第39話 過去へ繋がる 

 ――――ふわぁ……。


 翌朝。まだ日が昇り始めた頃。

「ねみぃ………。こんな早起きしても意味ねぇのになぁ」


 そう。俺は昨日クロエルとバラスを殺したのだ。そしてやることが無くなった俺はとりあえず寝て、また翌日考えることにしたのだが―――。


「………なーにしよっかなぁ〜」


 なーんも思いつかねぇ。俺の目的である、二度と人類を生み出さないという言葉を達成させるには最後に自分が自殺することだが、まぁもう少し遅くてもいいだろうさ。

 ――――――あ。一つやることがあった。


「――――仮面の奴。あいつを殺さねぇといけねぇな。」


 仮面の奴は何処にいるんだろう。というかバラスが殺されたんだから、もしかすると死んじゃってるのかもしれないな。だってあれだろう? クロエルが言っていた魔人形ってやつだっけ? けどまぁそいつを探すことくらいしかやることねぇな。


「――――ヨッシャ。とりあえずの目標ができた!」


 ひょっとしたら死んじゃってるかもしれないけど何もしないよりかはマシか。

 そして、俺は急に叫びたい衝動が来たので、寝たままあることを叫ぶ。


「おぉぉぉぉぉいいぃぃぃぃ!!!!!仮面やろぉぉぉおぉ!」


 ――――叫んでも無駄なのは分かっていたが、とりあえずやってみた。けどこんなのであいつが現れるなんて思わねぇし。

 ――――――さ。早く準備して、どこか森にでも山にでも海にでも向かうとするか。

 俺は体を起こし、地面に足をつけて、お天道様の元で堂々と立った。すると―――。


「おい。レガン」


 ―――ん? なんだこの声は。とっても柔らかくて、美少女の声だ。

 俺はその声がした方向を見ようとしたが、見ることができない。なぜならその声は頭の中に直接流れ込んでくるような感じだったから。


「誰なんだ?! どこにいる?!」


 俺は手を振りながら辺りを見渡すが、それらしき人物はいない。だが、その方向はすぐに分かった。なぜならその声は実は何度も聞いた声だった。


「………はぁ? お前大丈夫か? 寝すぎて頭がおかしくなったんじゃないのか?」


 その声の持ち主は紛れもなくあの子であった。昨日俺が剣で首元を突き刺し、息の根を止めたあの子だった。


「クロエル………? なのか?」


「………は? お前本当に何を言っているんだ? この世界でその名前を持つ人間は私以外いないであろうが」


 は? どういうことだ? 俺は昨日確かに殺したはずだ。なのに、こいつの体は健全そのもの、傷も血もなにもついていない。


「……………」


「……………?」


 俺とクロエルはお互い見つめ合い、クロエルははてな顔をする。


「………いやいや、えーっと何からどうすればいいんだ?」


 ここで俺は実はヤバい状況にあることが分かった。それは、クロエルは一度俺に本当に殺された。殺されかけていた。そんなことをされて、クロエルが黙っていつも通り接してくれるだろうか? 

 いや、無い。断じてない。そんな頭のおかしい人なんて見たこと無い。まぁそもそも俺は人をあまり見たこと無いんだけどね。


「じゃあ、まぁとりあえず…………」


 そう呟くと、俺はとある態勢をとる。それは古来より人間の間で使われてきた最終奥義。プライドを捨てて、いや全てを捨ててできる条件魔法。それは――――。


「誠に申し訳ございませんでしたぁぁぁぁ!!」


 ―――――俺は土下座した。天使族ともあろう俺が人間に謝罪。もちろんこの場でクロエルを一瞬でぶちのめすこともできるが、それはなんだか出来なかった。なぜなら、俺にも多少の普通の人間としての心は持っている。半分は人間何だから。さすがに一度殺した元仲間に対しての礼儀くらいは分かる。


「ン?」


 だがしかし、俺の本気土下座の覚悟とは裏腹にクロエルは本当に理由が分からないという顔だった。

 こいつ、さすがに結構怒っているっぽいな。そりゃそうか。ここは一、二発ぐらいなら殴られるだの斬られるだのされてもいいか。

 ――――だってどうせこのあと殺すんだもん。


「………ちょっと待て。本気でお前は何をしている?」


 クロエルはしらばっくれていた。いや逆だろ。俺のほうがしらばっくれる役だろう?


「いや、そういうのは大丈夫です。何でも言う事を聞くので許してくだせぇ」


「……いや、本当に訳が分からないんだが。昨日は特に何もなく寝ただろう。それにもうすぐでシャルが朝の運動から帰って来る。お前もふざけてないでさっさと準備をしろ。」


  ――――ん?シャル? どういうことだ?


「 シャル?」


「はぁ……。そろそろそのおふざけを止めないと本気で斬るぞ」


 クロエルはいつもの冗談交じりの罵倒で話してきたのちに、俺からは離れて、シャルを迎えにいくようだった。

 ―――――待て、何かがおかしい。シャルとクロエルが生きている? それに、昨日は特に何もなく三人とも寝たようだ。どういうことだ。

 俺は考えた。今まで以上に全ての脳を回転させた。――――そして、ある答えに辿り着いた。それは――――。



 ――――過去が変わっている。



 そう。過去が変わっている。改変されたのだ。何者かによって。俺以外の人物によって。

 ―――――――そういえば俺の魔法はコピー魔法。つまり、俺の過去に行く魔法は。誰だ。思い出せない。昨日の夜に全てを思い出せていたはずなんだ。なぜ、能力だけが残って、記憶が思い出せないんだ。

 俺は頭を使って考えるが、何も思い出せないし、何も思いつかない。だが俺のやることは一つだ。


「俺が過去に行き、そいつをぶち殺す」


 そうしないと、俺がいくら人間共を滅ぼそうとまたそいつが邪魔をしてくる。その証拠に、この人間がほとんどいないこの世界でさえ、滅亡させることが出来なかったのだ。


 よ〜し。面白くなってきたんじゃないかぁぁ??


 そうと決まればさっそく過去に向かいますか。あいつらを俺の魔人形にして奴隷にしてからな。


「おーい!クロエル!シャルが見つかったら俺の所集合な!」


「………」


 俺が必死で大きな声で呼んでいるのに、それには答えず、俺を眺めるだけかよ。クソッタレが。

 ―――まぁいい。どうせこの後あと数分もすればこいつらは俺の完璧な奴隷になる。そうすればあいつは俺に偉そうな口は聞けないし、も起こらない。







 こうして俺は二人の魔人形を連れて、過去に、俺達がもともといた世界に戻るのであった。


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世界の始め方はどうすればいいの? 番外編 キクジロー @sainenn

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