第33話 迷宮街 二の三

 そして、俺達はそのまま特に何も話さず、迷宮街に着いてしまった。


「相変わらずでっけぇなぁ」


 改めてみるとでかい街?だな〜。広めの門を潜った先にはまず、つい最近殺人があった丸い広場。そしてその広場以外にはビッシリと建物が敷かれているが、それぞれ間にお気持ち程度で極細の道がある。人が一人通れるだろうか?


「あぁ、確かに大きい。だがここは聖域。感動するのはそこまでにしておけ」


「…………そうだな」


 お前に言われずとも分かってるわ。

 ………というか、どうやって暗殺するべきだろうか。せっかくこんだけ視界が狭くなる場所に来たんだ。それを活かしたい。ならば―――。


「………これは、二手に別れたほうがよくね?」


「そうだな。一旦別れて、もし魔術結晶を見つけたらそれを取らずにまたここの広場に戻ってこよう」


「分かった。じゃあとりあえず、もし見つけられなくても日が暮れる頃にまたここで」


 俺達は二手に別れることにした。そっちのほうが暗殺しやすいからな。もちろん、一緒に歩いている時に後ろからサクッと刺すのもいいが、常に警戒を張っている彼女には俺が剣を抜いた瞬間に気づくだろうな。それにその程度じゃ即死させることはできないので、恐らく刺された後の彼女は反撃をしてきてきっと相打ちになる。

 ―――――どうしたもんかな? というか剣を使っても確定で殺すことができないなんてどんな人間なんだよ。


「とりあえず俺は街の右側に来てみたんだが……」


 俺は門を外からみて右側を探索することになった。左側の方が建物がよりビッシリ建てられていたので、そっちのほうが暗殺しやすいと思ったからだ。なので、クロエルをそっちにやった。


「暗殺するといっても、方法はどうするべきだろうか」


 単に暗殺と言っても色々な方法がある。まず最悪のケースは、何かしらの暗殺が破られてあいつと正面戦闘になった場合だ。もしそんなことになろうもんなら俺は間違いなく負ける。なので、ローリスクハイリターンを何回も繰り返すことにする。そしてそれが駄目なら―――――――まぁ、その時考えよう。

 ――――俺は、あいつからならった魔力操作でバレないように魔法陣を展開させて、街の左側にこっそりと幻惑魔法の罠を仕掛ける。その内容は、〈もしクロエルがこの街の地面を踏んだならば、その街の景色が変わらないように見える〉というものだ。―――――どういうことかと言うと、例えば俺がその状態でクロエルの前に現れたとする。しかし、クロエルは俺が見えない。他にも、風に流されて乗ってきた砂たちが街に入ってきても、クロエルはそれを見ることは出来ないし、翼が生えている恐竜が上からやってきても、クロエルは見えない。つまり、クロエルの視界情報は幻惑魔法の罠にかかった瞬間から更新されなくなるということだ。――――まぁ、百聞は一見にしかずということで―――――。


「いっちょやりますか」


 さっそく引っかかったクロエルの元に俺は足音を出来るだけ消しながら来た道を戻り、広場に行く。あいつは足音にも敏感だろうからな。それに、あいつは見えなくても殺気を感じ取ることは出来るだろうから、近づいて剣で斬るとかは無しだな。

 広場に戻った俺はクロエルが行った方向。街の左側に足を少しだけ踏み入れる。


「…………さぁさぁ。暗殺ショーの始まりといきますか」


 両腕を伸ばし、その後息を大きく吐き体の力を抜く。出来るだけリラックスした状態で暗殺を始めることにした。


「まず最初に試すものは―――――」


 俺は次に大きく息を吸い、腹をパンパンにさせる。そして――――。


「あったぞぉぉおおおおお!!!!」


 街、いや砂漠全体に聞こえる程の声量で叫ぶ。するとその叫びはこだまして、街に響き渡る。


「――――――あいつ聞こえるかな?」


 プランとしては、まずあいつを一旦広場におびき寄せる。そして、広場に来たぐらいのタイミングで近くにある建物を全て殴り崩す。だいたい六個ぐらいの家や鍛冶屋や雑貨屋だ。そして、崩す方向はクロエルが通るこの道だ。広場から左側に行くにはこのゲキ細かつ少し長めの道しかない。その先で分岐している。なので、帰りもこっちを通ってくる。そしてあいつがこの道を通った瞬間に瓦礫を上から落とす。――――――我ながら完璧だ。


 ――――――少しすると、というか数秒後に案の定クロエルはこの道を通ってきた。

 俺は崩す建物の屋根に立っている。しかし、その姿は当然クロエルには見えない。


「―――――今だ!」


 俺は一瞬で足音を立てずに六個の屋根の上を渡り歩き、それぞれ崩していく。すると、崩れた建物は想定通り道方向に崩れていく。だが、当然クロエルは見えないので、あいつは速度を落とすことも、何も気づかずにこの道を通ってきている。

 ――――――暗殺成功だな。

 俺はニヤケ面で崩した建物の隣の家の屋根に立ってクロエルの最期を見送ることにした。

 そして、クロエルが俺の予想して位置に来たその瞬間――――――。



 ――――ドッシャーン!



 完璧。崩れた瓦礫が落ちるその瞬間にその場所にクロエルが来た。まさにベストタイミング!クロエルは崩れた瓦礫の下。今頃体がグシャグシャになっているだろうな。

 思わずガッツポーズをした俺は崩れた瓦礫の元に近づく。もちろん念の為に静かに歩く。だがまぁ、あのクロエルと言えど、この瓦礫の量。ぼちぼちの大きさの家六個分だ。さすがに死んでいる。



 ―――――と、想定していたが現実は違った。



「ふぅ………なんだったんだ。ていうか重!」



 白銀の女が瓦礫の下から出て来た。


「は………?」


 俺は思わず声を出してしまった。そりゃあ声の一つぐらい出るよな。だって、一つの小さな山ぐらいの瓦礫の量だぞ。それに潰されたってのにピンピンしてるなんてあり得ねぇだろ。


「ん? レガン? どこにいる?」


 やっべぇ。バレた。―――――いや落ち着け、あいつに俺の姿は見えない。ならばこのまま――。

 俺は足音を立てずに先程よりも更に静かに忍び足でその場から退散した。―――――――が。


「ん? そこにいるのか?」


 こいつマジかよ。こんな僅かな足音。いや、違ったな。こいつは足音というよりも恐らく―――。


「…………おかしいな。確かに足音の振動があったんだが」


 クロエルは目をつぶり、瓦礫の真ん中で立ち尽くす。

 やっぱりか、こいつは足音というよりも俺が歩くことによって僅かに揺れる地面の振動を感じ取っているのだ。まじでバケモンだな。




 ―――――そして、俺はなんとかその場から退散し、その後何度もクロエルを暗殺しようとあの手この手を試した。落とし穴を作って、その下に家屋にあった刃物を突き立てたりとか外から包丁を投げ飛ばしたりしたが全部破られた。




 ―――――無理じゃねえか。

 今日の俺の心は折れかけていた。

 





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る