第23話 迷宮街 一


 ―――――俺達は少しの間ジャングルで過ごし、翌朝、再出発した。次の目的地はかつて枯れ果てた砂漠にあった、迷宮街を目指すそうだ。なんでもそこには、ちゃんとした街ながらも迷宮のようになっており、訪れた旅人は迷子になるそうだ。そこで俺達は、迷宮街にも何か聖域があると踏んでそこを目指すことにした。


「…………そろそろ砂漠に出るぞ」


 俺達はジャングルを抜けると、そこには、肌を刺すような日差しと、乾いた風。一面に広がる砂のオンパレード。どれだけ遠くを見ても何も無い砂漠が続いていた。さらに、至る所にごつい見た目をした恐竜達がいた。もちろん今までも恐竜はいたが、ここのやつらは見た目から別格だ。


「あっつ」


「あついよ〜」


 俺とシャルはこのうだるような暑さにさっそく音を上げていた。――――――だが、一人の女だけは違った。


「うん。このくらいなら想定内だな」


 どうやらクロエルは余裕らしい。やっぱり俺やシャルとは踏んできた修羅場の数が違うな。


「お前。暑くないの?」


「このくらい余裕だ。というかむしろお前達は鍛えてなさすぎだ」


 鍛えてどうにかなるもんじゃねぇよ。この脳筋野郎が。




 ――――――数十分後、俺とシャルは暑さにバテながら、だらだら歩いていると、クロエルはその速度に合わせながら歩いてくれている。

 だが、ここである疑問が生じてくる。


「なぁなぁ。そういえばさ、こんな広い砂漠で街一つなんて見つけきれるのか?」


「…………無理だろう」


 …………え? 無理?


「は? なんかあてはないの?」


「無いに決まっているだろう。逆になにかあると思っていたのか?」


「いや、なんかさ、例えば昔はここらへんにあったとかそういうのだよ」


「いや、分かるわけ無いだろ。私も過去の世界でも行ったこと無いんだから」


 えぇぇぇー。無いのかよ。………まぁでも全部が全部をこいつに任せるのは駄目だな。俺も少しは何かしないと。


「ねぇねぇ、お姉ちゃん。歩くよりもさ、一回高く飛んで辺りを見渡した方が良いんじゃない?」


 確かに。クロエルとシャルの身体能力ならそれも可能だ。…………ちなみに俺は無理。


「……じゃあ、ちょっと頼むわ」


「………分かった。いくぞ、シャル」


「うん。……せーのっ!」


 シャルが掛け声をすると、二人は膝を曲げて大きく腕を振り、深くしゃがみ込む。そして、力を解放するように曲げた膝を真っ直ぐにすると、直立下まま二人は天高く飛んで行き、俺から見ると一気に小さくなった。


「うっそーん」


 ――――――想像以上だった。ていうか、これはもはや身体能力でどうにかなるもんなのか?

 ――――そんなこんなでしばらくすると、二人は立った姿勢のまま落ちてきた。


 ――――ズザーン!!


 あんな高さから落ちてきたら砂埃、というか砂嵐は当然巻き上がり、俺も当然巻き込まれた。


「………ゲホッ、ゲホッ」


 口や耳の中に砂が大量に入ってきた。間一髪で目は閉じたが、もし開けていたら完全に失明していた。

 ――――――そして、砂嵐が少し収まり、砂埃程度になった時。少しづつ二人の姿が見え始めた時、中から聞き慣れた声が聞こえた。


「…………あったよ!お兄ちゃん!」


 どうやらあったらしい。よかった。

 ―――続けてクロエルが、報告してきた。


「ここより、少し北の場所になにか街であっただろう跡地が見えた。そこが迷宮街かは分からないが、行ってみる価値はあるだろう」

 

「なるほどな。………よし!向かおう!」


 というわけで、俺達はもう一踏ん張りして、北にある何かを目指した。




 ――――更に数十分後。しばらく歩いていると、何かが見えてきた。


「……あれは」


 俺は目を細め、遠くにあるその何かを見る。そして、俺の目が確認できたものは――――。


「――――街だ」


 街だった。もちろん人の気配はないし、いくつかの家は今にも崩れそうになっているが、あれは街だ。街だったものだ。


「やった〜。見つけたよ〜」


 シャルはウキウキで一番前に出て来て、俺とクロエルの間に入る。そして、俺達青年組の手を引っ張ってきた。はたから見ると、俺達家族みたいだな。見る人いないけど。


「おいおい。そんなにはしゃぐと無駄に疲れるぞ」


「いいもん。だって今楽しいもん」


 ――――あったけぇ。一生この空間が続けばいいのに。


「おい。ここには、遊びに来たわけじゃない。聖域を探すんだ」


 クロエルはこのホンワカした空気に寒波を入れてきた。―――――こいつ、昨日まで大泣きだったくせに調子に乗りやがって。切り替えはえぇよ。

 だが、早く見つけることは賛成だ。一刻も早くこの日差しから解放されたい。


「………まぁ、そうだな。早く見つけて、こんな暑い所さっさと抜けようぜ」




 ―――――――そうして俺達は、廃した街の入り口に着いた。


「近くで見るとスゲェな〜」


 凄かった。それはもう凄かった。入り口の門から見える範囲だけでも、大量の建物だった。さらに、地面が街の中心に行けば行くほど盛り上がっていて、山のようになっている。そして、その山全てに足の踏み場もないくらいの建物があり、その建物はお気持ち程度の細い道に沿って建てられている。中にはもう腐ってしまっている木の家もあるが、石などで作られた家はまだまだ現役だった。


「………凄い凄い!」


 シャルはその場で飛び跳ねてはしゃぐ。そらそうだ、俺だって飛んではしゃぎそうだもん。


「………では、入るか」


 やっぱりクロエルは何も関心が無さそうだ。こいつは特に感想を言うこともなく、淡々と無表情で門を潜ろうとした。そこに俺とシャルはクロエルの後を追うように足を出し、クロエルを真ん中にして、三人同時に街に入った。―――――なんか、懐かしい気分だ。


 ――――――――――だが、入った瞬間、俺達は気付いた。俺達はもう既に―――――――――この街に囚われた事に。


「………この感じ」


「……あぁ、俺もだ。今回は感じた」


「 うん…」


 どうやら三人とも同じ気配を感じたらしい。そして、三人とも同じ事を思っているだろう。


「「 これって………」」


 俺とシャルはクロエルの顔を見る。そして――――――――。




「あぁ、今回はこの迷宮街全体が聖域だ」


 




 





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