第16話 ゲイニュース 記者

 ある日、アオイはタクロウに話があると言われたので、食堂の奥の端っこの席で話を聞くことにした。


 タクロウは、アオイの部屋で1人でイッテしまったことへの恥ずかしさから、自信喪失に陥り、アオイに積極的に会うのを控えるようになっていた。


「あのさあ、俺達って付き合っているってことで、いいんだよね?」


 アオイはタクロウとのことをすっかり忘れて生活していたので、タクロウに聞かれて、アオイはビックリした。


「ああ、そうだったね」


「あの、大会で取材にきていた、ゲイニュース電子版の記者が、俺達について取材したいと言ってるんだけど、受けていいかなあ?」


 タクロウはすまなそうな顔をしてお願いしてきたので、アオイは断りずらく感じた。


「タクロウは受けたいの?」


「ゲイニュースの記者はよく俺に取材にきてくれてて、雑誌の表紙になったりして、仕事以外でも相談にのってもらったりよくしてもらってて。俺は受けたいんだけど、どうかなあ?」


「じゃあ、いいよ」


(ゲイニュースは雑誌と電子版サイトがあるが、どっちもゲイ向けなので、ゲイでない人達の間で話題になることもないから、まあいいや)


 アオイはまた深く考えずに安請け合いをしてしまった。


「良かった。断られると思ってたんだ」


(なんだ、断っても良かったのか?)


 アオイは、断らなかったことを後悔した。


「ダーリン アイタカッタ」


 アオイは後ろを振り向くと、マルコスが立っていた。


 マルコスは当たり前のようにアオイの隣の席に座った。


「マルコス悪いけど、アオイと大事な話をしてるんだ。2人にしてくれないか?」


「ワタシノ ボーイフレンド ニ ナンノ ヨウ ダ?」


「ボーイフレンド?」


「違うだろ、俺の彼氏だ」


「アオイ ワ ワタシ ヲ アイシテル」


「しょうがないなあ、まだそんなこと言って。

 アオイと今度ゲイニュースのインタビューを受けるんだ」


「ゲイニュース?」


「ゲイ向けの情報発信サイトだよ。雑誌もだしてるよ」


 アオイはタクロウの表紙の雑誌をニコラスに手渡した。


「オオー? タクロウ ガ ホン ニ ナッテル?」


「タクロウ ワ ユウメイジン ナノカ?」


「まあ、そうだ。この間、ボディビルの大会で優勝しただろ」


「アア、アレネ」


「ナンデ アオイ モ デルンダ?」


「それは、旬なゲイカップル特集ででるんだよ」


「アオイ ワ デル ツモリ ナノカ?」


アオイは苦笑いしながら言った。


「そうなんだ」


「アオイ ノ ハッキリ シナイ トコ、 ムカツク ワア。

 アオイ ノ ナニカンガエテルカ ワカラナイ トコ、 キライダワア。

 ワタシ ノコト スキ ナクセニ、 タクロウ ニ NO ト イエナイ。

 シッカリシテ ホシイ ワ。

 ナサケナイ」


「そうそう、そういうとこあるよね。優柔不断なとこ。決められないとこ。前はそういうとこかわいいと思ってたけど、今となってはマルコスも俺も振り回されているような。俺が好きだから、マルコスにあきらめてくれって、ハッキリ言ってくれればいいのに」


 アオイは2人から責められて、「こっちのほうがよっぽど振り回されてる」と、文句を言いたかったけど、それを言えずにだんまりを決め込んだ。


 インタビュー当日、タクロウとアオイはゲイニュースの会社の会議室に案内された。しばらくして、記者が会議室にやってきた。


「こんにちわ。タクロウさんによく取材させてもらってる、タクミです」


「タクミさん、こちらが私の彼氏のアオイです」


「今日は取材をうけて頂き、ありがとうございます。

 ゲイのあこがれであるタクロウさんの彼氏さんなんて、ほんと羨ましい。

 知ってます?

 タクロウさんたら、優勝したら、告白しようって。フラッシュモブまでして。

 いろいろ協力したのよ。

 準備がガチで、まわりをまきこんで、本気度が伝わったわ。

 こんなにタクロウさんが夢中になる相手が、みんなどんな人なのかみんな絶対知りたいと思ってるはずよ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る