第25話 迷宮街 三
裸の俺。
それを見る女と女の子。
「ていうか、お前ら恥ずかしくねぇのかよ」
「脱いでいるのはお前の方だからな。私達は見ているだけだから何も恥ずかしくはないな」
「うんうん。別に私も恥ずかしくないかな」
終わってる。こいつらほんとに女なのか? クロエルはいくら生臭い戦場で育ったとしても、男の核心を見ればさすがに思う所があってもいいはずだ。シャルの方も、いくらエンジェルントといえど、洗脳されていたとしても男と女の境目を見て動揺くらいするだろう。
しかし、俺のそんな思いとは真逆で、二人は―――――。
「………ふっふっふ。というかお前、結構あれなんだな」
「笑っちゃ悪いよ、お姉ちゃん! ………ふ、ふふふふ、……男の価値はそこだけでは決まらないんだよ?」
「いや、済まない。それは分かっているんだがな?だがどうしてもな? 小さすぎてな? …………ふふふふ」
―――――――――二人は笑っていた。こいつ等、俺の子たちを馬鹿にしやがって……。
そう。こいつらは俺の子たちを見て馬鹿にしている。俺の今の格好も大概だが、こいつらもこいつらだ。こいつらはホントに女なのか?
「…………あーもー! じろじろ見てんじゃねぇよ!」
「仕方ないだろう。負けたおまえが悪い」
「そうだよ、お兄ちゃん。私が負けるわけがないよ」
シャルは自分が強いことを自覚しているそうだ。―――――――そして、次にシャルの口から出た言葉は信じられないことだった。
「たぶん、私、お姉ちゃんにも勝てるよ?」
シャルはいつも通りの顔で、いつも通りの声でさも世間の常識かのように話した。
それに対して、クロエルは――――。
「ほーう。だったら次は私とやるか?」
乗っかった。どうやら、第一回最強決定戦が幕を開けるらしい。二人ともお互いをリスペクトしつつも、「絶対に負けない」という顔をしていた。―――――――なんか俺だけ蚊帳の外??
―――――――それでは!!初戦にして決勝!!クロエル対シャルの試合を開始する!!
俺は距離を取った二人を結ぶ直線上の真ん中に立つ。そして、その場から少しづつ離れていき、両手を上方向に広げ、少し見上げて―――――――。
「始め!!!!」
俺の掛け声と同時に二人はその場で魔法陣を展開させる。
「ニア・フューチャリティ・アイ!」
「サウザンドエアカッター!」
二人は同時、いや、少しだけクロエル方が若干早く唱えた。そして、クロエルは唱えた瞬間、シャルに向かって走り始める。しかし、それを邪魔するように辺りの風がクロエルを包み込む。そして――――――。
―――――シャキン!!
「くそ!」
――――――――どうやらクロエルの周りをグルグルと回っている風は触ると、触れた箇所が小刀で斬られたように斬撃に会うらしい。………かっけぇ。
「ふふん。この風は普通の風じゃ無いよ。って言ってももう分かってるよね」
この子、恐ろしい。ついさっきまでは健気な女の子だったのに今は戦う戦士の顔だ。腰に手を置いているその姿は小さな将軍のようだ。
―――しかし、クロエルも負けていないようだ。
「―――――――やるな。だがこの程度じゃ私は止められないぞ」
クロエルは腕を顔の前でクロスして、風の包囲網にぶつかる。――――するとクロエルは斬撃を受けながらも力ずくで包囲網を抜けた。
「―――痛っ」
さすがに痛そうだ。だが、風の檻を抜けたクロエルは先ほどよりも速く走り、――――というより、地面を蹴って地面と平行に飛び、シャルの元に近づく。だが、シャルはこれも予想していたようで次の手を打つ。
「まだまだだよ!次はこれ!――――――――ヘッド・ウインドクロー!」
――――ビュュュュュューーー!!
クロエルと反対方向に風が吹いた。その風はまたもやただの風では無く、先ほどより少し弱い。なのでクロエルはスピードを落としながらもシャルに近づいていく。だが、その風は――――――――。
「さあ、どうするお姉ちゃん!」
「クソ!!先ほどからこの風、……生きている」
生きている? どういうことだ?
「この風。私が早く動こうとすればするほど、動いた部分が爪で引っかかれたように斬られる」
―――――その風は、クロエルが動けば動くほど強い風となる。だがその風は決して動けないほどの強さは無いのでクロエルはシャルに近づこうとする。しかし、向かってくる風と反対の方向に動こうとすると、まるで爪が鋭い恐竜にすれ違いざまに引っ掻かれたような斬撃をくらう。
「……シャル。お前は見た目に反して結構悪趣味だな」
「まあね、これでもエンジェルトだもん」
シャルは褒められたようにえっへんという感じだが別に褒められた訳じゃない。というか寧ろクロエルはシャルに悪い印象を持ったぞ。
「―――――じゃあ、これで終わりかな」
勝ちを確信したシャルはこの勝負を終わらせる体制に入ったようだ。―――――そして両手を恋人つなぎのように合わせ、とある魔法を唱える。
「――――――――ゴッドオブ………ブリーズ」
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