第14話 レイコ登場

 マサキとアオイの住んでいる共同家屋のリビングはパツキンマル子関連の作業場とされていた。ヨーコははパツキンマル子の動画作成と編集しにきていた。また、シショウとブッチャーの簡易作業場もあった。そしてその一角にエッコから買い取ったマル子の衣装もかけられていた。


 その日は、アオイとマルコスは作業場のせいで端においやられたソファーに座って、テレビを見ながらテイクアウトのピザを食べていた。


 すると、マサキが慌てて家に帰って来て、リビングにいるみんなに言った。


「ヤバイ、彼氏が来る!!!」


「カレシ? マサキ ノ ボーイフレンド?」


「そうだ」


 しばらくして、玄関のドアが開いて、リビングにその彼氏が入って来た。


 マサキの彼氏は、どっからどう見ても完璧な美しい女性だった。ただし、身長が180cm以上あり、スーパーモデルのようだった。でも、声は完全に男だった。女よりにする気は一切ないらしい。


マサキはみんなに、彼氏を紹介した。


「マルコスは知ってるけど、こちらはレイコさん。芸術評論家、ギャラリーのオーナー、美術館の企画展のキュレーターをしているんだ」


「そんなことはいいから、みんなの作品をみせてもらおうか?」


 マサキはパソコンモニターでフィギュア同好会のフィギュアとヨーコとルイが作った動画をレイコに見せた。


 一通り見終わり、みんな緊張して固まっていると、レイコはシショウが塗装していたパツキンマル子のフィギュアをふと目にした。それから、完成したパツキンマル子を手に取り、ジーーーと凝視した。


 レイコはシショウに尋ねた。


「これは何だ?」

「アートか?」


「フィギュアです」


 レイコはシショウに再度尋ねた。


「大人のおもちゃ?」


「いえ、フィギュアです」


 レイコは肩を震わせながら、怒り始めた。


「これはアートじゃないなら、君たちはここにいてはいけない

 ここはアーティストレジデンスだ。

 私はアーティストを生活面から支援しているんだ」


「才能ある君たちはいったい何をやっているのだ」


「いいかい、これはフィギュアなんだよ。俗物的な。フィギュアはおもちゃで、アートじゃないんだ」


「何で俺がこんなものに投資しなくちゃいけないんだ?」


「なんで天才動画クリエーターがパツキンマル子とインランたか子のプロモーション  ビデオ作ってるんだ?」


「なんで若手作曲家がパツキンマル子と怒髪天タカ子のテーマ曲作ってるんだ?」


「なんでマルコスがそれ歌ってるんだ?」


「なんでマル子とタカ子のレズアニメつくってんだ?」


「これは芸術への冒涜だ」


 レイコがフィギュアを投げそうになった時、みんなは息を飲んだ。


 マサキが後ろからこっそり近づき、動画サイトの再生回数を指さして、見せた。それから、次にチャンネル回生数とチャンネル登録者数も指し示した。ついでに、オークションサイトを見せて、660ドル(約10万円)高額落札されたフィギュアをみせた。


 レイコはしばらく首をかしげてブツブツ独り言を言ってから、目をつぶって考えた。


 レイコがパツキンマル子フィギュアを再度凝視し、スカートをまくりあげ、中から立派な男性器がでてきた時、メンバーみんな一瞬息飲んだ。


「まあ、ありか」と、手をポンとたたいていった。


 それから、レイコはタカ子とユリユリフィギュアのスカートもまくってみた。


「マル子は男性器があるのに、タカ子とゆりリンには男性器が無い。これは筋の通らない」


「これらは何なんだ?大人のおもちゃか?」


 レイコがアオイを指さして尋ねた。


「フィギュアです」


「ぬおーーーーーーー(NO)!!!!!!」


 レイコは叫んだ。


「マル子はぎりアートといえる。しかし、タカ子とゆりリンはフィギュアだ。」


「この違いは分かるか?」


「君にとってマル子は何だ?」


 レイコがアオイを再度指さして尋ねた。


「フィギュアです」


 他のメンバーは全員「違うだろー」と心の中で泣き叫んだ。


(そこはアートですと言わなければいけないのに・・・)


レイコは手をばってんにして、大声で叫んだ。


「ぬおーーーーーーー(NO)!!!!!!」


 今度は、よせばいいのに、レイコは興味なくボーっとしているマルコスに聞いてみた。


「君にとってこのマル子は何だ?」


「オトナ ノ オモチャ。オナペット。 ミレバ ワカルダロ?」


「ぬおーーーーーーー(NO)!!!!!!」


 彼氏は発狂しそうなほど叫んだ。


「いいか、これらは全てアートにしないといけない」


「アートにしろと言っているんだ

何が何でもこじつけなければいけない

アートは無理くり意味をつけて

石ころを磨いて磨いて磨いて、光り輝くダイヤにみせかけるんだ」


「つまりは、全部に男性器をつけろという意味だ」


「ユリユリに男性器つけるの? ありえない!!!」


 ブッチャーは叫んだ。


 マサキはシショウに尋ねた。


「ファーストエディション(初回版)は男性器無し、セカンドエディションから男性器ありなんて、クレームになるのでは?」


「ならば、修正箇所を明記し、セカンドエディションとして男性器ありを売って、そして、今残ってるファーストエディション男性器無しを今の倍の値段にして、プレミアをつければ良いのだ」


「なんかややこしいですね」


「今はフィギュアをアートに無理くりこじつけねばならぬ」


 アオイはレイコにおずおずと尋ねた。


「なんで男性器がある無しにそんなにこだわるのですか?」


「これは私そのものだからだ。

 男であって、女でもある

 しかし、それは男でなくて、女でもない

 これはアートと言わなくて、なんというのだ?」


「引き続き頑張るように」とだけ言って、レイコは去っていった。


が、突然くるっと振り返って、シショウの方を見て言った。


「この中で一番年上っぽい君がこれのリーダーかな?」


「はいそうです」


「空いてる部屋使っていいから」


「えっ、ありがとうございます」


 シショウは頭を深々と下げた。


 フーっとため息をついて、マサキは小声でアオイに言った。


「なんだ、あんなに怒ってるから、俺の浮気がばれたのかと思った」


 アオイはマサキにふと疑問に思ったことを尋ねた。


「マサキさんは、ゲイだと思っていました。」


「なんで?それどういう意味?」


「だってレイコさんどうみても女性じゃないですか?」


(声は男性だけど)


「だって、俺、別にゲイじゃないし」


「じゃあ、本当は女性が好きなんですか?」


「バイかなあ、いや違うわ」


「は?」


「俺、権力がある人が好きなんだわ」


 レイコと同じように、マサキはポンっと手をたたいてレイコの後をついて出ていった。

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