第13話 フィギュア パツキンマル子

 シショウとブッチャーがついにパツキンマル子を完成させた。初お披露目ということで、フィギュア同好会メンバー全員呼び出された。


 そしてモデルのマルコスも呼び出された。


 マルコスはまったくもって興味が無かったが、あまりにも熱心にアオイが誘ってきたので、しょうがなく参加することにした。


 アオイはハアハア息をキレながら声楽科の教室に走ってやってきた。


 そして、どれほど素晴らしいものが出来たのかを力説した。


「マルコスのフィギュアができたんだ」


「マルコスのおかげで、ついに僕の理想を再現出来た」


「今まで見た誰よりも本当に美しいんだ」


「マルコスがいれば、もっとすばらいものができるんだ」


「君ほど美しい人はいない」


「君は僕の理想だって分かったんだ」


「もっと君のことを知りたいんだ」


「君のことも好きだよ」


(キミノコトモ モ モ モ モ モ?????)


 マルコスはなんで『モ』を追加して入れたのか、にひっかかってしまった。


(キミノコト『モ』 スキ ッテ? ダレカ ガ スキ デ プラス シテ ワタシ モ スキ ッテ コト? ツマリ アオイ ガ スキ ナノ ワ フタリ イル?)


 マルコスは一発発起して日本語学校に通うことを決意した。

 マルコスは曖昧な日本語表現とハッキリしない態度のアオイに翻弄されるのにほどほど嫌気がさしていた。ならば意味がハッキリ分かるには、勉強せざるを得ないことに気づいたのだ。


「アオイ ワ ワタシ イガイ ニ ダレガ スキ ナンダ?」


「あーーー?パツキンマル子?」


「ホント ニホンゴ ツウジナイ」


 マルコスは悔しさに地団太をふんだ。


 アオイはマルコスを連れて、フィギュア同好会の部室にやってきた。

 そこにはいろんなポーズをした4体のパツキンマル子のフィギュアが並べられていた。


「これらは間違いなく最高傑作だ」


 シショウは胸をはって堂々と宣言した。すると、メンバー全員が拍手喝采をした。


「さっそく1点ものということで、海外のオークションサイトに出品してみた。いくらの値がつくか、ほんと楽しみだ」


 マサキがみんなに報告した。


「値段を聞くのが怖い・・・」


 ブッチャーが弱気な発言をした。


「確かに・・・」


 メンバー全員が一斉にしょぼんとなった。


「あっ、もう入札された」


 マサキが素っ気なく言った。


「エエエエーーーーーーー?」


「この入札は早すぎる、今までで最短記録だ」


 シショウは目を見開いて言った。


「また入札きた」


 ブッチャーが言った。


「2回目ーーーーーーー?」


「まだ、1週間もあるのに?」


「また入札入った」


 開始価格は70ドル、日本円で1万円くらいにしておいたたのだが、出品後1時間くらいで、出品した4体全部が余裕で2万円超えてしまった。


「これは楽しみだ」


 シショウはウキウキしていた。


 マサキは首を傾けてうーんと考えていて、突然パッと思い付いた。


「多分パツキンマル子のキャラがいいんだろう。

 もっと広めよう。

 作業者が現状2人しかいなから、フィギュアの大量生産は無理だから。チマチマ稼ぐしかないとして。

 そうだ、プロモーションビデオを作ろう!!

 それから、ヨーコの実写版マルコス動画じゃなくて、アオイのデザイン画その  ままの2次元キャラクター動画で、そうそうマル子をバーチャルキャラクターにして歌わせてみるのでも良いかもしれない。歌声はちょっといじって、もっとロボットっぽくしてもいいし」


「アニメーションか?

 誰か出来るヤツ知ってる?」


 シショウは、いまいちピンとこないようなポカンとした表情ををしながら尋ねた。


 マサキがまた何か思いついた。


「そうだ、伝説のトイパイセンに頼もう!」


「伝説のルイパイセン???」


 メンバー全員が聞き返した。


「アオイ、うちの家の3階に2つ部屋があったろう、空き部屋で倉庫にしてる方じゃない方、そこに住んでるらしい」


「あそこの住人見たことないんですだけど・・・住んでます?」


「住んでるんだよ。

 俺の彼氏が言ってた、才能のあるすごいアニメーション動画クリエイターがいるらしい」


「いや、だって人の気配が無いですし、食事してるととこもシャワーに行くとこも見てないですから」


「今まで言わなかったけど、あの家、隠しカメラだらけだから。でもカメラ思いっきりアチコチ目立つとこに設置されてるから、全然隠せてないんだけど。アオイと俺はあの家で監視されてるから」


「はあ?意味分かんないんですけど?」


「ルイパイセンは俺たちがいる時は部屋から出てこないけど、俺たちがいなくなったのを確認してから下に行って、シャワーに入ったりしてるらしい」


「ルイパイセンは噂によると、その年唯一現役で入ってきた奇跡の新入生と言われた天才で、極度の人嫌いで部屋にこもって動画作品を作っているらしい。仕事のオファーはひっきりなしにくるから大学に行く暇がないらしく、9年連続留年し続けているらしい。でもあまりに作品が素晴らしかったので、生活全般面倒みるということで彼氏があの家に住まわしているらしい」


「でも食事とトイレはどうしてるんですか?」


「3階にだけ外階段ついてるだろ、あそこによく出前の人きてるよ。トイレは3階にもあるから」


「あー、なるほど。全然気がつかなかった」


 シショウとブッチャーはフィギュア作りの継続ということで部室に残し、マサキはアオイとマルコスを連れて、家にいるルイに会いに行くことにした。



 ルイの部屋の前に行き、マサキはドアをノックした。


「すいません。はじめまして。私、マサキと申します。ルイパイセンにお話しがあるので、開けてもらえますか?」


「ほんとすいません、お願いがあるんです。開けてもらえますか?」


「おじゃまして、ほんとすいません。開けてもらえますか?」


「お仕事をお願いしたいのですが、開けて下さい!!」


 マサキはドンドン強く扉をたたきはじめたので、アオイが止めた。


「やっぱり誰もいないんじゃないんですか?」


「ルイパイセン、特上の寿司3人前を用意してます。開けて下さい」


「お腹すいてるんじゃないですか?」


 すると中から高い少女のような声が聞こえた。


「開いてるよ」


「アイテ タノカ」


 マルコスがあきれて言った。


 マサキはドアを開けると、薄暗い部屋にはところせましとパソコンモニターが並んでいた。


 ルイパイセンは、つのがついた鬼のお面をかぶった、おかっぱの小さい少女だった。彼女は丈の短い着物をきていたので、座敷わらしのようだった。人付き合いを絶って、時間が止まってまま大人になってしまったと言っていいほど、幼く見えた。


「はじめまして、ルイパイセン」


「寿司を出せ」


 マサキは来る途中で買ってきた寿司を、ルイに差し出した。


 ルイは3人に背中を向け、勉強机に座って寿司を食べ始めた。


 勉強机に置いてある巨大モニターに3人がうつっていて、それに向かってルイが話し始めた。


「おまえらは、マサキ、アオイ、マルコスだな?」


「ナンデ ワタシタチ ノ コトヲ?」


「監視カメラですよね?」


 マサキが尋ねた。


「そうだ。お前らのことはよく知ってる」


 巨大モニターに、アオイがタクローとキスしている画像がうつしだされた。


「ヒーーー、やめてくださいーーーーー」


 アオイが大きな声で叫んだ。


「お前らのことはよく知ってる」


「よく分かったので、お願いだからもううつさないで下さい」


 アオイが懇願した。


ルイの背中にうさぎのぬいぐるみが装着してあり、うさぎの額にカメラがついていたので、マサキはそのカメラに向かって話し始めた。


 マサキは持参したノートパソコンでパツキンマル子の衣装をきたマルコスの写真、アオイの描いたデザイン画、フィギュア画像、マルコスが歌った天使の歌声動画を見せた。そして、パツキンマル子のアニメーション動画を依頼した。


「とりあえずお試しで、天使の歌声動画をもとにしたアニメーション動画つくるか?」


「はい、ぜひお願いします」


「でもその曲、オリジナルだろ?曲つくったヤツに許可とらないとダメだろ?」


「分かりました、今電話して許可とります」


 マサキはヨーコにすぐさま電話した。運よくヨーコはすぐに電話にでてくれて、ヨーコのチャンネルで配信することを条件に、承認してくれた。そして、多少の曲のエフェクトやアレンジを加えることにも快く許可してくれた。

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