第15話 第二戦開幕
――――――では、開始!
クロエルとレガンの叫び声と共に、お互いとっていた距離を一瞬にして詰め、レガンの剣はクロエルの首を狙う。そこにクロエルは魔法陣を展開させようとするが、当然剣の方が速いので、初撃を食らわせたのはレガンであった。
「………くそ!かすった!」
レガンの剣は首を斬ることはできず、剣先だけが首を撫でるように触れただけだった。そして、二人とも飛んで、またお互いに距離を取った。
「………お前も私に剣が当てられるようになったとは、成長したな」
初撃を食らったはずなのに、どこか嬉しそうである。クロエルは魔法陣を速攻で展開させようとしたが、それよりも速く剣が来た。
「斬ったと思ったんだけどなぁ〜、まだまだってことか。―――――じゃあ、これならどうかな」
レガンは両手を広げて魔法陣を展開させる。
「さっきと同じでは私には一本も届かないぞ」
一本も届かない。それはつまり、先程と同じ結果になるということだ。
「そうだな、だから少しだけ違う」
レガンの周りには先程と同じ短剣、同じ魔力が纏わられていた。
「――――何が違うんだ。同じ本数、同じ魔力。もっと創意工夫をするんだな」
クロエルはレガンの成長が見られず、少し残念そうだった。だが、レガンの顔は目を瞑りつつも、少し自慢げだった。
「――――確かに、同じだな。魔法は。だが、同じ魔法でもこれは前とは違う」
「そうか。何をいっているか分からんが、とりあえず、――――――終わりだな」
クロエルは手を地面につけ、魔法陣を展開させようとした、―――――その時。
「なんだこの感じ」
膨大な魔力量を感じる。どこから? ―――――――ここからだ。
そして、クロエルは地面からレガンの方へと目を向ける。――――するとそこにはこの世の終のような景色だった。木や草は燃え尽きており、さらに、石は熱さで溶けている。少し遠くの湖もふつふつと蒸発しかけていた。
「どこから来るんだその魔力は」
と、クロエルが言っているのも束の間。なんと、クロエルの鎧は溶け始めていた。
「なっ!鎧が!アッツ!!」
ドロドロに溶けた鎧がクロエルの体に纏わりつく。そうなれば当然、信じられないほどの熱が体に伝わる。そして、皮膚も髪も熱さで少しづつやられていき、このままでは無惨な死を向かえそうであった。
「こいつ、本気で私を殺しに来ているな」
クロエルはまたもや嬉しそうだ。そして、彼女はそれに応えるように大地に触れている手のひらから魔力を開放させた。
「当たり前だ。そうしないとなんの訓練にも勝負にもならないからな。というか俺は一度お前に殺されかけてるし」
レガンは激熱を帯びた短剣達の矛先ををクロエルに向ける。
「――――俺の勝ちだ」
勝利宣言と共に力が抜けたように両手を下げ、短剣達を解き放つ。しかし、その瞬間クロエルも負けず劣らず魔法を使う。
「――――ニア・フューチャリティーアイ」
そう唱えると、クロエルは短剣達の軍勢に突っ込む。
「血迷ったか。らしくないな」
レガンはより勝利を確信した。それもそうだ。武器も持たず、素手の女が二十本近くある剣を裁けるわけがない。当たれば体はズタズタに引き裂かれる。
――――――だが現実は違った。
クロエルの体は襲いかかる剣を時には舞を踊るように避けながら、時には風船を触るような優しい手で裁きながら剣の包囲網を突破し、レガンまで後二メートル程度まで来た。
「―――――甘いな」
立場が逆転してしまった。この間合いではレガンはどうすることもできない。剣を抜こうとしても、手が剣の柄に触れた瞬間、クロエルはレガンをぶっ飛ばすことができる。―――――つまり、レガンの負けだ。
「今回も私だったな」
クロエルはニヤけた面でレガンを見る。レガンは下を向いており、潔く負けを認めていた。
―――――かのように思えた。というより思わせていた。
レガンは顔を上げる。すると、その顔はドキドキしつつも笑っていた。イヤな予感がしたクロエルは注意を払いながらレガンに神速の勢いで近づく。
――――――だが、その時、背後に何かの魔力があること気付いた。クロエルは気になり、背後を見た。
――――――その瞬間。レガンに近づくクロエルの後ろには折れたはずの刃があと数ミリの所まで迫っていた。それは、クロエルによって裁かれた短剣達であり、振り返ったクロエルの目を貫こうとしていた。
だが、クロエルは動じない。なぜなら見えているのだから。――――――――この未来が。
―――――――バッ!
クロエルはもう一度前を向き、ギリギリまでレガンに近づく。そしてレガンの身長二つ分くらいまで飛んだ。――――――すると、短剣達はレガンに突き刺さった。
「うっぎゃああぁぁぁぁ!」
それはもう花火のような美しい血しぶきが、顔から、体から噴き上がった。
レガンは痛すぎて、地面に転がり込み、悶え狂う。
―――――この勝負。クロエル勝利。
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