第9話 タカコ登場

 ある日のあさ、アオイはリビングでテレビを見ていると、家のチャイムがなったのでドアを開けると、マルコスが立っていた。


「イエ デ ヤルゾ! ヘンタイ スキモノ クソヤロウ」


「やりません」


 アオイはドアを閉めようとしたら、マルコスは左足を隙間にはさみこんでドアが閉まるのを阻止した。


「イイダロ ヘルモンジャナイ カラ」


「へるわ」


「コレ ミロ」


 マルコスは紙袋をドアの隙間に差し込んできた。


「なにこれ?」


「パツキンマルコ ノ シンサク コスチューム」


「ミタイダロ?」


「見たいです」


 マルコスは強引に家の中に入ってきて、服をいっきに脱いで裸になった。

 その様子をアオイはマジマジと目を見開いて見ていたが、


「ミルナ ヘンタイ」


と言われたので、慌てて後ろを向いた。


 マルコスは、持ってきた衣装を着た。そして、自前のパンツを脱ぐと、ユリユリがくれた女性用の赤いパンティーをつけた。


 緊張で心臓がバクバクしていたアオイを、マルコスは後ろから抱きしめた。マルコスはアオイの首筋を軽くキスし、そこから耳の後ろまでゆっくりとなめてきた。アオイはゾクゾクするような快感を感じた。


 アオイはたまらずマルコスの方にふりかえりキスをしようとすると、マルコスはソファの方にアオイをつきとばした。ソファに横たわったアオイの上にマルコスはまたがり、顔を近づけてキスをしようとしてきたのでアオイは目を閉じた。


 ところが、目を閉じて待っていたのに、いつまでたってもマルコスはキスしてこないので、アオイは目を開けてみると、そこにスラリとした背の高いショートカットの女性と小学生くらいの男の子が立っていた。


「タカコ・・・」


 マルコスが彼女の名前をつぶやいた。


「マルコス、会いたかった」


「ワタシ ワ・・・・・・」


「何で連絡くれないの?」


「ソレハ・・・・・・」


マルコスは気まずそうに、アオイの方をちらっと見てから、タカコを見た。


「ナンデ ココ ワカッタ?」


「マルコスにGPSつけてるから」


「ヒーーーーーー」


 マルコスは悲鳴をあげた。


(マルコスに子連れストーカー?怖すぎる)


 アオイは怖くなって悪寒を感じた。


「こちらは、誰なの?」


「あっ!この人って確か・・・ほんと私にそっくり」


 アオイは最初なんのことが分からなかったのだが、タカコが顔を近づけてきたので、すぐにその意味が分かった。


 なんと、タカコはアオイそっくりの顔をしていたのだ。身長が高くやせ形のところもアオイそっくりだった。違いといえば性別とメガネの有り無しくらいだった。


「ふーん、そういうことね。本物に会えたんだ。で、私とはどうするの?」


 タカコはソファに、足をくんでドサっと座った。


「何でそんな女もののドレス着てるの?」


「・・・コレワ・・・シュミデス・・・イヤ・・・ワタシ ニホンゴ ワカリマセン」


 マルコスはほんとに困った顔をして、縮みこんでちびりそうになっていた。


 彼女は質問交戦を続けた。


「私はマルコスにとって何なの?」


「カノジョ デス」


「彼とはどういう関係なの?」


「カレシ デス」


「で、あんたは彼の彼女なわけ?」


「カレシ デス」


「でもその恰好は女だよねえ、つーっとあんたは彼の彼女なんじゃないの?」


「カレシ デス」


「でも、女装してるじゃん」


「カレシ デス」


「あんたいつから女なんだよ?」


「オトコ デス」


「でも女じゃん」


「オトコ デス」


「あんた心が女ってやつ?なにこれオカマ?ゲイ?」


「オトコ デス」


「そう、男です。そんなことはどうでもいいわ!!!」


 どっかーん、ついにタカコはキレた。


 アオイは、タカコとマルコスの意味不明の会話を聞きながら、「いつ逃げようか」と考えていた。そして、タカコの子供らしき男の子を連れて家の外に逃げた。


 アオイは、おじゃま虫がいなくなったことで、タカコがマルコスと自分の家でいちゃつくのはどうしても嫌だとも思った。でも、タカコには息子がいる。タカコに夫がいれば、これは不倫だ。2人が燃え上がれば燃え上がるほど、絶対に良くない。


「君はタカコさんの子供なの?」


 タカコの子供が不憫に思えて聞いてみた。


「そうだよ」


「名前は?」


「トシユキ」


「あのマルコスって人、ママの彼氏なんでしょ?」


「さあ、俺タカコさんに会ったのはじめてだから分からない」


「そうなんだ、でも大丈夫だよ。パパも不倫してるから」


「えっ?」


「そう、仮面夫婦ってやつだよ」


 トシユキが当たり前のように普通に言ってのけたので、アオイは驚いた。


「トシユキ君は嫌じゃないの?」


「どうでもいいかな」


「そうなの?」


「気づいた時にはパパが週刊誌で不倫スキャンダルおこしてた」


「パパって有名人なの?」


「パパ、社長なんだよ」


 すると家から、ガタンバタンドンドンという音が聞こえてきた。


(ヤバイ、マルコスとタカコが激しいメイクラブというやつをやり始めてしまったのか?自分の子供が近くにいるのにおっぱじめるのは良くないにきまってる)


 アオイはドアをバターンと思い切りあけると、そこには信じられない光景があった。


 マルコスはパンツ1枚で土下座をしていて、彼の自慢の金髪の髪をタカコが踏みつけていたのだ。


「できないなんてふざけるんじゃねえよ」


 タカコはまるで悪魔のような形相で怒り狂っていた。


「モウシワケ ナイデス タカコ サン」


 マルコスは半べそをかいていた。


「べつに好きでなくたって、いいんだよ」


「ムリナン デス」


「あーん?

 たださあ、目を閉じて寝ててくれれば、すぐ済むんだよ」


「ムリデス」


「はー?はー?このやろうだな、このやろう」


「やってられんわ、やってられんわ。

ブスでバカなママ友とのくだらん食事会、マジくそつまんない

息子とのお受験勉強

なんで小1から受験勉強せにゃあかんのか?

夫は外で遊ぶまくってるし」


「なんでこんなに頑張っているって?

旦那は金持ち、愛人は若いパツキンのイケメン

4歳の時から決めてたの、結婚するのはお金持ち、

彼氏はパツキン王子って」


「あんたは私の理想なんだから」


「ちょっとくらい発散させてちょうだいってお願いしてるじゃないの?」


「なんだーーー??、女か??新しい女か???いや違うな男だったな、男だったなーーー、男か?」


「つーーーか、なんで相手男なんだよ、ややこしいなあ、あんた、カマか?ゲイか?」


「イヤー、ソノーーー」


 マルコスは、助けをもとめるような困った顔をしてアオイの方を目でヘルプのサインを送ってきた。


 アオイはまずいと思ってわざとらしく視線を外した。


 それから、再度マルコスの方に視線を送り、暗に「俺は関係ない」と匂わすように、手を横に何度もふってみせた。


「ああー?

 ああー?

 そうかこいつのせいか?」


 タカコがアオイの方に今にも殴りかかってきそうな勢いできたので、マルコスはうしろから羽交い絞めして彼女を抑えつけた。


「君は誰?名前は?」


「あんた、私そっくりなんだけど。男?女?どっち?」


 タカコの目が見開いて血走っているので、アオイは口をパクパクしたが恐怖で声がでなかった。


 それから、タカコはマルコスの方にふりかえり、鬼の形相で彼の首を両手でしめあげようとした。アオイはとっさにタカコの手をつかんで首をしめるのを阻止しようとした。


「コロサレル」


「死ねー」


 アオイは何とかタカコをマルコスからひきはなしてから、慌ててドアを閉めて、タカコの息子のいる外に戻った。


(やっぱり、女って怖い・・・)


 アオイはため息をついた。


 しばらくタカコは暴れたらスッキリしたらしく、何事も無かったような涼しい顔をして外に出てきて、トシユキを連れて帰って行った。


 パツキンマル子の衣装は切り裂かれ、棚におかれた本棚は倒れ、部屋はめちゃくちゃ、タカコが暴れまくった跡が如実に残されていた。


「たいへんだったね」


「モウ オンナ ワ コリゴリ ダ」


「でも、どうせ誘われたら、やっちゃうんだろ?」


「ヤッチャウ カモ・・・」


「じゃあ、どうしようもないね」


「アオイ ヤラセテ クレタラ ホカノ オンナ ト ワ シナイ ノニ・・・」


「いやあ、あれ見たら、やらないでしょ」

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