第38話 繋がる物語 γ

 ――――どうして人間になっているんだい?


 ―――人間になっている? どういうことだ?


「俺が実は人間じゃねぇってことか?」


「そういうことだよ」


「……どういうことだよ」


 過去一覇気の無いツッコミをした。こんな掛け合いなんてしたくねぇ……。

 バラスは両手の剣を二本移行に俺に突き立てて、それを――――。


「まぁいいじゃないか、ここで死ぬんだし……、じゃあ。これで終わりだね」


 振り下ろす!!!



 ―――――グジャア!!!


 それはもう響いた。響きまくった。刃物が肉をえぐりかき分ける音と、美しい渓流に流れている水が石に当たって弾けるような血の音があった。


「―――やるじゃねぇか」


「爆発はしないようにしたからね。さすがに即死はしないのか」


 最後まで舐めてやがるな。――――だが俺は殺される。さすがにこの刺し傷の深さと出血の量は命がもたない。爆速自然治癒でも修復するには遅すぎる。それに傷口を塞ごうとしても麻痺して硬直している筋肉は動かない。それゆえ、刺されて倒れそうな体でも、岩のような筋肉の支えで倒れられない。


「―――――でもまぁ、さっきの言葉の意味くらいは教えてくれよ」


 バラスは魔法で作った短剣を消した。どうやら傷口をグチャグチャといじくりたおすようなことはしないようだ。


「ん? あぁ、良いよ」


 ―――――さすがに「お前は人間じゃねぇ」的なことを言われるとさすがに気になる。冥土の土産に聞いておくか。


「君は半天の子。天使族と人間のハーフなんだよ。いわゆるハーフエンジェルなんだよ」


 ―――――ハーフエンジェルか。確かにそれは人間じゃねぇな。ていうか何で今までそんな大事な事を思い出さなかったんだろうか。


「かつて僕達過去の世界では人間族、オーク族、ウンディーネ族やエルフ族等の色々な種族がいた。だがしかし、その中でも人間族が生物の頂点に立っていて、人間族は持ち合わせた知力と多種多様な魔法適性能力で他のどの種族にも負けない力を手に入れた。それゆえ全ての種族は人間族の奴隷として扱われてきた。だが、それはあくまで通常の生物の間だけだった」


 バラスは普通の人間としての感情を少し入れながら話してきた。いや、自分から聞いてなんだけど、そんなことは誰も聞いてねぇんだよなぁ。そんなことはクロエルと話している時に何度か聞いたし、あと自然に思い出したりした。


「そんな人間達があらゆる色々な種族を蹂躙し奴隷として働かせていた。だがそんな時に、いきなり現れたのだ。奴ら共が」


「…………」


「その奴らとは天使族、神族、悪魔族、亜人族。この四種族共が世界のヒエラルキーを破壊した。特に天使族や神族は自分たちのエゴのために自分たち以外の種族を平等にするために圧倒的な力で僕達人間族をねじ伏せ、いくつもの種族を奴隷から救った。そして、奴らの思惑通りになってしまい、俺達通常の種族全ての上に、奴ら四大種族が乗っかかるような形になってしまった。それに苛立った人間も多く、各地で国家に対する文句の意味合いで反乱を起こしたり、今まで裕福な生活をしていた人間達が我慢できず、他の人達の食料や金を奪うようになってしまった。――――そう、そこから全てが始まったのだ。人間同士の内乱が」


「もういいって。そんなことより早く俺のことを教えてくれよ」


 こいつ話なげぇ〜。なんでそんな勿体ぶるんだよ。


「まぁ待て。ここからだ。――――荒れ狂った人間達はそれはもう醜い争いを幾度となく続けていた。しかし、そんな時に現れたのだ、天使族と人間族の間に生まれた君が。辺境の村の元でこっそりとな。だがある日、君が天使の魔法を使っている所を偶然国家の人間が見つけた。そして君を連れ去り、国王様の元に連れて行かれてその国王様は君を拷問し、出身を吐かせようとした。だが頑なに君は口を割らなかった。まだまだ子供の癖に痛みに負けず自分の信念を貫き通した。そこで国王様は考えたのだ。洗脳させて、この頑丈な体と精神と天使族の力を利用し、君を国家の人間に仕立て上げて、誰にも負けない力を手に入れさせてとある計画を遂行させようとね」


「………とある計画?」


「そう。それが人類滅亡計画だ。――――かつて悩んでいたのだ、どうすれば人類は平和になれるのかを。しかしいくら時間をかけても解決策は出ず、むしろ各地で被害者が増える一方だった。そこで国王様は苦渋の決断をされた。【人類自体を滅ぼしてしまおう】と」


「………ずいぶんとぶっ飛んだな」


 やっぱりこの国王の決断の話は何度聞いてもぶっ飛んでやがる。でもまぁ俺も共感できるとこもあるしなぁ。――――というか、俺ってそんな過去があったのかよ。辛すぎだろ。


「まぁ確かにぶっ飛んではいたね。でも、これしか無かったのだ。これしか人類全てが平等になる方法は無かった。こうすれば悲しみも苦しみも何も生まれない。なぜならそもそも思う人間がいないのだから。だが、この決断に対して、ある一つの弊害があったのだ。それはサーベラス連合軍。この組織は僕達国家が本格的に人類滅亡計画を進めていた時に突如として現れたのだ。彼等は僕達国家に反乱して、計画の進行を妨げてきた。当然僕達も彼らのアジトを何度も襲撃したが、完全に潰すことはできず、何度も相打ちになった。そこで、僕達国家は君にとある任務を任せることにした。それはスパイになる事だ。君は元々サーベラス連合軍の人達と交流があったみたいで組織に入りやすい人間だったし、それに外よりも内側から組織を崩壊させた方がやりやすいと考えた。そして、ある時。僕達国家とサーベラスの全面戦争が始まった時、スパイとして潜り込んでいた君は最後の最後までスパイとして任務を真っ当していた。上手く立ち回り、あたかも全力で戦っているようで、サーベラスの一員達を戦場の最中に紛れてヒッソリと殺していった。そして―――――」


「もういい分かった。――なるほどな。全てが繋がった。――――というより」


 俺は理解した。何故俺がここにいるのか。そして、俺が何者だったのかを思い出した。


「ぜーんぶ思い出した」


 その時の俺の顔は今までに無いくらい不敵な笑みをしていただろう。だって俺は――――。


「お前より、強いってことだろう?」


 そう、俺はこいつより強い。正直それだけでいい。そうすれば俺の目的に一歩づつ近づく。それにたまたま運良く、記憶喪失だった俺は昔の洗脳された俺と同じ考えだったしな。


「ん? どういうことかな?」


 バラスも笑顔だった。そりゃあそうか。だって瀕死の奴から「俺の勝ちだ」みたいなことを言われたら俺だって笑ってしまう。

 だがごめんよ。本当に今回ばかりは俺の勝ちなんだなぁ。




 ―――――シャキン!!!




 短剣がバラスの首を引き裂いた。なんの短剣なのかって? それは勿論、俺の短剣。魔法で作った短剣だ。


「………即死か」


 バラスの首が遅れて血を流しながら地面に落ちた。


「…簡単な魔法なら無詠唱で使えるのか」


 俺は全てを思い出したのだ。天使と人間のハーフであることを。そしてそれは記憶だけでは無い。体も魔力も思い出した。


「うん。いいな」


 目をつぶり、下を向き、俺は自分ができることを脳内で確認した。俺の中にはどうやら色々な魔法があるらしい。なかでも特に気になるのが――――。


「時間を巻き戻せる力か………」


 そう。あんなに探し求めていた力が実はなんと俺の中にあったらしい。でも――――。


「 どうしたもんかな。ぶっちゃけ過去に行ってもいいし行かなくてもいいんだよなぁ。―――まぁいっか。今日はもう眠いし、また明日考えよう」


 俺はそう言って、血が撒き散らされている冷たい地面でそのまま寝ることにした。


 







 



 

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