第32話 迷宮街 二の三

 ―――――――俺は国家側につくべきだ。


 そう感じた。いや、そう決定した俺は今この瞬間から、やるべき行動を変えた。

 だが、最後に俺はクロエルにある質問をする。


「なぁ、クロエル」


「なんだ?」


「………もし仮に俺を殺すことになってもお前は何も思わないのか?」


「思う思わないはとうでもいいが、とりあえず殺すだろうな」


 即答だった。 



 ――――殺す。その言葉は短くて言いやすいが、実際にそれができるやつはそういない。だが、少ないということはやるやつは殺るということだ。そいつらがこの世界にいる限り、誰も平和にならない。ならばそいつらを全員消してしまえばいいのではないかと思う。

 ――――――――だが、これは難しい。もし仮にとある組織を潰したとしても、残党等がまた、悪の種を作る。そして芽吹いた悪の種をまた刈ろうと、また残党等が悪の種を芽吹かせる。ちなみに残党を潰すことは不可能だ。残党はいくら倒しても無くならない。例えば、アジトを襲撃したとしても、そのアジトから逃げ出すやつもいれば、そもそもそのアジトには今はいないということもある。だから、悪は無くならない。無くせない。


 なら、どうすればいいだろうか? その答えは簡単だ。


 ――――――そもそも人間自体をなくせばいい。

 そうすることで、悪事を働く人間はおろか、悲しいと思う人間すらいない。なので、悲しみも怒りも浮かばない。なんて素晴らしいことだろうか。理想郷の完成だ。


「…………おい。おい!」


「………っは!?」


 クロエルは止まった俺の顔をしたから覗き込んでいる。


「さっきからなにをボーっとしているんだ」


「いや……別に何も…………」


「そうか、なら早く迷宮街に向かうぞ」


 ボーっと………か。どうやら先程から何度も俺に話しかけていたようだ。


「………そうだな」


「……なんだ? 言いたいことがあるなら早く言え」


「 いや、別に何も無い」


「その声と顔はなにかあるだろう」


 俺は自然とテンションが下がっていたらしい。声のトーンも下がっており、顔は暗い。それをクロエルは心配?したように俺に話しかけてくれる。


「いや、大丈夫だ。早く迷宮街に向かおう」


「………ならいいんだが。足は引っ張るなよ」


 クロエルは俺が「大丈夫」と言った瞬間に最後まで話は聞かず、前を見て、迷宮街の方へと歩き出す。

 ―――――というかまたもや偉そうだ。こいつは最初からそうだ。出会った瞬間から俺をゴミクズのように貶した目をする。たまに笑うこともあるが、本当にたまにだ。極稀だ。普段は冷たいというか結果主義の人間というか、とにかく、言葉がきつい。


 ――――――けどまぁいいか。だって――――。



 俺はこの迷宮街でクロエルを暗殺するんだから。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る