第4話 ようこそフィギュア同好会へ

 今日も、マルコスが勝手にアトリエに入ってきていた。

 マルコスは、アオイのクロッキーブックと鉛筆を勝手に使い、アオイの横顔を描き始めた。

 しばらくして、モデル(この日は幸い衣装をつけていた)の休憩時間になった。


 マルコスは絵画学科でもないのに基本的なデッサンスキルがあるらしく、かなり忠実にアオイの横顔を描いていた。


「マルコスって絵うまいよね」


「ワタシワ ナンデモ デキル ンダ」


「ニホンゴ エイゴ スペインゴ ハナセルシ」


「カンペキナ オトコ ガ オマエノ ボーイフレンド デ オマエワ proud(誇り) ニ オモウベキダ」


「また来てる!暇なのか?」


 となりに陣取っているタクロウが、会話に加わった。


「3ネンワ イッパンキョウヨウ ホボオワリ ジユウジカン オオイ ンダ」


 お昼になると、食堂でタクロウ、アオイ、マルコスで食べていると、ミチョと取り巻き達も強引に周りの席に取り囲むように座り始めた。


 以前は、マルコスがアトリエに来るたびに周りの女子達が騒いだが、ミチョが「うるさい!」と、一括したおかげで、それ以来女子達が騒がなくなったおかげで、マルコスは当たり前のようにアトリエに出入りするようになっていた。

 そして、なぜかミチョたちとお昼を食べるのが慣例になっていた。


「マルコスとアオイはどういう関係なんですか?」


 ミチョの取り巻きAが尋ねた。


「ワレワレワ セックス パートナー ダ」マルコスは、胸をはって答えた。


「ぐおっ」


 アオイが食べていたものをふき出した。


「キャーーーーーー」


「イヤーーーー」


「リアルBL?」


「アオイ君は、女子が苦手だと思ってたけど」


「アオイ君こっちだったのね」


 女子達は、悲鳴をあげた。


「本当か?」


 タクロウがアオイに元々大きい目を見開いて問いただした。


 アオイは小声で、ボソボソとタクロウに説明した。


「違うそうだ。マルコスの冗談だ」タクロウは女子達に説明した。


 女子達はみんなほっとし、安どの表情になった。


「マルコスは付き合っている人はいるんですか?」


「アオイ ダ」


 女子達は、「はいはいそうですね」とばかりに、今度は真に受けなかった。


 食事が終わって、タクロウはボディービルサークルに行ったので、マルコスとアオイは2人きりになった。


「アオイ ワ コノアト ヒマ ナノカ?」


「俺もサークルに行くんだよ。じゃここで」


と言ったのだが、マルコスも何故かついてきた。


「なんだこのリア充パツキングッドルッキングハンサムガイは?」


「確かに、絵画学科は地味系オタク風の外人しか見たことなかったのに」


「こんなキラキラしたまぶしい外人はじめてみたぞ」


 サークルの先輩たちが次々と騒ぎ立てた。


「彼は、声楽科の3年生なんです」


「はーーー。どうりで」


「あっちはみんな若くてキラキラしてるもんなあ」


「同じ芸術系なのに音楽学科はなんか全然違うよなあ」


「あっちは陽キャでこっちは陰キャだもんな」


「それにこっちは多浪の年寄りばっかだしな」


「そうそう俺たちの青春は受験に奪われたよなあ」


おしゃべりな先輩達は「はあーー」とため息をついた。


「オジサン タチワ ナニシテルノダ」


「くそーーー、リア充」


「正直かよ!!」


「イケメンてすがすがしいほど、辛らつだよな」


「見た目はおじさんだけど、ぎり20代だから」


「コレワ ナンダ?」


「フィギュア同好会だよ」


「フィギュア?」


 フィギュア同好会は、アオイの他に2人の先輩がいた。


 彫刻科の博士課程に通うシショウと同じく彫刻科の4年のブッチャーがいた。

 シショウは、フィギュア作成では精巧な技術を持ち、みんな(主にブッチャーとアオイから)から尊敬されていた為、シショウと呼ばれていた。

 ブッチャーは、強靭な肉体を持つプロレスラーのような風貌のスキンヘッドの男だった。たくましい見た目とは真逆な繊細で細やかな仕事が得意な物静かな先輩だ。見た目がプロレスラーのブッチャーに似ていることから、ブッチャーと呼ばれていた。

 アオイは主に美少女フィギュアの女の子のデザインを描いていて、そのデザインを元に先輩2人でフィギュアを完成させていた。

 アオイはデザインを描く以外にも、フィギュア作成の手伝いなどもやっていた。

 マサキは正式メンバーではないが、新作フィギュアが出来ると、そのフィギュアを撮影し、海外のオークションサイトに出品し、販売していた。


 マルコスがフィギュアをひょいっと手に取った。


「ナンダコノ エロイ オモチャ ワ」


「ノーーーーーーー」


「ヒーーーーーーー」


 シショウとブッチャーは叫んだ。


「マルコス、それまだ途中だから、そうっと机に置いて」


 アオイが慌てて言った。


「オトナ ノ オモチャ?」


 シショウが真面目な顔で説明した。


「おれはオモチャではない。フィギュアだ」


「ジャア アート カ?」


「いや、フィギュアだ」


 ブッチャーが答えた。


「このパツキンはなんなんだ?」


「彼は、知り合いです」


 アオイは友達だろうかと思ったが、少し考えて答えた。


「チガウ、アオイ ノ ボーイフレンド ダ」


 シショウとブッチャーが顔を見合わせた。


「アオイの彼氏?」


「アオイ君、女の子苦手だしね」


「まあ、ありえる話では」


 シショウとブッチャーは妙に納得した顔をした。


「アオイ君は面食いだねえ」


「かっこいい彼氏だねえ」


「アオイ君、良かったね」


 シショウは笑顔で、その横でブッチャーは小さく拍手した。


「いやいや、違いますから」


 シショウは興味深くマルコスの顔をジーっと見て、真剣な表情でアオイに提案した。


「アオイ君、パツキンは人気がある」


「このイケメンを女体化したイメージのキャラを、描いてもらえないか?」


 ブッチャーが尊敬のまなざしを向けた。


「おー、さすがはシショウ」


 アオイは、マルコスを椅子に座らせて、しばらくジーと見つめると、スケッチブックにさらさらっと描き始めた。


 そして、よほど自信あるのか、丁寧に色までつけていった。


 出来たものを、シショウとブッチャーに見せた。


「タイトルは、パツキンマル子。マルコスをイメージしたキャラです」


 パツキンマル子は巨乳で金髪ロングのウェーブヘアで愛らしい表情が印象的だった。


 師匠の目が一瞬キラリと光った。


「これは・・・」


「ブッチャー君、見てみたまえ」


「おおーーーーこれはまさに」


「男をモデルにしてるからか、中世的な顔が特に良し。でも超絶かわいい」


「これは、きますね」


「ワタシニモ ミセロ」


 シショウとブッチャーが盛り上がっているところで、マルコスは俺にも見せろと、取り上げようとしたが、ブッチャーがマルコスをおさえこんだ。


「これはさっそく制作に」


「今からなら、アメフェスに間に合いますよ」


「確かに、新作として何体かだせるな」


「アメフェス?」


 マルコスはアオイに聞いた。


「アメフェスは、アメージングフェスティバルのことだよ。会社や個人がフィギュアを発表したり、売ったりするんだよ。コミケのフィギュア版ってかんじかなあ」


「アオイ君、別のポーズでも何枚か描いてくれないか」


 シショウが尋ねた。


「了解です」


 ブッチャーのスキを見て、マルコスがスケッチブックを奪い取った。

 マルコスは茫然とその場に立ちすくした。


「ナンダ コレハ?

 ツウカ コレダレダヨ?」


 アオイが答えた。


「ごめん、気に入らなかった?」


「ノーノーノー、イヤイヤイヤイヤ」


「どうした?」


「コレワ ダレダ?」


「アオイ ワ ワタシ ヲ ミテカイタ BUT」


「コレ ワ オンナ ダ」


「女じゃないよ」


「オンナ ダ」


「違うよ、ここ見てよ。ここに男性器があるじゃん

 マルコスは自分のことをキョコンダとよく言うから大き目サイズにした」


 アオイが股間のところを指さした。

 アオイの指さした先に、しっかり男性器が描かれていた。


「WHAT エッ!!」


「何?男性器?」


 シショウとブッチャーがのぞきこんだ。


「美少女フィギュアで男性器ついてていいんですか?」


「見たことは無いぞ」


「キョコン ト キョニュウ ダゾ」


「巨乳は良し。問題は男性器だ」


「男性器っていります?」ブッチャーが聞いた。


「うーーーーーーーん」シショウはうなった。


「なんか自然すぎて気づかなかったですね」


 シショウは指で男性器をおさえて隠したり、指を離して男性器をだしたりを繰り返してみた。


「今のままでまさにパーフェクト!! つまり、あってもおかしくないし、とったら全体のバランスがくずれそうだし。とりあえず、入れてみて、外すかどうかは後で考えよう」


 シショウはマルコスの手をそっととって言った。


「君はアオイ君にインスピレーションを与えるミューズ(女神)だ」


「アオイ君はマルコス君と仲良くして、いろいろ描かせてもらうように」


「ボーイフレンド ダカラ ヌイデモ ヨイゾ」


 シショウとブッチャーは拍手し、大喜びした。


「おおー、いいねえ、アオイくんは」


 おずおずと手を振りながら小声でアオイは言った。


「あのーーー、マルコスは彼氏じゃないんです」


「アオイガ カレシ ニ ナッタラ カカセテヤル」


「よろしくお願いします。」


 シショウがマルクスと握手をした。


「ぜひぜひ」


 ブッチャーも嬉しそうに、シショウとマルクスの手の上に手を添えた。


 シショウは、アオイの肩をポンとたたいていった。


「アオイ君、マルコス君と仲良くね」


 マルコスはアオイにウィンクして、ささやいた。


「ヨル ワ ズズッコンズバッコン マイバン ダゾ」


「アオイ ガ コワレルクライ マイニチ ヤリマクル」


「いやー、えっちー」


 ブッチャーは恥ずかしそうに片手で顔を隠して、もう片方の手で思い切りアオイの背中をはたいた。


 シショウが、はたと疑問を投げかけた。


「ところで、なんで男性器はつけたのに、巨乳なんだ?」


「巨乳はくせで、無意識につけてしまいました」


「はずした方が良いかもしれません」


「却下、巨乳は絶対そのままで」


 シショウがきっぱりと断言した。


「巨乳はマストで」


 ブッチャーもウィンクして同意した。

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