第31話 迷宮街 二の二 


 ――――――翌朝。俺達は両者同じ時間帯に起きて、ろくな会話をせずに迷宮街に戻った。

 昨日は俺達はお互いの意見が食い違ったまま特に何も言わず、うざいほど輝いている星空の下、砂浜のベッドで寝た。だから―――――。


「………………」


「………………」


 ―――――ちょっと気まずい。

 クロエルの方を見てもなんとも思ってい無さそうだった。だが、少なくとも俺は違う。まぁ別に何か喧嘩をした訳じゃないので、普通に話しかければいいのだが、なんて話しかけたらいいか分からない。こんなとき、誰か明るい子供でもいれば――――。

 

 しばらくして、そろそろジャングルを抜ける位の所で俺が気まずい空気を味わっている時、クロエルが話しかけてきた。


「……………おい」


「何だ」


 俺は急に話しかけられたものだから少し声が高くなってしまった。


「……………昨日の事だが」


「おう」


「昨日の事は無かった事にしないか?」


「………は?」


 想定外の言葉だった。想定外すぎて、時が一瞬止まってしまい、反応が遅れてしまった。そして俺が足を止めると、少し前にいるクロエルも続けて止まり、こちらを振返って昨日と同じ顔をする。

 …………ていうか、さっきこいつなんて言った?   「無かったこと」って言ったのか? それはつまり―――――。


「あいつの事を忘れろってことか?」


「…………あぁ、忘れるべきだ」


 クロエルは本心と真逆の事を言っているのような顔で、いかにも「私だってこんな事は言いたくないのよ」的な顔をしていた。でも、俺にそんなことは関係ない。関係あるのはこいつの言葉だ。


「………ふざけんなよ。短い間とはいえ一緒に遊んで、飯食って、寝た仲の奴を俺達が殺した。これを忘れるなんてできねぇよ」


「なんのためにだ?」


「は?」


「なんのために忘れないんだ? お前はそうやって、いつまでも過去の事を引きずって、うじうじしているつもりか?」


「…………いや、引きずるとかじゃあなくてさ」


「じゃあなんだ? 今の私達は過去の世界に行って世界を作り直すことがやるべきことだろう。だったらこの事を忘れて、前を向くべきだ」


「………別に忘れなくてもいいじゃねぇか」


 俺は正論を言ったと思う。――――だって別にシャルの事を覚えているからと言ってこれから先なにか不便が―――――。


「これから同じような敵に遭遇して、同じ事がまた起きてもそんなことが言えるのか?」


「……………」


 正論返し。確かに、シャルのような明るい子供だったり、そんな敵がこれから襲いかかって来たらどうするべきだろうか。


「…………それは、さ」


「私はできない。もし次もシャルのような相手が出て来たら、私は真実を知った瞬間斬る。そしてまた忘れる。―――――いいか? この世界において、どれだけ可愛かろうが、明るかろうが、子供だろうが、斬るべき者は斬るべきだ。だからいちいち覚えていたら心が持たない。」


「…………」


 ――――いちいち。そんな言い方はねぇだろ。


「……私だってお前と同じように辛いさ。でも、ここで悩んでいてもどうしようもないんだ。……前に進むんだ」


 ――――前に進む。進むってなんだよ。


「もし、万が一同じような事が起きた時は、馴れ合う前に…………殺す」


 ――――殺す。

 ―――――今更だけど何でそんな簡単に人を殺すんだよ。それじゃあ中央国家の奴らと同じじゃねぇかよ。ぶっちゃけ俺も国家よりの考えではあるけれど、でもお前を応援したい。だから俺も本心を抑えてお前側についているのに、そのお前がそっち側に行くとまた話が変わってくるじゃねぇかよ。



 ――――――――あれ? そういえば俺の本心はどこにあるんだ? 俺は何がしたいんだ?


 俺は何をしたいのかが分からなかった。今までただクロエルを応援したいという事だけでクロエルに味方していた。―――――――だが、ここでようやく気付いた。いや、気付いたというよりもハッキリとさせた。俺は、俺の本当の気持ちは―――――。




 ――――――俺は国家側につくべきだ。


 





 

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