの耳がついたフワフワした帽子をいつもかぶっているような可憐な女の子だ。ユリユリはいつも1人でいておとなしそうな感じだったので、アオイにとっては同じ油絵科のクラスの女子でユリユリだけは会話ができた唯一の女の子だった。
ミチョは取り巻きの女子2人を後ろに従えて、例のごとくユリユリの顔の近くまで自分の顔を近づけて、例のごとくつけまつげをバサバサ動かしながらメンチをきっていた。
そして、ユリユリが何か言った瞬間、ミチョが平手打ちをユリユリにくらわした。
ユリユリはしばらく下を向いてぶたれた頬を両手でおさえた。そして次の瞬間、なんとグーで思い切り、ユリユリがミチョを思い切りパンチした。ミチョはパンチの威力が強烈でその場にヨロヨロと倒れこんだ。
みちょの取り巻きAとBがユリユリをおさえつけた。
「こいつやばいんだけど」
「あやまりなさいよ」
ユリユリは下を向いてクスクス笑い出した。
ユリユリは取り巻きAに頭突きを食らわした。取り巻きBは一目散に逃げて行った。
「このくそが」
とユリユリは吐き捨てた。
「ざまーみろ」
ユリユリは捨て台詞を放ち、アオイの横を通って行った。
その際、アオイと目が合い、気まずそうな表情を見せた。
ある日、総務部にアオイは呼び出された。
「美津子さんと愛子さんと由美子さんが百合子さんから暴力受けったって言っていて、あなたが目撃していると言ってたんだけど」
(ミチョは美津子さんっていう名前だったのか!!)
「僕は何も見ていません」
ある日、ユリユリにアオイは呼び出された。
「黙っていてくれて、ありがと」
「あ、いやべつに」
「何かあったの?」
「ミチョの彼氏を奪ったんだよ」
アオイはずっこけそうになった。
(そりゃあ、恨まれるわ)
「でも、なんで殴り返したの?」
「殴られたから?」
「彼氏をとったんだよねえ?」
「そうだよ、でも叩かれて痛かったし」
(ミチョはマルコスを推しだって言ってたのに、彼氏がいるとは)
(自分の彼女が推しに夢中になっているのって、彼氏は嫌じゃないのかなあ?)
「あのさあ、お願いがあるんだけど・・・」
「私と友達になってくれない?」
急な友達申請に、アオイはおののいていると、すかさず
「ヒロキって女嫌いでしょう?」
「いや、そんなことないだけど」
「ああ、そうか。女の集団が嫌いなんでしょ?」
「あっ、そうそう」
「大丈夫、私もそうだから。」
「それに私って、女から嫌われる女だから」
「だから安心して!!」
「ねえ。知ってる、弱い女ほど、群れるって」
「あいつらは集団にならないと、何も主張出来ない可哀そうなやつらなんだよ」
「そうなの?」
「そうだよ」
アオイは返事をしなかったが、強制的に友達関係とされてしまっていた。
「ちなみにクラスの3分の1の女子の彼氏も奪還済みだから」
「でも、今狙っているのは、教授のアサクラ。飲み会で自分の彼女連れて来てたんだよ。アーティストよ。そこそこ有名。フジコっていうんだけど。すごい頭よさそうだった。」
「で、欲しくなっちゃったってわけ」
(知的な彼女いて、欲しくなっちゃった?それが略奪する理由になるのか?)
(アサクラは、マサキの浮気相手だったけど。アサクラからしたら、マサキが浮気相手なのか・・・なんかややこしいなあ)
(アサクラの彼女が恋のライバルで、マサキも恋のライバルになるのか?)
「アサクラはやめておいた方がいいよ」
「えっ、何で?」
「アサクラはすでに浮気してるよ」
「相手は誰よ」
「俺の先輩」
「はあ?許せないだけど」
「なんか、アサクラの個展のオープニングパーティーで、その先輩が自分の彼氏を連れて行ったら、そこにアサクラの彼女のフジコさんがいたらしくて。先輩の彼氏はギャラリーのオーナーで美術館のキュレーターの仕事をしていて、どうやら
フジコさんと知り合いだったらしくて、一緒に飲んだらしくて。その先輩いわく、アサクラとの関係がいつバレるか分からないハラハラしたスリルが逆に刺激的でたまらなかったと言ってた。でもアサクラは終始下を見ていたって言ってた」
「だから、アサクラは手を引いた方がいいよ」
「それよりもあんたの先輩、いかれてるよねえ?」
「俺には優しいよ」
「いいあんた、優しいヤツが世の中ではね一番怖いんだから。何考えてるか分かんないんだからね。優しいヤツっていうのはこっちのことを全肯定しているようで、ジッとこちらを観察しているんだから、だから敵にまわしたらヤバイね。だってこっちの弱点をすでに見抜いているからね」
「そうなの?」
「ほんとあんたは世間てものを何も分かってないんだから」
「あんたの先輩に会わせてよ」
「別にいいけど」
アオイはユリユリを、フィギュア同好会に連れてきた。
「あー、アオイ君はこっちの人なの?」
「こっちって何?」
「生身の女よりも人口ものがいいってこと!」
「ああ、そういう意味か」
「私、てっきりアオイ君はゲイだと思ってた」
「なんでそう思うの?」
「だってほら、いつもタクロウ君とイチャイチャしてるし、何か最近あの有名人のマルコスさんとも噂があるしね」
「彼らは友達だから」
「いやー、タクロウ君はガチでアオイ君ねらいだと思うけどね。だっていつも異常に体を密着させてとなりに座っているから」
「いや、そういうんじゃないから」
「じゃあ、アオイ君は、タクロウ君とマルコスさん、どっちが好きなの?」
「2人ともただの友達だから」
しばらくして、部室にユリユリ1人を残して、アオイは自動販売機にお茶を買いに出て行った。ユリユリは暇を持て余して、タバコをピンクのバックから出して、ライターで火をつけた。
そして、机の上に足を組んで座って、豪快にスーハ―煙草を吸い始めた。そこへアオイと合流したブッチャーとシショウがやって来て、3人はびっくり仰天した。
ユリユリのピンクの帽子はウサギの耳がついて、洋服もピンクのふわふわした可愛い感じだが、スカートはミニスカートで足を組んでいたので、太ももが丸出しになって、そこから黒のガーターベルトがチラリと顔を出し、足のほとんどは網目の入ったガーターストッキング着用のかなり挑発的な体勢になっていた。
「なんだあのリアルエロエロ女子は!」
シショウは目を見開いて叫んだ。
「なんと、この部室に女子だと、にわかには信じがたい」
「君、部屋間違えているし、机の上に座っては駄目だぞ、そこは作業場だぞ」
「しかも、タバコを吸ってやがる。よせ、よせ、タバコを吸うのをやめろ」
「ここは神聖な場所だぞ」
「とにかくタバコはダメだ。フィギュアににおいがつく」
シショウは半狂乱になって怒り狂った。
「えー、フィギュアってこのエロ人形のこと?」
ユリユリはブッチャーが作成中のフィギュアに向かって、タバコの煙を思い切りはきだした。
「イヤーーーーーー」
ブッチャーがそのフィギュアのもとにかけよりながら、ショックで奇声を上げた。
「うるせーよ、このタコ」
ユリユリはタバコをブッチャーの腕にこすりつけて、タバコの火を消した。
「ギヤーーーー」
ブッチャーが強烈な痛みとショックで再度奇声を上げた。
「ブッチャー君になんてことを」
「悪魔のような女めえーーー」
シショウが激怒。
「ほんと悪魔のようなしびれる悪い女だ」
ブッチャーがやられた箇所をおさえながら、ニヤニヤして微笑んでいたので、
「ブッチャー君、これ、君ちゃんと怒るとこだよ」
シショウは注意した。
すると何故か、ゆでだこのように頭まで真っ赤になったブッチャーはユリユリを手招きして、奥の休憩スペースの椅子にユリユリを座らせて、お茶をだしてもてなし始めた。
「フィギュアに興味あるの?」
モジモジしながら、ブッチャーはユリユリを質問攻めにし始めた。
「いや、ぜんぜん」
「じゃあ、なんでここにいるの?部室間違ったの?」
「ユリユリは、アオイの友達なんだよ」
「アオイ君の?」
「ユリユリは、アオイと同じ油絵科なの」
「あのー、そのウサギの帽子スゴイかわいいね」
「あっ、これ、そうなのかわいいでしょ」
シショウはあきれながら、
「ブッチャー君、その女子と嬉しそうにお話してないで、タバコの件注意してくれたまえ」
「フィギュアはねえ、タバコの匂いつくと商品価値が下がるからやめてね」
「分かった。それとさっきは火傷させてごめんね」
「いやいや、ブッチャー君、なんかいい感じになってるけど、注意したまえ。初対面の人をちゅうちょなく火傷させるなんでイカレすぎちゃいないか。これは通報もんだぞ」
「ごめんてば、ユリユリ、地下アイドルしてんだけど、今センターで超ストレスかかえてて、気を付けてるんだけど・・・」
ユリユリが涙をポロポロ出し始めた。
ブッチャーが白いハンカチでその涙を丁寧にふいてあげた。
「ありがと」
それからずっとユリユリはいろんなことをグジグジと愚痴り始めた。
「マネジャーのヒロキがひどいのよ」
「ヒロキはさあ、たいしてかわいくないのに、とか、もういい年だから、とか、もっと愛想よくしろ、媚び売れとか、うるさいし。売れる為に、キモオタファンのヌルヌルした手と握手しなくちゃならないし、キモオタ社長に媚びをうらなければならないとか、もう嫌なのよお。アイドルは。それにアイドルグループも嫌なの、ブスがあーだこうだってうるさいし、もっとセンターらしくしろ、とか、ダンスが下手とか、真面目なブスがマジでうるさいのよ。私はもっと楽して稼ぎたいのに」
「人のせいにしてばかりじゃないか、どんなに嫌な目にあっててとかさあ、それが人に火傷させていい理由にはならないんじゃ」
シショウがまっとうなことを言ったので、
「チッ」
と、ユリユリが舌打ちをした。
「うるせー、おっさん」
「はあ?なんだこのくそ女は」
アオイはユリユリがタバコの火をブッチャーにこすりつけたあたりから、やばい女を部室に連れてきたことへの後悔と自責の念で部室のドアから中に入れないでいた。
(シショウに怒られる前に逃げちゃおうか?)
「こんなとこにつったって何やってんだ?」
そこへ、マサキがやってきて、不思議そうにアオイを見た。
「中に入らないのか?」
「シーーーーーー!」
アオイは、ひとさし指を立てて、黙ってくれって合図した。
「じゃあ、こうしてやる」
ユリユリはタバコを思い切り吸い込んで、フィギュアに思い切り煙をふきつけた。
「このイカレ女め!」
「なんだと、このキモオタオヤジめ」
「ブッチャー君、この女を追い出したまえ」
ブッチャーは仕方なく、ユリユリの腕を掴んで外にユリユリを連れていこうとしたら、ユリユリはブッチャーの手にをつかんだその瞬間、思い切り噛みついてきた。
「ぎギギギャーーーーー!!!!」
ブッチャーは叫んだ。
「このバカ女めーーーーー、またやりやがった」
怒り狂ったシショウと運悪くアオイは目が合ってしまった。
「あっ」
「アオイ君、君のご友人をなんとかしてくれ」
「ほんと、すいません」
「アオイの友達なの?」
マサキはアオイに尋ねた。
「そうなんです。なんかマサキさんに話があるって、言ってて」
アオイがコソコソ説明しようとすると、
「あーーー、あんたがマサキ?」
「そうだけど」
「私はあんたに怒ってるのよ」
「うーーーーん、どっかで見たことあるなあ」
マサキは頭を傾けて、思い出そうとした。
「そりゃー、見たことあるでしょうよ、私は地下アイドルしてるんだから」
「いや違う、そうそう、ヤリマン性悪ユリちゃん」
「はあーーーーーーー?」
「ああ、思い出した。スッキリした」
「こっちは全然スッキリしないわ。誰がそんなこと言ってるのよ?」
「油絵科の女子達、女子達」
「なるほど、あのブス連中なら、言いかねん」
「俺に用があるの?」
「そう、私が狙っていたアサクラの浮気相手ってあんた?」
「違うよ、俺の浮気相手がアサクラだってば」
「アサクラのクソ彼女からしたら、あんたが浮気相手なんだってば」
「へー、アサクラって彼女いたの?」
「いるのよ、正確には婚約者がね」
「そうなんだあ」
「そうなんだあって、それで終わり」
「そうそれだけ、別にそれはどうでも良くない?やりたいからやっただけ」
「はあ、意味わかんない」
「じゃあ、君はなんでアサクラとやりたかったの?」
「私は嫌な女から大事なものを奪うのが好きなの」
ユリユリは自信満々に胸をはって堂々と言ってのけた。
「うわーー、サイテー」
「サイテー、そうまあ最低だけどね」
「あのさあ、アサクラの彼女って嫌な女なの?」
「えっ、例えば、結構有名なアーチストで売れてて、そこそこ美人で、賢そうで、なんとなく嫌味に見えるというか」
ユリユリはなんか気まずそうに小声でゴニョゴニョ説明した。
「なにそれ、嫉妬?うらやましいの?何か奪って、彼女に勝った気になるの?君屈折してるね」
「へっ?悪い?」
ユリユリは客観的に見て、自分は結構イタイ人間なのかと遠回りに言われたようで、ショックを覚えた。
「悪くはないと思うよ。でも、すっげーサイテー、で、おもしろい、君採用!!」
マサキはフィギュア同好会のメンバーの方を見て、言った。
「ユリユリのフィギュア作ってよ。まずはアオイちょっと軽くデザインが作ってみて」
シショウは気乗りしなさそうだったが、即興で小悪魔風のポーズをとった。
「何やってるの?」
ユリユリは尋ねると、
「あの、ポーズちょっとやってみて」
と、マサキが説明した。
ブッチャーはすかさずデジカメで撮影した。
「すっごい、かわいい」
「すっごい、いい」
「さすが、みんなのアイドル」
ブッチャーが褒めてくれて気を良くしたので、ユリユリはシショウのポーズ10通りくらい真似してやってくれた。ブッチャーの撮ったデジカメ画像をパソコンモニターで参考にしながら、アオイはユリユリのデザイン画を作成した。
アオイは、奴隷のようになっているブッチャーらしき坊主とそれを踏みつけているユリユリのデザイン画を描いた。
アオイは、満足げな顔をして、
「はい、採用」
と、言った。
実際にユリユリにはポーズをつけてもらってたので、かなり再現度が高かった。
ユリユリはこの体験から、オタク達相手に撮影会を個人で開いて、稼ごうと思いついた。そして、ブッチャーをボディーガードにして稼ぎまくった。
火傷させられたにもかかわらず、ブッチャーはユリユリに一目ぼれしてしまった。ユリユリはメイド喫茶でバイトしてたが、ブッチャーはそこに熱心に通って、ユリユリを指名しまくっていた。
ユリユリはブッチャーに誘われて、暇な時はフィギュア同好会の部室で時間をつぶすようになった。
アオイはブッチャーから撮影会のことを聞いて、心配になってそのことについてユリユリに聞いてみた。
「ユリユリ、撮影会でオタク集めてやってるんだって?それって、変な人もくるし、やめというたら?」
「確かに、怖いこともあるんだよね。パンツ見せろとかさあ。サービスショットが足りないとかクレーム多くて。口と脇汗とか臭いキモオタがハアハア言ってたり、すごい至近距離まで来たり、それからそれから・・・・・・もうやめようと思ってる」
その話を聞いたマサキが、パソコンでオークションサイトでフィギュアを出品したり、売り上げ確認しながら、ある提案をした。
「それならさあ、新作フィギュア用に、ポーズとってくれない?高く売れたら、ユリユリにもいくらか払うから」
「これブッチャーがつくったユリユリのフィギュア」
マサキはパソコンモニターをユリユリの方に向けて見せた。
「何これ?フィギュア?何私?」
「そう、ブッチャーが君をモデルに作ってたんだ」
「何これ、私?あいつ勝手に私を作ってたの?」
「あいつ。いろいろ協力するとか言って良かったのに。
私に内緒にこんなことしてたの?」
「これ、なかなか人気でさ。いくらで売れたと思う?」
「は?」
ユリユリの耳元で、マサキは囁いた。
「2万円ちょっとだよ」
「はあ?」
マサキは、ため息交じりに、言った。
「残念、もっと高く売れると思ったのに」
(ブッチャーのデザインは可憐すぎ定番商品って感じでありふれてるんだよね。そこへゆくと、アオイのデザインは良く言って小悪魔的、悪く言えばすっげー底意地悪そうで凶悪風悪女。アオイのデザインは3万円で売れたんだけど、そっちは黙っておこう)
「モデルが良くなかったのかな?」
マサキはユリユリをちらりと見ながら挑発してきた。
「私のせいじゃないわよ。そうよブッチャーのせいだよ」
「じゃあさあ、もっと売れるように、ユリユリも協力してくれない?」
「見て見て、女マルコスは4万円の値段が付いたんだよ。君の倍の値段だよ。まあ、パツキンは強いわ」
「マルコスになんてまけてられないわよ。そうよ私が協力すれば5万になるわよ」
それから、ユリユリは一方的にマルコスをライバル視するようになった。
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