第16話 負けてばかり

 体中から血しぶきを上げている男が一人。闇の中で月の光に照らされており、その姿はまるで、線香花火のようであった。


「うぎゃぁぁぁっぁぁっぁ!!いだい!痛すぎる!」


 レガンは体中の痛みに恨みを持つような声を上げていた。


「――――見苦しいぞ。そんな情けない声上げてないで黙って体の力を抜いて、そのまま横になってろ」


 クロエルはアドバイスする。だが、レガンはそんなことを聞く余裕はない。なので彼女はその様子をただただ傍観していた。


「はぁ………」


「んんん!痛い!もう我慢できない!」


 レガンは抗えない痛みに抗おうとするが抗えない。しかし、レガンの体には最強クラスの回復魔法がかかっているので、一分もすれば、へっちゃらになる。




―――――転げ回ること一分後。


「―――――はぁ、はぁ。地獄の一分だった」


 レガンの顔は生死のラインを超えたような顔をしていた。


「そうか。でも、お前も成長したな。前回瞬殺された時に比べたら中々のものだったぞ」


 クロエルは我が子が育ったかのように、レガンを褒める。


「 けっ!上から言いやがって、どうせ内心俺のことを見下してんだろ?」


 レガンは素直に言葉を受け取れない。なぜならその誉め言葉は二回も負かされた相手からである。


「本当だ。私はお世辞は言わない。良いものはいい。駄目なものはダメ。ちゃんと言ってあげないと、本人のためにもならない」


 ド正論。正論すぎてレガンは何も言えなくなった。


「……………」


 そんな不貞腐れたレガンにクロエルはまた、優しく言葉をかける。


「―――――そんな落ち込むな。別に私に勝てなかったことでお前に何か損があるわけではない。それよりも自分がここまで成長したことを褒めるんだ」


「………損とか得とかじゃねぇんだよ」


 レガンはクロエルに聞こえるか聞こえないかの声量で呟く。それをクロエルは特に何も話すことなく、黙って聞く。


「………損とかそんなことはどうでもいいんだよ。俺はただ、お前に負けた。それが悔しいんだよ。俺はお前にも、仮面にも、バラスにも負けて、ほとんど全部負けてるじゃねぇか!」


 そう。レガンはクロエルと出会ってから、人間との勝負では全て負けている。唯一勝ったのはモブ程度の恐竜だけ。


「……ホントに俺のコピー魔法は強いのか?」


「もちろん強い。だが、使いこなせなければ、なんの意味もない」


 そりゃそうだ。どれだけ強い魔法でも、使う人の魔力が足りなかったり、使い方を間違えれば、そりゃあ弱い。


「……そうか。つまり、俺自身がまだ弱いっていうことか」


「そういうことだ。お前の身体能力はかなり向上はしたが、肝心な魔力の増大や操作が出来ていない」


「魔力の操作? 増大についてはなんとなくイメージはつくんだが、操作っていうのはどういうことだ?」


 レガンの頭の中にはハテナマークが浮かんでいた。魔力を増大させることについては、レガンは何度かの戦闘で思いつきでだが、操作に関しては、まったくイメージすらつかない。


「そうだな、具体的に言えば、魔力操作はどこに魔力を集中させるかとかだな」


 クロエルは学校の先生のような立ち振舞で説明する。


「どこに?」


「魔力を集中させる場所を考えるんだ。例えばお前の先程の短剣であれば、剣先に魔力を集中させて切れ味を鋭くさせるのか、それとも短剣が纏っている炎に集中させて、火力をあげるのか、あるいは魔力の量を調整して、短剣達を操りやすくするとかな」


 クロエルは口と手を使い、レガンがイメージしやすいように説明する。しかし、レガンの顔はまったく理解していなさそうだった。


「おん。ほんで?」


「――――――もういい。とりあえず、今日からまた訓練しつつ、旅をつづけるぞ」


 ――――――説明しても無駄だと思った。


「え? 剣はいいのか?」


「―――よくはない。だが恐らく、聖域を探している間にいずれまた奴らと会うだろう。そのとき、借りは返させてもらう。そうすることにした」


 レガンとの戦いが終わって、冷静になったクロエルは一旦剣は諦めることにした。きっといずれまた仮面達に出会う気がするからである。




 ―――――――だがこのとき二人はまだ知らない。この数日後にこの二人は――。





 ――――――本気のまじで殺しあう敵同士になることを。そして――――。




 もう一生二人は出会うことが無くなることを。




 

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