第5話 マルコスとタクロウ
マルコスは、アオイの手を取った。
2人はフィギュア同好会の部屋を出た。
「どこ行くの?」
「ノミニイクゾ」
「なんで?」
「アオイ ワ ダーリン ダカラ」
アオイは、つないでいた手をはなした。
二人で歩いているのを見つけた、タクロウがやってきた。
「まだ一緒にいたのか?」
「そうなんだ」
アオイは答えた。
「アオイはこれからどうするの?」
「アオイ ワ ワタシ ト ヤクソク アル」
「えっ、何どこ行くの?」
「ラブホ ダ」
「えっ?」
タクロウは驚いている。
アオイは手を振って答えた。
「いやいや、行かないよ」
アオイは、マルコス行きつけのブリティッシュパブに連れてこられた。タクロウもついてきた。
円卓だった為、アオイを真ん中にして、タクロウとマルコスがアオイをはさむかんじで座った。
そこは、音楽学部の留学生のたまり場になっていて、みんなマルコスの友達らしくあいさつにきたり、マルコスもあちこちのテーブルに行ったり来たりしていた。
今日に限って、マルコスとタクロウが次々にビールやウォッカをアオイに持ってくるので、アオイは飲み過ぎてヨロヨロしながらも機嫌が良くなってぼーっとしていた。
アオイが完全に酔っぱらったことを確認してから、タクロウは今まで気になっていたことをマルコスに思い切ってたずねてみた。
「アオイのこと、どう思ってるの?好きなの?」
「ヤリタイ」
「いやいや、ふざけないでよ。真剣に聞いてるんだよ」
「ダカラア イロイロ ヤリタイ タメシタイ」
「マルコスは有名人だし、人気あるんだから、いろんな女の子とやりまくってるんだろ」
「マア ワタシ ワ モテモテ デ タクサン ノ オンナ ト ヤッテル ノモ タダシイ」
「アオイはやめとけよ」
「ナンデ?」
「俺はアオイの友達だから、傷ついて欲しくないんだ」
「アオイ キズツク Why(なぜ)?」
「アオイには、ちゃんとアオイのことを好きな人と上手くいってほしいからだよ」
「キミ ワ アオイ ガ スキ カ? love Aoi?」
「そうだ」
タクロウは真剣に答えた。
「キミ ワ アオイ ノ カレシ カ?」
「いやまだ、違う」
「フレンド?」
「そうだ」
「デモ アオイ ト ヤリタイ ノカ?」
「そうだ」
「ワタシ モ ヤリタイ、 ダカラ アキラメロ、 アオイ ワ ワタシ ノ ダーリン ダ」
「嫌だ。アオイは俺のものだ」
「3P シヨウ 」
タクロウはビールをふき出した。
「何言ってるんだ?そんなのダメダヨ」
「ジャア、3P ナシデ、アオイ ダケ ト スルヨ」
「アオイ イクゾ」
マルコスがアオイの腕を掴んで出て行こうとした。
「どこに?」
「アオイ ノ イエ ダヨ」
「俺も行くよ」
「ナンデ?」
「おそうなよ」
「オソウ?」
「やるなよ!」
「ヤルニ キマッテル」
「駄目だ」
「やるなら、おれも入れてくれ」
マルコスはあきれた表情で言った。
「スケベ」
タクロウは意を決して慌てて立ち上がった。
期待して、アオイの部屋の前に来たマルコスとタクロウ。
タクロウは心臓がバクバクしてはちきれんばかりだったし、興奮で頭に血が上ってグラグラしていたが、良心の呵責に耐えきれず、マルコスを止めた。
「やっぱり、こんなの良くない。やめた方がいい。アオイに悪いよ」
「ジャア キミ ワ カエレ」
「いやいや2人きりにするわけには」
マルコスは部屋の電気をつけた。すると、そこは窓以外壁一面美少女フィギュアに囲まれた部屋だった。
美少女フィギュアは、アニメや漫画のかわいいキャラクターだけでなく、かなりきわどい18禁のアダルトフィギュアまであった。
マルコスとタクロウがびっくりしてぼうぜんと立ちすくんでいると、ノックをせずにマサキが入ってきた。
「よお、マルコス」
「ナンデ カッテニ ヘヤ ハイッテ クル?」
「アオイのフィギュアが売れたら、発送手続きしないと」
「ハッソウ?」
「アオイのお宝を高く買った人に送ってやるんだよ。転売ってやつだ」
マサキは海外のオークションサイトにアオイのフィギュアを載せていた。フィギュアが売れたら、マサキはアオイが買った金額より1.5倍高い金額を支払い、アオイからフィギュアを仕入れていた。その金でアオイはまた別のフィギュアを買っているのだそうだ。だから、アオイのフィギュアの箱にはふせんで値段がつけられているのだ。
マサキはたくさんのフィギュアの中から1つのフィギュアを見つけ出した。
「あった、あった。アオイ、カナコちゃん売れたぞ!」
マサキは、フィギュアを目の前でマジマジと観察してから、何かに気がついた。
「アオイ、箱にアオイの指紋がついてるぞ!!」
「しこる時は絶対にフィギュアの箱を触るなって言っただろ!!」
「気をつけてよ!!」
タクロウは嫌な予感がして、恐る恐るマサキに尋ねた。
「まさかこれ見て、アオイは性処理を?」
「アオイの性の対象は見てのとおりだよ」
「ヌオーーーーーーー」
タクロウは大声で叫んだ。
「ニホンジン ノ オトコ ヘンタイ」
マルコスは、つぶやいた。
「いや、別にこういう趣味の人は割と多いでしょ」
マサキは平然と答えた。
「でも何でマルコスとタクロウがアオイの部屋にいるんだ」
「3P シヨウ ト」
「おまえらの方がヘンタイだぞ」
マサキはあきれた顔をした。
「アオイは同意してるわけないよな。これは犯罪だぞ!」
「でも無理じゃね、アオイはそういう趣味はないから」
「絶対に無理じゃない。やってみないと分かんないし」
タクロウはムキになって反論した。
「おれは今日どうしてもやりたかったのにーーーーーーー」
タクロウは思わず本音がもれてしまったので、慌てて口を両手でおさえた。
タクロウは、「あわあわあわあわあわ」言いながら、取り乱して、その場にへなへなと座り込んだ。
「サッキ ワ ヨセ ッテ イッテタ ノニ。 コノ ヘンタイ メ」
「無理だって」
「だから試してみないと」
「アオイはあそこで倒れてますけど」
マサキは、ベッドまでたどり着けずに倒れてしまったアオイを指さした。
「まあ、無理かな」
タクロウはアオイを抱き起こし体を揺すった。それから、アオイの頬をペシペシ叩いた。
「起きろ、起きろ、起きろ、起きろ」
「そんなにしたかったの?」
憐みの表情で、マサキはタクロウを見た。
「ウエテテ カワイソ」
「そもそもなんでマルコスさんはアオイにくっついてるんだ」
「アオイ ワ ワタシ ノ ボーイフレンド ダ」
「はっ、マジかよ」
「アオイ起きろ。あいつと本当につきあってるのか?もうやっちゃったのか?」
「いや、無理だから」
マサキが答えた。
タクロウがマルコスに勢い余って今まで気になっていたことを尋ねた。
「君は女の子入れ食いだって聞いたぞ!」
「イレクイ」
「たくさんの女の子とやりまくっているのに、何で俺のアオイにまで手を出すんだよ」
「オンナ スキ アオイ モ スキ」
「なんでだよ?」
「男とは経験ないだろう?」
「アル」
「マサキ ト ヤッテル」
マサキは人差し指を口に当てて言った。
「しーーーーーー」
「それは、黙ってろ」
「ナンデ」
「俺は彼氏がいるし、マルコスは彼女がいるだろ」
「何?彼女がいるのか?」
「ガールフレンド ワ イル」
「じゃあ、もういいじゃん。アオイは俺にゆずってよ」
「モウ ワガママ ダネエ」
「ジャア シャア デ」
「シェア?」
(それって、マルコスとアオイを共有すること?)
タクロウは頭を傾けて考えて、真剣な表情で答えた。
「じゃあ、それで」
タクロウとマルコスは握手した。
「いやいや、それはダメだろう。」
マサキはフィギュアの箱を丁寧に梱包材で包みながら言った。
「誰かと好きな人をシェアなんて、嫌じゃないのか?」
「嫌だけど、攻略出来ない相手だから、二人で協力すれば、いけそうな気がする」
「二人でもダメだろうけどね」
タクロウは、入学式の時に隣に座っていた、アオイに一目ぼれした。アオイの横顔が美しくて、まるで時間が止まったようだった。そして、絶対に逃がしちゃいけないと思い、声をかけた。
「何科ですか?」
同じ油絵科と言われた際、運命だと思った。そして、人見知りなのか、初対面の人に話しかけられて、きまずそうに笑顔をみせた表情がすごくかわいいと思った。
それからは、モデルを前にしたデッサンや自由制作の時の場所取りでも、アオイの隣を素早く選んだ。実技以外の一般教養の講義も何を取るのか聞きだし、同じ講義を選択した。そしてさりげなく接近し、軽いおさわりを楽しいんでいた。
タクロウにとって、アオイは理想通りの男だった。女子に話しかけられた際に、苦手そうに顔を背けて小声で話す様子に、女子達をがっかりさせて気まずそうに笑う表情に一気に好感度が上がった。
だから、タクロウはアオイとの深い接触を望んでいたし、酒の力を借りて、かなり強引に迫ろうとした際、マルコスの邪魔が入った。その時に悔しさと絶望を感じ、あきらめようとした際、協力関係になろうという打診をされた。アオイは変わった性的趣向を持っているらしいし、自分ではどうやっても親密な関係がきづけるのか不可能にも感じた。だから、アオイと深く関われるなら、どんな方法でも構わないと感じてしまったのだ。
「でも、こんなフィギュアに囲まれた部屋でおまえらは出来るのか?」
マサキが究極に難しい問いかけをしてきた。
アオイの部屋は高く積み上げられた無数のフィギュアとベッドしかない。そして、無数の美少女フィギュア達が、一斉に自分たちを見ているようで、自分の性欲がいっきになえてしまう場所でもあった。
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