第37話 繋がる物語 β


 俺はそれぞれの指先に魔力を込める。その魔力は清々しいほど外道ないやらしい魔力だ。できればこれ単体で使いたくは無いが仕方ない。


「―――――アサシンダガ―」


 十本の指先から朱色の小さな小さな剣を生み出した。そしてその剣は俺の周りを踊るようにぐるぐると回り始めた。


「へぇ、僕の魔法を使ってくれるなんて嬉しいねぇ」


「――――お前と一緒にすんな」


 ―――――と言ってもこれはブラフだ。あいつは俺で遊んでいる。そのまま油断してくれりゃあ助かるけど、油断された状態でも正直怪しい。

 ―――――――けど、だからこそ少しでも見栄を張るべきだ。そうすれば相手も少しは全力で魔法を打ってくるので、バラスの体内の魔力を減らすことができる。そして俺の魔力がギリギリになった時にすべての力と魔力を込めた魔法を放つ。それなら少しは勝機は見えてくる。

 それにもしこのまま適当にあしらわれるよりもどうせ負けるのなら全力で負けたい。あの時は正気を失っていて、粗削りな魔法しか使えなかった。だから負けた。だが今は違う。魔力の上昇以外にも操作を覚えた俺は少しは戦えるはずだ。


「あんまり俺を舐めるなよ。あの時からなにもしなかった訳じゃない」


 俺はボールを描くように踊る剣をバラスにぶつける。もちろん魔法を唱える隙なんか与えない速さだ。そして猪突猛進の剣の塊はバラスの体に直撃して、細いクモの糸が球の側面に巻き付くように血が巻き上がった。

 しかし、バラスは直立したままで動じない。


「――――どうだ」


「――――――まだまだだね」


 どうやらあまり効いていないようだ。確かにあいつの体はズタズタに切り裂かれたはずなのにあの程度の出血じゃあ足りないようだ。


「まぁ、これくらい何でもないと面白くねぇぜ」


「じゃあ次はこっちの番だね」


 声が先ほどより低い。バラスはちょっとだけやる気になったようだ。でもあいつの手持ちには剣はもうない。どこからみてももう武器らしきものは無いようだ。

 ――――なのになんだあの様子は。なぜあんなにも余裕なんだ。先ほどの俺の魔法をみれば、もう何の小細工も無く魔法を使うことはできない。もし、使おうとした時には――――――。


 ――――ゴスッ!!


 鈍い音が体の中から聞こえてきた。


「―――は?」


「いくら魔法を使えてもそもそもの身体能力で負けてたらなんの意味もないよ」


 バラスはクロエルと同等以上の速さで俺の懐に飛び込んできた。まさに神速。そしてその速度を乗らせた拳で俺の腹を殴る。しかもその打撃は洗練されていて、ただ威力があるだけではなく、俺の神経にも刺激を与えるような一撃だった。―――というかむしろそっちの方がダメージを受けていて体の方は別に吹っ飛ぶほどでは無く、神経が麻痺していて体が動かない。


「……う…え………」


 口からは涎がこぼれ出ていて、力が入らないというよりもビクビクしていて体が言うことが聞かない。


「あははははは!いいね!面白いよ君!」


 こいつ!ゲラゲラと笑いやがって!

 ―――それにしてもどうしようか? このままじゃ殴り倒されるだけだ。


「さあさあ。ここからが本番だよ」


 バラスは続けて俺の腹、胸、腕、足、顔をボカスカと殴り続ける。だがどの攻撃も体というより神経を殴ってくる。やられればやられるほどより体は動かなくなる。


「さぁさぁさぁ!!まだまだいくよぉ!!」


 どんどん戦闘狂になっていく。どうやら俺を殴るのが楽しいようだ。




 ――――――約五分後。俺は暴行を受け続けていた。


 ドカッドカッドカッドカッ!!!


「あっはははは!ねぇねぇ、何かやり返してみなよ!」


「…………」


「口も動かないなんてかわいそうだなぁぁぁぁ!!」


 殴るか喋るかどっちにしてくれよ。痛覚と聴覚を同時に働かせると何言ってるか分かんねぇよ。


「――――だんだん飽きて来たなぁ~」


 やっとバラスは殴るのをやめた。そして両手それぞれを短剣をもつような形にして、ある魔法を唱える。


「――――終わりだよ」


「…………」


「――――――ダガー・バースト」


 すると、バラスの両手には魔碧の短剣が現れた。そしてその短剣を彼は握りしめ、俺を斬って、いや、ぶつけてきた。


 バンッバンッバンッバンッバンッ!!!!


 剣の刃が俺の体に当たるたびに、ぶつけられた場所に小さな爆発が起こる。そしてその爆発はこんどこそ俺の体本体に衝撃が来る。神経は刺激されていない。これなら動けるようになった時―――――。



 ―――――いや。もう俺の体はボロボロだ。仮に神経が治ったとしても今度は腕や足のダメージが強すぎて動かない。


「動かないか。なら、次は斬るんじゃなくて、刺そうか」


 こいつの目は狂っていて本気だ。そろそろ何か手を打たないと取り返しがつかなくなる。―――いやもう既にどうしようも無いんだが。


「………」


「できれば最後に遺言を聞きたかったんだけどなぁ。それに昔話もしたかった。でもしょうがないよね。君が弱いのが悪いんだよ」


「悪い、か………」


 ようやく口が動くようになった。自然治癒の効果か。…………でもなぁ、口だけじゃどうしようも無いんだよなぁ。


「お? ようやく喋れるようになったね」


「あぁ、そうだな。動けるようになったぞ。口だけな」


「じゃあ最後にひとつだけ聞かせてくれないか?」


「………」





「―――どうして君は人間になっているんだい?」

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