第35話 迷宮街 二の五 そして………

 ―――――「さて、どうしようか。」と思い続けてかれこれ二時間がたった。

 とりあえず、こいつの横に立ってはみたが、特に何も思いつかない。このまま剣でぶっ刺してもいいが、いきなり起きて剣を掴んできそうだ。

 だが、これはチャンスだ。いくらクロエルとはいえ、俺が全速力で刺せば止めることはできない――――――はずだ。

 俺はスヤスヤと寝ているクロエルの顔をじーっと眺めた。――――こうみると、こいつやっぱり美人だな。それに、寝ている顔はどこかあどけなさが残っている。


「―――――やっぱり今日はもう止めとくか」


 俺は剣に手をかけていて、後は抜くだけだったが、急にやる気が無くなって、手を離した。目の前でこんな気持ち良さそうに寝ている女の子を殺すことができなかった。


 ―――――――俺はそのまま何もできず数時間が経った。そしてそのまま交代の時間が回ってきてしまった。


「おい、………起きろ。交代だ」


「うん…………」


 俺はクロエルに近づき、腹を揺すってお越しにかけるが、中々起きない。―――もし、俺がこのゼロ距離でクロエルに剣をぶっ刺してもきっとこいつは死なないだろう。普通は死ぬのだか、こいつは何かがありそうだ。それにもし致命傷を与えたとしても、すぐには死なないだろうし反撃をくらう。

 なので、俺は大人しく交代することにした。―――――――のだが。


「おい!起きろ!交代の時間だぞ!」


「…………ん〜。待ってよ。後二分だけぇ〜」


 こいつ!起きねぇ!自分から交代制で睡眠を取ろうといったくせにまったく起きねぇ。ぶち殺してやろうか?

 俺は続けてクロエルの体をより強く揺らし、 というよりも殴った。


「おい!これで起きなかったら次は剣で斬ってやるぞ!!」


「………ん〜。私は、……負けない。だから、いいよぉ〜」


 ―――――とのことらしい。どうやら俺はクロエルに剣を刺していいらしい。

 ―――それならば、俺は遠慮しない。なんせ殺される本人から許可が出たのだから。


「クロエル。本当にいいんだな?」


「…………」 


 俺は改めて確認を取る。――――だが返事をしないということはしていいということだ。

 そして意を決して剣を鞘から抜き、剣先を下に、クロエルに突き立てて両手で柄を握りしめる。


「…………許せよ。クロエル」


 そう言葉を吐き捨てて、俺は最高の筋力を使ってクロエル剣をぶっ刺した。




 ――――――ザシュ!!!!


 その剣はひたすら真っ直ぐに鎧が守れていないクロエルの首を見事に貫いた。その証としてクロエルは何も返事をせず、ただただ首当たりから血が流れ出てくる。その血は最初だけ勢いよく吹き飛んで来たが、その後は決して弾ける訳でも無く、タラーっとクロエルの首から地面に血が流れていった。


「やった…………」


 確かな手応えがあった。今までの全てのことにおいて、俺がここまで手応えがあったのは初めてだ。剣が肉を切り裂く感覚。これが人を殺すということか――――――。

 俺はその後、首に剣を突き刺したまま冷や汗をかいたままその場を後ろ足でそろそろと引いた。自分が人を殺してしまったということにハラハラしているわけではない。とにかく勝手に心臓がバクバクいっている。

 ―――――だが、何はともあれ敵の討伐が完了した。これで全てが解決した。こいつさえいなければもう誰も悲しむ人間は生まれない。

 俺は神に祈るように両手を広げた。


「 これで世界は平和になった!!!」


 アドレナリンどばどばで目がガンギマリの状態。かつクロエルの遺体を背に夜空の星達に告げた。まるで、自分が宇宙から送られてきた使徒のように思えてきた。


 しかし、俺が使徒の気分を味わえるのは短かった。このまま俺がそうやって狂人の笑顔の状態で何かの感情に浸っていると―――――。


「さぁさぁ。ここからが本番だね」


 ――――俺の背後にあるクロエルの遺体から声がした。だがその声は決してクロエルの声ではない。好青年にみせかけて、少しすかしているような声がしていた。まさか―――――――。

 俺が後ろを振り返る。すると、そこには見たことある。というより、見たことしか無いレベルの因縁の奴がいた。


「やぁ。久しぶり。元気だったかい?」




 






 

 

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