第18話 成長
――――――攻め込まれた城はもう終わりだ。城の中に敵がひとりでも入られたら、少しづつ守りが綻びる。ましてや、その敵が大ボスであろうものなら一瞬で終わる。
―――――グルギャアアアアア!
格が違う恐竜は叫ぶ。そして、両足を俺の横すれすれに着地させ、俺はこいつの腹の下ど真ん中にいた。
「なんだ、こいつ」
「こいつ、ほかの奴らとは格が違う」
その恐竜はもはや恐竜と言っていいのか分からない。一見正面から見ると、ただただ大きい恐竜だが、よく見るとその背中には極太の腕が二本生えており、合計四本。さらには顔の半分程度を占める程の口。その口には堅剛な牙が生えており、城なんて数分もあればかみ砕いて飲み込んでしまいそうだ。
「――――ギャオ!」
四本腕の恐竜は叫ぶと同時に魔法陣を展開させ、四つの手を器用に使い、近くの崩れた壁を掴む。
「こいつ、ほんとに恐竜なのか?」
あまりの器用さとすぐには飛びついてこない判断力。これはとてもこの時代の生物とは思えない。
「――――ギャ!」
「やっば」
岩を投げてきた。しかも投げるふりをしたりして、回避した後の俺たちの位置にしっかりと俺たちを狙っている。
「―――あいつなんなんだ。なんの魔法を使うんだ」
「分からない。だが、そんなことを考える前に、とりあえず城から脱出するぞ」
少し離れた場所にいるクロエルは魔力が枯渇しているので、何も出来ない。
「どうやってこの場面を打開すんだよ!」
「……ひとつだけある。方法が」
もう動くことすら困難なクロエルは小さく呟く。
「私がこいつの注意をひく。………あとはわかるな?」
「………お前。まさか」
こいつが何を示唆しているのかはすぐ分かった。それは言葉から読み取ったのではなく、息をするのもつらいがそれをこらえている優しい顔からだ。
「二人とも死ぬより、一人を確実に助けるべきだ。ここで俺とお前も死ねば、我らの目的は永遠に達成されない」
「………」
確かに。俺がここでクロエルをおとりに窓から飛び降りれば、助かる可能性が出てくる。でもそもそも知性を持ったこいつにそんな作戦は聞くのか? そもそもクロエルはどうやっておとりになるんだ? というか、俺よりも彼女が生きた方が目的が達成しやすいのではないか?
―――――いや、そんなことはどうでもいい。何が正しいとか、何をするべきかとかそんなことはどうでもいい。………俺は。
「ここで勝つ」
勝つ。勝ちたい。
―――――――俺は今までクロエルに助けられたり、バラスに見逃してもらったり、仮面から逃げたり、一度も勝てていない。――――――だがここで勝てば、俺の目的、―――自分の本心を打ち殺してもクロエルを助けたいという目的に少しでも近づくんじゃないか?
「……バカ!やめろ!私でも勝てない相手だぞ!お前が……」
クロエルは吐血しながら俺を止める。止めてくれる。その優しさを無下にするの心が痛むが、ここでこいつを見捨てるよりはちょっとはマシかもしれない。―――そして俺はヒーロー気取りで無謀な戦いに挑む。
「一か八か。一発勝負。………いや、だめだ」
一発勝負。俺はどの戦いも思えば入魂一発という感じだった。でっけえ魔法を一、二発うって終わり。―――そんなんじゃ駄目だ。ここで、ここで俺は変わるんだ。
俺は揺れ動く足場で魔法陣を展開させる。
「――――アサシンダガー」
まず二、三発あいつの周りに打ち込む。注意を惹かせるのと、あいつの動く範囲を少しでも削る。
「ウガ?!」
動揺した!あいつはどうやら思ったより賢くはなさそうだし、戦闘経験も無さそうだ。
「―――次にここだ。これを打ち込むんだ」
そして手を前で合わせて、魔法陣を展開させる。
「―――スルトエクスカリバー」
正面から打ち込むのは駄目だ。あいつが言っていた。魔力の操作をイメージするんだ。最初は正面一直線で発射して―――。
「ウガガガガガ?!」
四本腕が正面から来る炎剣に食いついた。その瞬間、この剣を……。
「ここだ!」
炎剣は四つに分離した。そしてそれぞれ右、左、上、下。四つの方向に飛ばす。こうすれば、こいつは……。
「ガウッ!」
四本腕でそれぞれを掴んだ!ここで本命の登場だ!
俺は剣を手に取り、標的に向かって走り、下の炎剣を取った腕を、肩を、首を、顔をつたって、頭の上まで来た。
「これで!終わりだ!」
剣を頭に突き刺すそして、刺したところから噴き出る血に濡らされながら、ある魔法を唱える。
「――――アドバイス・コア・ベスト」
ただ唱えるだけじゃ駄目だ。何の時間を進めるかイメージするんだ。こいつの傷の修復か、筋力の成長か、骨の成長か、―――――今回は。
「老化しろ」
―――――――老化を早める。どんなに強いやつでも年を取ったら死ぬ。あと問題は……。
「俺の魔力が尽きるのが先か!お前の死期が先か!勝負だ!」
―――今までの全てただの場所作り。ここで勝負!
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」
「ガギャアァァァァァァァァァ!!!!!!!!」
「うぉぉぉぉぉぉおおおお!!!!これで!!!!終わりだぁぁぁぁぁぁ!!!!」
魔法陣が強く光る。この時。無我夢中すぎて、自分の魔力量なんて無視していた。
―――――――――そしていくつか時間が経った。そして―――――。
―――――――バタン!
―――――倒れた。
「くっそが………」
倒れた。――――俺が。俺が先に倒れてしまった。こいつの頭から転げ落ちて、床に叩きのめされる。こいつはぴんぴんしてやがる。さっきよりはさすがに疲れているようだが。結局そこまでだった。………畜生。勝てなかった。あんなに工夫したのに。あんなに頑張ったのに。最後まで勝てなかった。俺はこのあとこいつにぐちゃぐちゃにかみ砕かれて飲み込まれて死ぬ。そうなれば、俺の自然治癒はなんの意味もない。くそったれが。
…………あぁ、クロエルの野郎どんな顔してるんだろうな。最後まで勝てなかった俺をどんな顔で見てんだろうな?
俺は最後の力を振り絞ってクロエルを見る。すると――――――。
「………あとは任せろ」
いつものなんの根拠もない自信満々の声がする。
――――――あぁ、こいつ、勝てないと分かって挑むのか。さすがだな。
「何をそんな諦めた顔をしている」
は? こいつすげえな。こんな時でもいつも通りかよ。
「もう私は大丈夫だ。お前が時間を稼いでくれたおかげでだいぶ回復できた。これなら……」
クロエルは一瞬で倒れた俺の元に近づき、剣を取る。その顔はとても清々しい―――。
「これが本物だ」
クロエルは高く飛び、四本腕の頭に着地する。そして―――――。
「アドバイス・コア・ベスト」
そう唱えた瞬間。恐竜は俺の時とは桁違いの早さで年を取り、シワシワになっていく。
「グルギャアアアアアァァァァァァ………………」
四本腕は足から倒れて、地に伏せる。そしてその上には―――――。
「レガン。我らの勝ちだ」
勝った。正確に言えば俺の勝ちではない。だが、俺が勝つために必要だったと思うと、…………。
――――――俺はまたも恒例行事。戦闘後の睡眠に溺れていった。
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