第34話 迷宮街 二の四
―――――――さらに数時間後。もう夜だ。俺は何度も何度も罠を仕掛けては破られてを繰り返した。そして繰り返したその後には気づいたものがある。
「多分無理だわ」
いや気付いたと言うよりも、改めて確信したという感じだった。クロエルは身体能力が怪物級だが、それ以外にも、そもそもの体力だったりそういった部分が俺のような普通の人間と違っていた。
今日は無理だと諦めて、日が暮れたので大人しく広場に戻った。そこに待っていたのは何もなかったかのような清々しい顔をしていた銀髪の女性だった。
俺は仕事終わりのようなテンションでその銀髪に話しかける。
「………おう。お疲れ」
「あぁ、お前は何か収穫あったか?」
「いや、俺は無いけど。お前は何もなかったか?」
「……無いな」
何もなかったそうだ。本当だろうか? というか、あれだけ俺は苦労して試行錯誤したのをこいつは何も無いというのか? いやまぁバレなかったのは良かったんだけどさ、でもさ…………。
俺は複雑な思いを閉まったまま、続けて話す。
「というか、この聖域にはどんな封印魔法がかけられているんだよ」
「知らんな。だが、今日一日ここにいても何も影響が無かった。もしかすると、私達の勘違いかもしれない」
勘違い。いやそんなことは無いだろう。もし、封印魔法がかけられていなかったら、俺の幻惑魔法の魔力がクロエルに気づかれてしまう。でも気付かなかった。ということは何かしらの封印魔法の魔力がこの街に充満しているということだ。
「いや、いくらなんでもこの魔力量で勘違いはないだろ」
「……まぁそれもそうだな。とりあえず広場で少し休んでまた再開するか」
「え?」
「なんだ? 何か文句でもあるのか?」
まだやんの? とはとても言えない。言ったら斬られてしまう。――――だが、言うんだ。今日こそは言い返してみせる。「俺は疲れた!!」と、言ってやる。頑張れ俺!!頑張れ!!!
俺は自分たちふるいたてた。そして意を決してクロエル目をキリッと見て。息を大きく吸い込み、そして――――――。
「…………無いです」
―――――はい。言えませんでした。いつも通りですね。
「では、私が最初に起きているからお前が先に寝ていろ。交代で睡眠を回すぞ」
「はい。かしこまりました」
俺はペットのように返事をした。情けねぇ。
「……珍しく利口だが、何かあったのか?」
「いえ、何も無いです」
「そうか。………というか何なんだその目は。気持ち悪いぞ」
言ってくれるじゃねぇかこの小娘。――と心でなら言える。
俺は悔しい思いを噛み締めながら広場で大の字で目を瞑ったのだった。
―――――数時間後。まだまだ太陽は沈んでいた夜真っ只中に俺は起こされた。
「………おい!起きろ!」
「ふぇ??」
「交代の時間だ。早く起きて、私と変われ」
おお。なんとも美しい女神ではございませんか。月が似合うのその髪。夜に煌く紅い目。なんとも素晴らしい。
「おい!!いい加減にしろ!!豚みたいにいつまでもグーすかと寝やがって、情けないと思わないのか?!」
おっと、人違いだったようだ。どうやらこの女は見てくれだけ神様で、中身はただの口の悪いメスガキのようだ。
俺は起こされた意識を体で表すようにダラ〜っと上半身を起こし、そして立つ。どうやら立っているのは俺とクロエルだけで、俺の雄は今回は寝ているらしい。さすがに疲れていると元気が無くなるのか。年を取るって悲しいこったな。
そして、大きな欠伸をかまし、背伸びをする。
「それじゃあ。今度は俺の番かな」
「あぁ。頼むぞ」
クロエルは俺が寝ていた所から五十歩離れた場所にそそくさと歩いて行って寝た。―――どうやら俺が寝ていた場所の近くでは寝たくないらしい。
――――だが、まぁここからは俺の自由時間。何をしてもいいということだ。
―――――――ここからが本番だぜ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます