第27話 迷宮街 五

 ――――――俺はこの砂漠のど真ん中でデジャブを感じていた。それは―――――。


「私に良い考えがある」


 何回目だよ。この感じ。どうせあるっていってもないほうのあるだろ?


「……ちなみに聞いていいか?」


 俺はクロエルに少しづつ近寄りながら、小さい声でも多少は聞こえる位置まで歩く。

 すると、だんだんとクロエルの自信満々な顔が見えてきた。


「―――――このまま、まず魔法を打たせる」


「はい、終わり」


 やっぱりだ。もしかすると今回はいい作戦でもあるのかと思った俺が馬鹿だった。

 俺は歩くのを辞め、直立したまま「いつも通りのやつだな」という顔でクロエルを見つめる。


「まぁいいから聞け。――――その後、魔法をくらった私達は死にかけるが、もし生き残れば、あんなに強力な魔法を使うのだから、多少の反動で少し動けなくなったあいつに一気に攻撃することができて―――――」


「却下だよ」


 馬鹿だろホントにこいつ。まずあの魔法をくらった後に、俺達が生き残れるわけがねぇだろ。いや、まだどんな魔法かは分からないけどさ、名前にゴッドって入ってるし、魔力の量も莫大だ。それに今もなお現在進行系で魔力を高めている。


「ねぇねぇ、お兄ちゃん達。もう準備万端? 私そろそろ打ちたくなってきちゃった」


 ――――――シャルは本当にヤバイ奴だった。


「――――というか、この攻撃をくらったくらいで死なないでよね? この程度で終わっちゃったら私泣いちゃうかもなぁ〜」


 泣きたくなるのはこっちだよ。目の前にはエグそうな魔法で、それに立ち向かっているのは何も考えていないことと同じ女。まぁもちろん俺も別に何か作戦があるわけじゃないんだけどさ。――――――まあ、一つだけならあるが…………。

 俺はクロエルよりも少し遠くの位置から、ハキハキとした声で狂人系幼女に話しかける。


「……なぁ、シャル」


「なぁに??」


 だが、どうやら会話をできるくらいにはまだ正気を守っているらしい。良かった。―――――これならギリギリなんとか出来そうだ。たぶん。


「……お前。その魔法、俺に打ってみろよ。そのく……………」


「分かった」


 話を遮って返事をしたシャルは、なんの躊躇いも無く俺に貯めに貯めた魔法をぶつけてきた。それはもう凄く、風、というより世界一硬い岩が正面からぶつかって来たような感じだった。その硬い風は体の至る所に打撃を当てるような風で、しかも風なので、繰り返す打撃をくらいながら、そのまま体が迷宮街の門をぶち壊して遠くまで飛ばされた。そして――――――。


 ――――――ドゴーン!!


 よく分からんデカイ何かにぶつかった。

 ―――――――――――いや、というかはえぇよ!!!もう少し俺の話を聞けよ!!ていうか俺生き残ったんだな。スゲェな俺。―――――――いや、というよりも思ったよりしょぼい魔法だった。というのも、俺の想像ではなんかもっとこう……、上手く説明出来ないけどとりあえずなんかスゲェ魔法が来ると思い込んでいた。


「案外普通だったな」


 俺はすぐ立ち上がった。―――――が、俺はここでようやく、本当の魔法をくらう。


「…………!!」


 ―――――――急に体に力が入らなくなった。というよりも体中の魔力が無くなった、というか飛ばされた気がする。…………まじで力が入らない。

 こうして俺は砂の上に突っ伏したまま何もすることができず、ただただ息をすることしか出来なかった。口も動かない。すると、そこに一人小さな女の子が歩いて来たのが影で分かった。


「お兄ちゃん。今どんな気持ち?」


 シャルの声が聞こえる。だが耳がキーンとして、頭もボーっとしているので、正直あまり聞き取れないし、視界もぼやけている。


「……って言っても聞き取れないよね? 分かんないよね? ごめんねぇ〜。別にお兄ちゃんに恨みは無いんだけどさ、私勝負に関しては手を抜けないたちなの」


 いいキャラしてんじゃねぇか。クロエルが可愛く見えるぜ。

 俺はまったく動かない体をどうにか動かそうと、―――せめてシャルの顔を見ようと動かすもまったく動かない。


「…………」


 「クソっ」すら言えない。


「あっはっはっは! お兄ちゃん頑張ってるねぇ? でも無理をしたら駄目だよ? とりあえず今日はこのままここでお休みだね」


 シャルは笑う。というより嘲笑っている声だった。

 ―――――畜生が。調子に乗りやがって。





 ―――――――だが、俺の勝ちだ。





 





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